第4話 前線砦
タクが戻る頃にはすでに防衛設備が完成していて、今は左右へと防壁を伸ばし、堀を作成する段階に移っていた。
「いずれはここからも採掘場を貼り巡る。そのためにも魔石は大量に欲しい」
眼の前に広がる魔物の群れも、巨大な魔獣もタクの目には素材の山に見える。新たな魔物から得られる素材の組み合わせで生まれるまだ見ぬ素材に胸が沸き立つ。
「今回は大型の魔獣がいるからこの間の投石機関だけだと厳しいかもな……
発掘で得た鉱石類と属性石による簡易魔法装置も用意するか」
銅、鉄などの鉱石に朱雀石、玄武石、青龍石、白虎石、黄龍石、麒麟石、蚩尤石などの属性石をクラフトすることで打ち出すことで魔法を発現させる魔法弾を作り出すことが出来る。単純な石の塊を打ち出す投石機関も速度と質量を大きくすればどこでも汎用性は高いが、強力な防御力を持つ魔獣や魔法を扱う高位の魔物には効果が薄くなる。そこでタクは使い捨ての魔法で対応する。複数属性がランダムで打ち込まれる魔法の雨に対応するのは、非常に困難だ。魔法に対応しすぎれば単純な石礫が刺さる。単純だが、これほどの規模で実行されると対応が困難になる。
「
魔物の群れが眼下に迫るとタクは機構を発動させる。
降り注ぐ石の銃弾と魔法、火球、水の槍、風の刃、光線、闇の牙。
魔法としては初歩の初歩魔法だが、とにかく数が多い。
「周囲のマナが一気に薄くなった……ってことで実行」
倒された魔物が回収され分離され、魔素が抽出される。魔素を凝縮し魔石となり魔力の供給源として利用する。それらの施設を壁の内側にリアルタイムで構成して行く。そして魔力を各機構へと流していく、それらの動線を綺麗に整えるのもクラフターの腕の見せ所だ。
「いい流れだ」
きれいに動く動線は美しい、それがずらりと並んで効果的に働いているのを見るのはクラフターにとって気持ちがいい瞬間だ。
壁の向こうでは魔物たちが悲鳴を上げる暇もなく打倒されていく。
タクはゆっくりと壁に登り、その様を見下ろしている。
すでに興味は集められた素材の合成にしか向いていない。
巨大な魔獣も必死に味方の魔物を踏みつけながら進もうとしているが、雨あられのように降り注ぐ魔法によって絶命していく。
ずらりと並ぶ魔獣の素材を様々な素材と組み合わしていく。
埋められていくリストを見るのが、もう一つの愉悦の時間だ。
「ふふ、この組み合わせでこの順番、ああ、このタイミングでやらないとだめなんだよね……」
素材の合成も簡単ではない。配合比率、加工手段、順番、環境設定など様々な要因が合成の合否に絡んでくる。完全な手作業で行うなら専用の研究所を使って年単位の研究が必要になるが、タクはハジメが行ってきた膨大な試行錯誤の知識と経験により合成を行っていく。未知の素材であっても、それらの知識と経験が正解に近い方法を導き出している。微調整は必要だがそれでも普通の人間では考えられない速度で合成処理を行い、各素材をインベントリに綺麗に振り分けていく。自らが作ったものはリストとして登録していくので、必要がなくても大量の剣や鎧がとりあえず一揃えインベントリ内には存在する。一度作れば興味はないので定期的に村に撒いている。村人たちはそれらを利用して周囲の森で動物などの狩りなどに利用したり、街との商材として使用している。
「おっと、そろそろ出力調整しないと魔石を全部使っちゃうな」
眼の前の魔物たちの勢いが落ちてきている。そう、タクが合成に勤しんでいるうちに魔物たちはタク一人によって蹂躙されてしまったのだ。
戦いは終わった。すでに魔物の姿は無い。死体さえも全て回収され、文字通り何も残っていない。そしてタクは手に入れた魔石でゴーレムをクラフトして堀部分から直下へと地下資材回収地の構築に手を付け始めている。
魔物たちは過去の経験から油断していたことは間違いない。
人間はただ蹂躙する相手でしかなく、残り少ない人間を遊ぶように滅ぼすだけと考えていただろう。しかし、現実はタクという異次元の存在によってひっくり返されてしまった……
タクにその気は無くとも、間違いなく、人間側の反撃の狼煙が勝手に上がっていた。
「タク様、お、王族の方がいらしておりタク様とお話したいと」
「え、いや、俺忙しいから。適当に相手しておいて、なんか必要なら皆が良ければ持ってってもらって良いから」
「いや、その、お願いします! どうか、どうか……!!」
「……はぁ、わかったよ……」
村に帰って来たタクに村の偉い人たちがずらりと並んで嘆願してきた。
タクにとっては何ら興味を持てない問題だが、自分よりもずっとお偉方だった年寄りたちが不安そうに頭を下げているのを見て、なんだか自分が悪いことをしているような気持ちになってしまって時間を割くことにした。魔石を大量に手にいれることが出来て、新たな素材も多く見つけられて少しだけ気分が良かったというのも大きい。
「タク様、この度は命を救っていただきありがとうございました」
「気にしなくていいです。もう行っていいですか?」
「き、貴様姫様になんという……!」
村で一番立派な村長の家、その応接間に行くと4人が待っていた。
中央に白い上品なドレスを着た美しい金髪が目を引く華麗な女性、優しげな微笑みが育ちの良さを表しており、間違いなくこの人が王族であろうと一目でわかる。
その脇にはメイド服を着た女性、歳は姫より少し上といったところか、一歩下がって控えている、王族付きのメイドだけ合って容姿は優れており村にいれば衆目を集めることは間違いない。
左右に控えるのが今タクに異議を唱えた騎士風の鎧に身を包んだ女騎士。
タクよりも長身で鍛え上げられた肉体は美貌も合わせて美しさを感じる。
もう一人の女性は少し線が細いが明らかに只者ではない目線でタクを含めた室内に注意を払っている。中性的な美しい顔立ちをしており言葉にはしていないが、タクの発言に不快感は感じているのは腰の剣にかけた腕でわかる。
「よしなさいミレーナ、ノエリア。二人にとっても命の恩人であるはずです。
無礼は許しません」
「大変失礼いたしました。タク様、この命を救っていただき、なによりこの国に残された最後の希望、アナスタシア姫をお救いいただいたこと感謝してもしきれません」
「同じく、貴方様のなさった偉業は言葉では言い尽くせません」
「姫様の側仕えをしておりますレシスと申します。
私もタクさまに命を救われました。本当にありがとうございます」
全員が深々と頭を下げてくる。
内心早く終わってくれないかと思っていたタクだが、同じような不毛な争いを起こすほうが時間の無駄と考えその礼には応じる。
「本当にお気になさらず。自分は自分のやりたいことをしているだけなんで」
「時にタク様、大量の魔物が襲ってきたはずですが……?」
「ああ、アレはもう処理しました。あ、素材とか提供したほうが良いですか?
倉庫に突っ込んどくんで適当に持って帰ってください」
「お、お待ち下さい! あ、あの群れはいくつもの村々を飲み込んだ悪夢の群れ、それを、処理した?」
「……見てもらったほうが早いと思うので、ちょっと外に付き合っていただいてもいいっすか?」
「え、ええ。もちろんです」
タクは足早に部屋を出て外に向かう。4人は困惑しながらそれについていくしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます