第9話 温泉とお酒と日記と
散歩の後、一旦旅館の客室へと戻る。少し汗をかいたのと夕食まではまだ時間もあるため、一度温泉に浸かってこようという話になった。
『家族風呂みたいなのがあれば、借りて和樹と一緒に入れたのにね?残念』
あかりの誘惑とも取れる発言は続いており、実際どこまで本気で言ってるのか俺にもよく分からなかった。
風呂で身体を洗い、湯船に浸かっている間も気付けばあかりの事ばかり考えていた–––。
まなみや子供達を悲しませるような事はしたくないと思ってはいても…変な想像が働いてしまい俺の聞かん坊が元気になってしまい、なかなかお湯から上がれなくなってしまう。
なんとかのぼせる前には上がって、予め時間を決めていたあかりと合流した。髪は時間がかかるので後から洗う予定らしい。俺たちは売店を見て回ったり、卓球をしたりと二人で楽しんだ。
夕食は広い会場でのバイキング。地元の名産や鮮度の良いお刺身、焼きたてのステーキ、揚げたての天ぷらなど盛り沢山だった。
俺もあかりもついつい箸が進んでしまい、一時間もしないうちにお腹がパンパンになってしまうぐらい食べてしまった。
『う〜、凄く美味しかったけど、体重計乗るのが怖いよ…』
「俺もちょっと苦しくてすぐには動けないな…部屋で少し休んでから風呂に行くか」
『うん、そうしよ…』
夕食の会場から客室に戻ると、和室の畳の中央付近に布団が二組並べられてあった。仲居さんが気を利かせたつもりなんだろうが…。
(でもまぁ俺たちぐらいの年代の男女が温泉泊まりに来たら、そりゃあそう思うよなぁ–––)
俺たちはお腹が落ち着くまで部屋でテレビを見ながら寛ぎ、もう一度風呂へと向かった。
あかりは髪を洗って乾かす事も含めると一時間以上はかかるとの事なので、今回は俺が先に部屋に戻ってるという話をしていた。
だけど俺は入浴を終えた後に、閉まる前の売店でアルコール類を大量に仕入れておいた。
部屋に戻って来たあかりは、テーブルの上に並べておいたお酒を見て目を輝かせる。
『わっ、これ和樹が買って来てくれたの?ふふっ、考えてみればお互いとっくに成人してるのに二人で飲んだ事って無かったもんね』
「言われて見ればそうだな…あかりは何飲む?」
『私も最初はビールでいいよ。最近結構飲めるようになって来たんだよね』
「へぇ、そうなのか?まなみは全然ダメで、甘いカクテル系以外からっきしなのに」
姉妹でも随分と差があるものなんだな。まぁこの姉妹は似てる所も無くはないが、見た目のタイプも性格も全然違う。ただ二人とも俺の事を好きになるだなんて、小さい頃は考えもしなかったが–––。
『じゃあ折角だし乾杯しよ?』
「ああ、乾杯!」
『乾杯!』
缶を合わせた後、一気にビールを呷る。風呂上がりのキンキンに冷えたビールは堪らないよな?
ただ…隣を見ると500ml缶のビールを既に一本空けて、二本目に手をつけようとするあかりが居た。
(そういやまなみが『お姉ちゃんと飲む時があったら気をつけてね?あの人ザルだから』って前に言ってたのを完全に忘れてた–––)
しかし俺も負けじとまだ残っていたビールを飲み干し、二缶目に手をつける。ある意味での夜の対決がここに開幕を告げるのであった–––。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(side:まなみ)
『お姉ちゃんたち、今頃何してるかな?和兄ぃはお姉ちゃんにお酒飲ませてなきゃいいけど…』
私は部屋で一人呟きながら、ペンを動かしていた。ここ数年、毎日は書けていないが昔から付けていた日記帳。
最近は和兄ぃとお姉ちゃん、あずみ、それから和馬の事を書く事が殆どだ。
私の机の秘密の仕掛けと共に隠された日記帳は、既にかなりの数に及んでいるけれど…その一冊がようやく最後のページまで埋まった。
今日まで書いていたこの日記帳には、とある願い事が裏表紙の裏側に記されている。
『この日記帳が最後まで埋まったら、お姉ちゃんが幸せになりますように』
過去に私が姉に対してした事が消える事は無い。それでも私はお姉ちゃんに自分の幸せを見つけて欲しいと、心から願っている–––。
三人の絆をこれからも紡げるようにと提案した、和兄ぃとお姉ちゃんの温泉宿への宿泊。過去に二人がしでかした事を考えれば、何も無いとも考えづらいし、必ずしも吉と出るかも本当の所は何とも言えない。
私としても色んな想いはある中で二人を送り出したけれど…後はなるようにしかならないだろう。
(お姉ちゃんには幸せになって欲しいけど……願わくば、和兄ぃや私にとっても幸せな未来でありますように–––)
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