第10話 妹として(side:まなみ)

 今、私はお姉ちゃんに対して本気で怒っていた。他でもない、大好きな和兄ぃをよりによって私のお姉ちゃんが傷付けている–––その事が許せなかった。


『お姉ちゃんが恋愛感情に疎いのは仕方ないかもしれない。だからといって、知らずに人を傷付けて良いわけじゃないんだよ?和兄ぃも、その先輩も傷付けるような事をして…』


『私が二人を…?』


『そうだよ。自覚が無かったのかもしれないけど、お姉ちゃんって相手の気持ちを考えないよね?例えば先輩が告白してきたのは、お姉ちゃんが好きで特別な関係になりたかったから。和兄ぃと一緒に居たいならちゃんと断るべきだったんだよ』


『うっ…』


『周りから見たらお姉ちゃんがしてる事って、浮気以外の何物でもないからね?それで自分から相手の事を振ろうだなんて、人としてどうかと思うよ』


「ま、まなみ?それぐらいで…」


『和兄ぃ、止めないで。今まで和兄ぃがお姉ちゃんを甘やかし過ぎた結果がこの状況なの。お姉ちゃんの事を思って強く言えないんだったら…大人しくしてて?』


「………すまん」


 妹として、家族として。他でもない、私だからこそお姉ちゃんに言わないといけないんだ。


『そしてお姉ちゃんは1番大切なはずの和兄ぃまで傷付けた。お姉ちゃんに一度振られて、望みが無いと分かっているのに傍にいるなんて拷問だよ…』


『ずっと傍に居なかったまなみが、私より和樹の気持ちを分かるっていうの…?』


『分かるよ–––だって小学校の頃に和兄ぃとお姉ちゃんと距離を空けたのは、和兄ぃの事を諦めるためだったから。お姉ちゃんだったら和兄ぃを任せられると思っていたのに…』


『そ、そんな…』


『今は身を引いてしまった自分が情けないし悔しいと思ってる…でもこれからは、和兄ぃを私が守るの。これ以上、お姉ちゃんに和兄ぃを傷付けさせないから!』


『あ…あぁぁ…か、和樹?』


 すがるような目で和兄ぃを見るお姉ちゃん。でも和兄ぃはお姉ちゃんを慰めるのを必死に我慢し、俯きながら目を合わせないようにしていた。


『………っっ!』


 耐えきれなくなったお姉ちゃんは勢い良く立ち上がり、私の部屋から飛び出して行った。お姉ちゃん、泣いてたな…。


『和兄ぃ…お姉ちゃんを追いかけなくていいの…?』


「まなみがあそこまで言ってくれたんだ…1人になって考える時間が必要だろうしな。それにあかりも心配だけど、目の前で泣いてる女の子を放っていけないだろ?」


『えっ…?ぐすっ…私、泣いてたんだ…?おかしいなぁ–––』


 自分が泣いてる事にすら気付いていなかった私を、和兄ぃはそっと抱き締めてくれた。


「本当は全部俺があかりに言わないといけなかったのに…本当にごめんな。それとありがとう、俺のためにあれだけ言ってくれて…嬉しかった」


『うぅぅっ…ぐすっ、うわあぁぁぁんっ!わ、私っ、お姉ちゃんにあんなに酷い事を言っちゃった。ひぐぅっ…お姉ちゃん、ごめん、本当にごめんなさいっ…』


「まなみだってあかりの事が大好きなのに…全部俺が悪いんだ。まなみは悪くない。それに、あかりだっていつか分かってくれるさ–––」


 私が泣き止むまで和兄ぃは抱き締めながら頭を優しく撫でてくれた。


『和兄ぃもごめんなさい…お姉ちゃんと距離を空けるのに、関係を修復出来ない程にしてしまって…』


「…これで良かったんだよ。俺もあかりも幼馴染の呪縛から逃れられたんだって、そう思う事にする。でもいつかきちんとあかりに謝らないとな」


『うん…私もお姉ちゃんにちゃんと謝りたい…』


 気持ちが落ち着いてくると、未だに和兄ぃに抱き締められたままな事に気付く。冷静になると恥ずかしいな…。


『ね、ねぇ和兄ぃ?その…私ももう落ち着いたから…』


「ああ。でも悪い、もう少しだけこのままでもいいか?」


『えっ?も、もう…しょうがないなぁ…』


 イヤじゃないよ、って素直に言えない私。まぁ和兄ぃは私の気持ちを既に知っちゃってるけどさ。


「俺、今ならあかりの気持ちも少しだけ分かるんだ。自分の為に必死になって色々してくれるのって、凄く嬉しい事なんだって。あかりみたいにそれを当たり前って思ってしまわないように、俺は相手の事を大事にしたい」


『えっ–––和兄ぃ…?』


「まなみ。俺はまなみの事が好きだ。節操なしって思われるかもしれないけど、そんなの今更だしな。俺と付き合って欲しい」


『う、嘘じゃないよね…?でも和兄ぃとお姉ちゃんの仲を結果的に引き裂いておきながら、私が和兄ぃと付き合う資格なんて…』


「それを言ったら俺だって同じだよ。ただ好きになったからじゃなくて、同じ痛みを分かち合えるまなみだからこそ俺と一緒に居て欲しいんだ」


『ズルいよ…そんな事言われたら断れないはじゃない…。私だって和兄ぃが大好きなんだから–––』


 和兄ぃは私にゆっくりと顔を近付ける。初めてのキスなのに、涙と鼻水でグチャグチャになってどんな味だったか思い出せない–––。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 それから和兄ぃと私はお付き合いを始め、それぞれの両親にも報告して親公認の関係となった。


 私たちの仲は順調に進み、1ヶ月経った和兄ぃの誕生日にはプレゼントと一緒に私の初めてをあげた。痛かったけど–––凄く幸せな気持ちになれた。


 でも…あの日からお姉ちゃんは私や和兄ぃを避けるようになり、ずっと謝る事が出来ていない。


 幸せを噛み締めると同時に、お姉ちゃんへの罪悪感で押し潰されそうになる。


 そんな時は和兄ぃが慰めてくれる。いや和兄ぃもきっと同じで、私たちは傷を舐め合うようにしてお互いを求め合った。


 和兄ぃは高校を卒業すると地元の国立大学に進学した。実家から通えなくもない距離だったけど、和兄ぃは一人暮らしを始めた。


 一年して私も同じ大学に進学し、和兄ぃと同棲を始めた。一緒に住んでみて何度も喧嘩する事もあったけど、お互いに謝ってきちんと仲直り出来る関係になっていた–––。


 更に時は過ぎ–––私の22歳の誕生日に和兄ぃからプロポーズを受けた。涙を流しながらも勿論OKし、双方の両親とも話した上で私の大学を卒業後に式を挙げる事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る