淡墨の深層 第四章 少しだけ笑って…少しだけ傷付いて…

 三次会へ流れる途中にみんなを巻き……あやさんと二人で消えると決まった計画は……

 みおさんと二人、初めて抜け出した時と……ほとんど同じ状況だった。


 靖国通り方向へと流れて行った一団に、遅れるフリをして……

 区役所通りを向かい側へと渡り、歌舞伎町の繁華街へと飛び込み……早足となった。


「ハァ! ここら辺で……もう、大丈夫かな?」

「いや、まだ……西口の向こう側まで行くから……駅までをクリアーすれば、そこから先までみんなが来ることは、ほぼあり得ない……です」


 もうこうなったら……初めてみおさんと消えた時と、同じコースを辿ってやる……そんな気持ちだった。


「西口……じゃあ、あのトンネル抜けるの?」

「いや、西口っても駅自体に行くわけじゃなくて……帰宅組もいるし、わざわざ駅に近づいて危険を冒す必要はないですから」


「じゃあ……?」

「このまま大ガードの方が人ごみも多いから……もし誰かに会ったとしても、その場は逃げられるし」

「そっか!」

「但し……大ガードまで、靖国通りには出ませんからね」

「あ……みんなそっち行ったもんね」


 あえて歌舞伎町のいかがわしさに紛れたが…

 みんなが靖国通り側から再度、歌舞伎町側へと戻って来ないとも限らない。


「こっちの路地!」

「うん!」


 まだ油断はできないが……


「あ~、ここに出るんだぁ!」


 そこは……あやさんが普段利用していた、西武新宿駅前近く。

 勿論、駅沿いには進まずに一本裏の道で靖国通り方向へ。


 そのまま計画通り、誰にも会わずに大ガードをくぐり……

 渡った交差点の、向かうベクトルは……高層ビル街。


「なんか……ハァ! スパイ映画の逃亡シーンみたいで楽しい!」

「息、切れてますけど……大丈夫?」

「だって……ハァ! 二次会で、結構飲んだ後だから……さ……」

「僕も……結構回ってる~」


 別に全力疾走しているわけでもなく……

 みんなが居るであろうエリアから早く離脱したいがために、早歩きになっているだけだったが……

 飲んだばかりのアルコールを、体中に駆け巡らせる結果となっている二人だった。


「歩道橋、上がりますよ!」

「うん!」


 “新都心歩道橋”を上がり切った時に……気が付いたんだ。

 いつの間にか……


 二人は手を繋いでいたことに。


 歩道橋の上から、来た道を……新宿の街並を振り返った。


「油断しないで! 行くよ!」

「うん!」


 繋いだ手はそのまま……また、早足。


「階段! 降りるから……足元、気をつけて!」

「大丈夫!」


 不思議だった。

 そもそも最初は……あやさんの強い希望に拠って始まり……

 みんなに聞き耳を立てられない場所へ抜け出すのが目的の、この脱出劇が……

 いつの間にか、あやさんへ……『命令口調』とまでは言わないまでも……

 行動を『指示』するような言葉を発する結果となっているなんて。


「あのビルの、反対側にあるんだ」

「じゃ、もうすぐだね」


 あやさんの仰る通り、もうすぐ……

 もうすぐ『隠れ家』へと辿り着き……

 二人の『逃亡シーン』は……

 一旦、羽を下ろすこととなる。

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