第24話 有効な策
「えっ!? パンテーラ王国の第二王子!?」
アゼリーの誕生日パーティーの参列者リストを見て、イレーヌは悲鳴に近い叫び声をあげてしまった。
そんなイレーヌを見て、アゼリーは不思議そうに首を傾げる。
「そんなに驚くことかしら? 確かに彼がくるのは初めてだけど、毎年、パンテーラ王国の誰かはきていたのよ?」
自分の誕生日パーティーに向けて、アゼリーは最近なにかと忙しくしている。しかし、無駄遣いはしない方向で、という話を聞いていたから、あまり気にしていなかった。
だから今日まで、パンテーラ王国の第二王子がくることを知らなかったのだ。
パンテーラ王国といえば、ティーグル王国の隣国である。交流はあるが、それほど深い付き合いをしているわけではない。
そしてイレーヌにとって、パンテーラ王国は憎き仇だ。
なぜなら、未来でティーグル王国の反体制派と繋がり、国に攻め入ってきたのがパンテーラ王国軍だからだ。
しかも当時の司令官が、今度アゼリーの誕生日パーティーに参加するという第二王子である。
目を閉じれば、今でも鮮明に第二王子……フェデリコの姿を思い出せる。
そして同時に思い出すのは、血まみれのオリヴィエ。
フェデリコは、オリヴィエを殺した男だ。
◆
「セシリア、どうしたらいいと思う!?」
「どう、とは?」
「どうすれば、フェデリコ王子……いえ、パンテーラ王国と良好な関係を築けるのかしら!?」
仕事終わりに部屋へやってきたセシリアに対し、イレーヌはいきなりそう尋ねた。
あまりの剣幕に驚いたのか、セシリアの顔が若干引きつっている。
「どうしたんですか、殿下。パンテーラ王国とは現在も関係は良好ですよ? だから、王妃様の誕生日パーティーに第二王子がやってくるんでしょう」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
だって、未来では攻めてきてたのよ!? とは言えない。
しかしイレーヌとしては、取り除ける不安は全て取り除いておきたいのだ。
仮に国内の反体制派が再び革命を起こそうとしたとしても、パンテーラ王国が手を貸さなければ、革命は失敗するかもしれない。
そのため国内での好感度を高めるのと同じくらい、パンテーラ王国との交友を深めておくことも大切なのだ。
反体制派と王家を比べた時に、王家の味方になってもらわないといけないもの。
「さ、さらに関係を深めた方がいいんじゃないかと思ったの。ほら、隣国のわりには付き合いが浅いでしょう?」
「……そうですかねぇ」
「そうよ!」
言われてみれば……とセシリアは頷いた。
「お願い、セシリア。なにかいいアイディアはないかしら? 貴女だけが頼りなの!」
がしっ、とセシリアの両手を握り、上目遣いでお願いする。セシリアならきっと、いいアイディアを思いついてくれるはずだ。
「1つ、有効な策があります」
「本当!?」
「ええ。古来より繰り返されてきた策です。これをすれば、間違いなくパンテーラ王国との縁は深まるでしょうね。でも……」
「お願い、セシリア。教えて!」
セシリアはしばしの間黙りこんでいたが、イレーヌの圧に負けて口を開いた。ただし、目を合わせないように、目線を外したまま。
「……結婚です」
「……え?」
「家同士の繋がりを最も深めるのが結婚でしょう。それに、殿下の結婚相手として、パンテーラ王国の第二王子なら申し分ないのでは?」
無言になったイレーヌを見て、セシリアは溜息を吐いた。
室内に、気まずい沈黙が広がる。
わたくしとフェデリコ王子が結婚?
わたくしの目の前でオリヴィエを殺し、わたくしを処刑台へ連れていったあの男と、わたくしが?
あり得ない。
だがしかし、セシリアが言う通り、結婚ほどパンテーラ王国との関係を深める方法はないだろう。
「……とりあえず、フェデリコ王子の情報を集めてみましょうか?」
セシリアの実家は裕福な商家で、多くの取引先を有している。そのためセシリアは独自の情報網を持っているのだ。
「……頼めるかしら」
「はい、もちろんです、殿下」
フェデリコのことはよく知らない。彼と顔を合わせる前に、できるだけ情報を集めておくべきだろう。
「イレーヌ殿下」
「なにかしら?」
「先程は結婚などと言いましたが、それはあくまでも文官としての意見です。殿下の友人としては、好きでもない殿方との結婚はおすすめいたしません」
「……ありがとう」
身分の高い女性が、自らの意志で結婚相手を選ぶことができるケースは稀だ。
大半が家のために政略結婚をする。当たり前のことだ。
セシリアの言う通り、条件だけを考えれば、フェデリコ王子との結婚は悪くないのよね。
さすがに結婚すれば、わたくしを裏切るようなことはないでしょうし。
だけど……。
こんな時、どうするのが正解なのだろう。分からなくなって、イレーヌは床にしゃがみ込んでしまった。
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