第5話 英雄譚始動
「寒っ……」
「な、こ、これは……?」
「ま、ま、まさか全て……」
「今回攻めてきた素材です」
タクが村の中央に作った巨大な倉庫、内部は極寒の冷凍庫になっている。
すでに大量の肉類や素材が積み上げられている。
そこに自分が使うであろう素材を残して今回の戦いで得た残りを展開してく。
希少な魔物の素材が完全に分けられて大量に積み重ねられる様は異様な光景だと4人には映る。村人はもう慣れたが、はじめは眼の前で起こることが理解できず立ち尽くした。
「く、空間魔法……? いや、こんなにも大量の保管なんて聞いたこともない」
「はぁ……」
タクはクソでかため息をつく。何度この説明をすればいいのか……
「体内の魔力を使うんではなくて、大気中のマナを利用しているのですわ」
しかし、タクの代わりに口を開くものがいた。
「タク様、後の説明はいたしておきますわ」
「ああ、エリーザ頼む」
「お任せください」
赤毛の可愛らしい少女。彼女の名はエリーザ。この村で一番のタクフリークだ。
タクがもたらした村への恩恵によって変化した自身の生活、食に困ることも魔物に怯えることもなくなり、今では衣服に気を使う余裕まで出てきた。
その全てを与えてくれたのは周りにいる口うるさく働けと繰り返した大人たちではなくタクだった。
そうして彼女はすっかりタクに酔狂していた。それこそ、彼女にとってタクは上のような存在となっている。タクの邪魔にならないようにタクの言葉に耳を傾け、クラフトへの理解を深めようと努力していた。タクはクラフトの会話に関しては饒舌なので、この村で唯一クラフト話できるエリーザのことは珍しくプラス査定がついている。
タクはそのまま倉庫を出て作業へと戻っていく。
「お初にお目にかかりますアナスタシア姫、私エリーザがタク様に変わりましてご質問にお答えいたしますわ。あのお方の時間を奪うことは人類の損失でありますわ」
「……これらの素材、本当に一人であの魔物の群れを?」
「間違いないと思いますわ。以前にも村が襲われたときタク様はあの防壁を作り迫りくる魔物たちを全て退けてくださりましたわ。我々の生活はあの瞬間からタク様のお陰で一変いたしましたわ!!」
「素晴らしいお方なのですね」
「そうですわ!! あの方は神様が我々に使わせてくださった英雄!!
我々を救ってくださるのはあの方なのですわ!
なので、タク様のお時間を奪うのは人間の損失なのですわ」
少し棘のある言い方で演説を締めた。
「言葉が過ぎるのではないか? アナスタシア姫は時間を奪うために……」
「いいのです、結果として我々はタク様のお時間を奪っていたのでしょう。
エリーザさん、タク様に伝えることができればご無礼を謝罪すると」
「姫様、お顔をお上げください!」
「確かに承りましたわ」
エリーザは満足そうに微笑んだ。彼女にとってなんの救いもしてくれない形だけの王族よりも救世主であるタクのほうが上。それを確認できたことに満足をしたのだ。そして、アナスタシアに付き従う者たちはそれを理解していたからこそ悔しい思いを胸に抱いた。しかし、それを今、エリーザにぶつけることは決してしてはならないことだった。主が下げた頭がそれを意味していた。
「タク様は、この国を救ってくださるのでしょうか?」
「わかりませんわ。タク様の行動はタク様にしか決められませんわ。
たとえ王国の方が命令しても、むしろそのようなことをすれば我々を見限ってどこかへ行ってしまわれるかもしれませんわ。タク様が求めるものは未知のもの造りですから」
「もの造り……」
「タク様がお作りになった様々なものを見ていただければわかると思いますわ。
ご案内いたしますわ、どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。さ、皆さん行きましょう。
我々には知らないければいけないことがたくさんあるようです」
主の意志の強さの現れた言葉に彼女らの惨めさは吹き飛ばされた思いだった。
アナスタシアは賢い姫だった。そして、胸に熱い想いも秘めていた。
タクという存在、それが彼女の長年の心の茨を解き放ってくれる可能性に彼女の心は燃えていた。侮辱を感じて悔しがる時間も彼女には必要ないのだった。
「まずこれがタク様の初めての奇跡、村を守る鉄壁の盾にして剣ですわ!」
村を守る巨大な壁、現在上部に登り周囲を見渡す見張り台も兼ねている。
自動化された対魔物の魔導機構により定期的に周囲から溢れてくる魔物を撃ち抜いて素材を回収し続けている。
「な、なんということだ……なぜ魔導機構が魔力の供給なしに、マナ、そうだ!
マナとはいったい!?」
「タク様いわく、魔力の根源、そして魔素も元々はマナから生まれるものだそうですわ。タク様は魔素を集めて魔石へとなし様々な魔道具の動力として利用する術を持っていらっしゃいますわ。地下を見ればその真髄を理解できますわ!」
それから一行は地下採掘施設へと潜っていく。魔道具によるエレベーターで深い地下まで降りていく。
上部から外気を取り込む仕組みになっており、空気は清浄され温度も管理されている。交叉したいくつもの未知が地下に広がり、そして全て完全に舗装されている。
「な、なんという……」
「ここから産み出される大量の鉱物資源も全てタク様が管理しておりますわ。
余剰物資はいくらでも利用することができますわ。
我々の生活の全てをタク様が豊かにしてくださいましたわ!」
「ゴーレム……すでに失われた文明の……」
「す、すごすぎます……姫様、これはもう、夢物語のようです」
「ええ、ですが、現実としてタク様のお力です。
この力、どうか我々にお力添えをしていただきましょう。
私、決めました。タク様にお願いいたします。
それはよろしいのですよねエリーザさん?」
「もちろん、タク様がやるといえば私達が口出しすることではありませんわ」
「……なんとしても、この国、この世界に残された最後の国の王族としてタク様の協力を勝ち取って見せる! それが私が王族として生まれた意義!」
アナスタシアは覚悟した。
第3王女として今まで幾度となく悔し涙を流して、それでも国を、世界を救うために動き続けていたことは、全てこの機会のためだったと確信していた。
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