『次元横断報道局 クロス・ワールド・チャンネルCWC』
Algo Lighter アルゴライター
第1章:開幕と希望
第1話『ディメンジョン・ゲート開通式典中継』
風が空を撫で、雲が地を覆う。
その狭間に、存在してはならないものが建っていた。まるで空間そのものが拒絶しているかのような違和感——それが、ディメンジョン・ゲート。
銀と蒼の複合構造体。空を裂いたような形状を持ち、中心部では異なる物理法則がねじれ、揺らめく光が幾重にも渦巻いていた。
まるで宇宙の裂け目を覗き込むかのような、その“門”は、今日ついに開かれる。
「カメラ、回ってるか?」
天城 創(あまぎ そう)は軽く汗ばむ手でヘッドセットを押さえながら、冷静な声を装って尋ねた。
「回ってるわ。あと10秒で本番よ」
白崎凛の即答。ディレクターとしての鋭さと信頼がその一言に凝縮されていた。
創は深く息を吸い込むと、心を整えた。
目の前には世界がいた。各国の代表、魔法国家の大使、異世界の族長、そして観衆。人種も、文化も、価値観も、すべてが交差するこの場所で、彼は世界の最前線をレポートする役目を負っていた。
そして、群衆の中にひときわ目を引く存在があった。
白銀のマントを纏い、背筋をぴんと伸ばしたエルフの女性。
彼女の名はルナ・エルフェリア。CWCに新たに加わった異世界出身のリポーター。今日が彼女の初陣である。
「……これが、私たちの選んだ未来なのですね」
独り言のような声。それなのに、創の心に不思議と届いてくる。まるで、世界の命運を告げる前触れのようだった。
「……3、2、1——」
赤いカウントライトが消え、モニターに映るCWCのロゴがフェードアウトする。
生中継、開始。
「こちらクロス・ワールド・チャンネル。私は天城創。現在、地球初のディメンジョン・ゲート開通式典の現場におります」
創はカメラの先に広がる群衆とゲートを見渡しながら、声に力を込めた。
「本日、世界は“隣の宇宙”と正式に繋がろうとしています。いま、まさに歴史が動こうとしています」
自分の声がスピーカー越しに広場全体へと響き渡る。
創はふと、喉の奥の乾きに気づいた。喋っている自分自身にさえ、不安のざわめきがつきまとっていた。
(俺たちは、越えてはならない一線を越えてしまったのではないか?)
だが、そんな動揺を見せるわけにはいかない。彼の視線の先、ルナがカメラの前に立った。
彼女は静かに一礼し、真っすぐに視聴者を見つめた。
「異世界から来た者として、この日を迎えられたことを誇りに思います。今ここに“繋がり”が生まれます。真実を、共に見つめていきましょう」
その語りは短く、だが誠実だった。
(ルナ……あの目には一切の迷いがない)
創は、自分がまだ見ぬ地を戦地で歩いた記憶を思い出していた。カメラ越しに涙を流す少年。
——世界を記録するとは、誰かの未来を変えることだ。
ゲートが低く、重く、鈍い音を立てて共鳴し始めた。
光が閃き、空間がねじれる。空に浮かぶ島々、蒼白い空気、魔素が舞い踊る新たな世界が、ディメンジョン・ゲートの先に広がっていた。
「——開いた」
ルナが一歩、境界線を越える。その背を、創はまばたきもせずに見つめた。
次の瞬間、視聴者数十億の息が止まり、歴史が、確かにひとつ前進した。
世界は、いま繋がった。
クロス・ワールド・チャンネルは、その瞬間を世界で初めて報道した。
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