第10話 〜あかり〜
俺は元々そこまで酒は強くないのだが、初めの内はなんとかあかりに食らいついて飲んでいた。
しかし、まなみがザルと評するあかりは相当なもので…どんどん空き缶を量産して行くにも関わらず、顔色一つ変えずにケロッとしている。
対して俺は、一時間もしない内にダウンしてしまい…文字通りパタリと倒れ込んでしまった–––。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
–––どのぐらい時間が経ったんだろうか?不意に目を覚まし起きあがろうとするが–––頭の痛みに堪えられず、また元の位置に頭を戻してしまう。
(うぅ、下手にあかりと張り合って飲むんじゃなかったな…。それにしてもこの枕で、柔らかくてあったかくて–––凄く落ち着くな)
俺は目の前の枕に更に頭を埋めると、小さく女性の悲鳴が聞こえてくる。
『ひゃあっ!和樹、そんなに動いたらくすぐったいよっ』
…ん?あかり?もしかして今俺が枕だと思っていたのは––––。
『ほら、まだ頭痛いでしょ?無理しないでもう少し休んでなさいよ』
枕は枕でもあかりの膝枕だったらしい–––。視線を上に向けると心配そうなあかりの表情が見える。
あかりはあれだけ飲んだからなのか、頬がほんのりと紅く染まっていた。それに湯上がり後のため、浴衣姿で髪もアップにしてありいつもと違う雰囲気に思わずドキッとしてしまう。
「つい飲み過ぎたみたいだ…迷惑かけてごめんな?」
俺はそんな心情を誤魔化すかのように謝罪を告げる。勿論悪いとは思っているのだけれど。
『ううん、私だって和樹とこうやって二人でお酒飲めるなんて思わなかったから…ついつい沢山呑んじゃったしね』
そこまではあどけなく笑っていたあかりだったが、ふと雰囲気が変わった–––。
『ねぇ、和樹。そのままでいいから、ちょっとだけ昔の話をするね?』
「…ああ」
それからゆっくりとあかりは語り出す。
『私たち、小さい頃はずっと一緒に居たよね。お家が隣同士で一緒に遊ぶようになってから、幼稚園でも小学校でも一緒。私は何かと和樹にくっついてたもんね?』
「確かに…そうだったな」
『私は和樹とずっと一緒に居る、って無意識に思い込んでた。和樹も一緒に居続けてくれたから、それに胡座をかいて和樹の事を幼馴染としてしか見ていなかった–––』
「あかり……」
まだ頭痛はするが、あかりの話を聞いている内に少しずつ酔いが醒めてくる。
『今でも考えるの。あの時、先輩からの告白を受け入れてなければ、今と全然違っていたのかなって。和樹の隣に居たのはまなみじゃなくって…私はだったんじゃないかって。今更どうしようもない事ばかり考えちゃうの』
あかりの独白に俺は黙って耳を傾けていた。あかりも…辛かったんだろうな。
『でも実際、私は先輩と付き合い始めてしまって…結果的には和樹も先輩も、そしてまなみの事も傷付けてしまった。まなみ自身は私に酷い事をした…って言うけど、どう考えても私の自業自得だったしね』
話しながら俺の頬に手を伸ばしてくる。冷え症のあかりの手が少しヒンヤリしていて気持ち良い。
そんな様子の俺を見てクスッと笑うあかりは、尚も話を続けた–––。
『和樹と初めてエッチして、次の日も…そして和樹と離れてからようやく気付いたの。私は和樹の事がずっと––––好きだったんだって。ううん、違う。今も和樹を好きなの』
真剣な眼差しを向けて来る幼馴染から俺も目を離せなかった。もう酔いは–––すっかり醒めてしまっていた。
『こんなの、まなみと和樹の優しさにつけ込む酷い事だって分かってる!でも、どうしても自分の気持ちを誤魔化し切れなくなって…』
そこまであかりが言った後、俺はなんとか身体を起こし真正面からあかりを見据えて、俺の答えを返す–––。
「あかり…ありがとう。あかりの気持ちを聞けて素直に嬉しいと思ってる。俺だって大好きな幼馴染がこんなに綺麗に魅力的になって、俺を好きって言ってくれて。初めてシた時の事を今でも思い出せるぐらい、記憶に刷り込まれていて–––。
だけどさ…どれだけあかりに女としての魅力を感じていたとしても、今の俺にはまなみが–––そして子供たちがいる。だからその気持ちに応える事は出来ない」
俺の答えを聞いたあかりは、ふぅっと大きく息を吐く。
『そっか…うん。そう言うのは分かってたよ。なんだか昔と立場が逆だね?あの時は和樹が告白してくれて、私は先輩と付き合ってるからって断って–––。
でも…断った上で、私が二人と距離を取って欲しくないんだったら。せめて私とエッチしてくれないかな–––?』
「あかり–––それは…」
過去に俺が「付き合えないのに束縛もやめないって言うんなら…せめてヤらせろよ!」なんて言ったセリフを覚えていたのか?
思わず苦笑する俺にあかりは、お願いを続ける。このお願いがあかりにとって、この旅行での一番の目的だったのかもしれない…。
『ずっとじゃなくていいの。まなみが許してくれた、今日一日だけでいい。私にも和樹の子供が––––––欲しい』
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