淡墨の深層 第三章 流れる途中で…消える?

 二次会の席、隣にいることが多くなったあやさんは……

 何かが抉り取られたような、僕の心の一部を……徐々にでも、埋めて行ってくれた。



「話してよ。友達じゃん」


 友達……なのか……。

 みおさんのように……「弟分!」と公言するわけでもない。

 この段階では当然……そう、友達……だよね。


 その『友達』であるが故に……

 みおさんとのいきさつを、聞かせて欲しいと言うあやさん。


「この前は……『首を突っ込む気はない』って……言ったじゃないですか」

「だって……別れたんでしょ?」

「別れた……けど……」

「じゃあいいでしょ? 私が『首突っ込む気はない』って言ったのは『よそのカップルの事情に』だよ。ちゃんと聞いてた?」

「聞いて……ましたよ」

「別れたんなら、もう『カップル』じゃないでしょ?」

「そう……だけど……」


 やたらと論理的には聞こえるが……

 それで「はいそうですか」と話してしまったら……

 結局は、同じことではないのか?


 女の人は……そういった『過去』を知りたがる人と知りたがらない人に、どうやら分かれるらしい。

 知りたがる人は、やたらと知りたがり……『尋問・誘導・論理付け』も巧い。

 知りたがらない人は、徹底して興味を示さない。


 みおさんが、その後者のタイプ。そして……

  「首を突っ込む気はない」とは言いつつも、あやさんは……前者のタイプだったのだろうか。


 もう一つ……『タイプ』という意味で……

 女性を形容する表現には……『美人で○○』なんて褒め言葉があるが……

 みおさんが、美人で『カッコいい』だったのに対して……

 僕から見たあやさんは、美人で『可愛い』タイプだった。


 自分で認識している、またはそれまでの恋愛経験からの『好み』であれば前者なのだが……

 それらは所詮、教科書的・マニュアル的サンプルであるが証拠に……

 自分が『好み』と思っているタイプと、実際に『好きになってしまう』タイプは……

 必ずしも、一致はしないのだった。


 いずれにしても、こうした『現場』に於いて……

 強気で……強引で……押しが強くて……

 『上から』な女性ひとと、関係が深まっていくのはもう……

 僕の『宿命』に近いものだったのだろうか?


 勿論その当時はそんな……『宿命的』などという概念も無く……

 それはもう……「毎度のことなんだ」と、その程度に思っていた。

 例に拠って……「この女の人には逆らえない」……そう思えたのもきっと……

 その時期、既に僕は……

 あやさんのことを『好き』になっていたから……?


 しかし、だからといって……みおさんとの約束は?



 そうだ……それを言えばいいんだ……普通に。


 僕はなるべく小さな声で、あやさんの耳元で囁いた。


「みおさんからは……『ツバキのみんなには言わないでね』って……口止めされているんです~」

「ツバキの……『みんな』に発表しろなんて、言ってないでしょ。私に! 言えないの?」


 それまでは割と、ヒソヒソと話していた二人だったが……

 突然上がったあやさんのそのトーンは……

 宴会モードだった周囲のメンバーにも、当然届いてしまう。


「なになに? なにをみんなに発表してくれるの?」

「こいつら、できちゃった発表で~す!」


 毎度……聞こえて来た文言に、必ず尾鰭を付けて茶化し出すメンバーたち。


「アハハ! 違う違うって! なんでもないからねー!」


 冷やかしをやんわりと躱したあやさんの対応に、周囲も……

 「えー? つまんねー」的に引いてくれたから良かったが……

 あやさん、諦めが悪そうだし……やはりこのままではまずい。


 再度ヒソヒソ声に戻り……


「わかったよ。わかりました。話しますって」

「え? ホント?」


 更に小さなヒソヒソ声で……


「はい……でも、みんなのいるトコで話すのは、やっぱまずいですから……」

「じゃあさ……三次会に流れる途中で、消える?」


「え……?」


 それは……みおさんと始まったあの夜に、みおさんから言われた台詞……


「あのさ……二人で、消えちゃおうか」


 と、ほぼ同じ内容だった。

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