第19話 種族を超えて
エルフの森に手をいれることになったタクたちに、監視とははっきり言われないが一人のエルフが同行することになる。もしタク達がエルフの掟に反するような行動をすれば報告され処分されるのだろう。
しかし、タクは随所でそのエルフに持ち前のクラフト論を語り、質問攻めし、そして眼の前で繰り広げられる非常識な建築速度、みるみる変化していく町並み、それでいてエルフの琴線に響く見事な作りで文句のつけようもない。
人間なんて短命で粗野で白痴な存在だと伝え聞いていたそのエルフは自らの価値観が一気にひっくり返ってしまった。
結果としてエルフとして初めてのタクの信奉者となるのであった。
「タク様! お話していた我が国最高の木工術者との面会機会を作りました!」
「本当!? ありがとうディルさん!」
「1週間ほどタク様の技術の話をしたら快く応じてくれました!
明日の朝フェザリンドの工房でお待ちしております」
「ありがとー、よーし張り切って残りの仕事終わらせるぞ!」
エルフの中でも木工技術は工房に属して長い時間技術を磨いていようやく職人を名乗れる非常に名誉ある仕事となっているために技術の高い工房の場合エルフであっても中に入れてもらえないことが多い、エルフの長い歴史でも特に優れた工房に所属している人物が人間なんかと会うことはプライドが許さない。ディルはそんなエルフ職人達の気質を理解したうえで自分が見た奇跡のような数々の出来事を語ることで、抵抗する心をへし折った。何を言っても無駄だと相手に思わせ、仕方がないから一度会うことにして終わりにしようと思っていた。
その会う人間はディルよりも変人である可能性を考慮ししていなかった職人の迂闊さが、彼を沼へと引きずり込むことになる。
「はじめましてタクと申します。エルフの方々の木工技術は本当に素晴らしいです! 生きている樹を加工してもそのまま生きている、あのような加工具術を考える人達は天才です! さらに造形も素晴らしい、エリシュが言っていましたが、自然と精霊が好むような流れや空気が底を流れると精霊が好む唄のような音がするような緻密な細工がされていると、特に私が感銘を受けたのは王城の廊下32番目の右の柱の中腹にあるサレスの花の花弁の造形でアレは奇跡的な美しさを放っており一目で心を奪われてしまいまして、私もまだまだ拙い腕で恥ずかしいのですが、一生懸命今回職人の方と出会えると聞いて作品をいくつか見ていただきたいと思いましてお持ちしました。まずこちらが……」
止まること無く話し続けるタクと机の上に並べられていく彼の作品。
あまりの勢いに引いていた職人だったが、その並べられる作品を見るうちに少しづつその作品から目を離せなくなっていく。
「これは、どうして、この文様を?」
「はい!! この国ある様ざまな作品を見させていただき自己流で考えてみました!
エリシュにも話を聞きましたので、皆様のような積み上げられた外連味のようなものが無くお見せするのがお恥ずかしいのですが……」
プロの職人相手だと妙に丁寧になるタクの癖。
「いや、これは、素晴らしい。この流れを出すのがどれほど難しいのか、我々は知っています。これを、人間、タク殿が……ディル、すまないけど親方を呼んでくれウダルが呼んでいると」
「かしこまりました」
それからも技術者同士の熱い語らいは続いていく、親方が来てからはタクも舞い上がりより一層話に熱がこもっていく。
「これほどの技術を人間が……俺の弟子にもこれほどの腕があるやつはそうはいねぇぞ……」
「そ、そんな事を言っていただけるなんて……う、嬉しいです!」
「しかし、話を聞けば俺らよりも深く理解している面もある、感覚で理解していたことが言葉で表されて……これからはより深い世界に入れそうだ」
「親方、俺も、ようやく見えるようになりました」
「……タク、いやタク殿。これらの話俺等が利用しても良いのかい?」
「ええ、ええ、もちろんですもちろんです!」
「すまねぇな、逆に借りができた。俺達エルフ木工師を変わって礼を言う」
「これからも素晴らしいものづくりを応援させていただきます!」
「ああ、期待に応えるよう頑張らせてもらう、俺もまだまだ頑張らねぇとな!」
「親方!」
エルフ界にもタクのクラフト魂が火をつけていくことになる。
こうしてタクとエルフの技術者との面会は大成功に終わる。
この出会いが後の世に精霊工学という学問を産み出すはじめの一歩になったことを今のタク達は知ることはないのであった。
その後タクはエルフの親方に聞いた話を取り入れ素晴らしい木工技術を取り入れさらにエルフの国を安全で豊かな国へと変えていくのであった。
そして、人間エルフの共同生活圏が広がっていく中、その最前線にいるタクと巨大な魔物の集団とがついにぶつかり合う事となる。
「これは凄いな」
「た、タク様……すぐに女王陛下に連絡を」
「そうだね、一旦ディルさんは戻ってもらおうか」
ディルはゴーレムにまたがってこの情報を正確に伝えてもらうことにする。すでに通信で概要は伝えてはあるが、実際のスケール感は目で見た情報を伝えてもらったほうが良いとの判断だ。
「おぞましいですな」
「まぁ、素材だと思えばまとまってくれてて助かるよ、アレの試験にも良いかなって」
「そうですね、今5名を呼び出しておりますので」
「さてさて、どうなるかね」
タクはワクワクしていた。
精霊力という魔力と異なる新たな力を利用した新機軸のゴーレムの実践実験の場が目の前に広がる魔物たちによって提供されてくれたことに感謝していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます