バーンノルツは敵討ちなど考えない
あいうえお
1章
第1話 ある青年①
その戦場で動く『影』はすでに『2つ』だけだった。影とは言うが、それは正鵠を射ていると言い難い。『そうとしか』見えないほどに高速で動き回っているのだ。
地はえぐれ木々はなぎ倒され、炎が走り躯が転がる。地獄のような光景に、さらに破壊が加わった。『影』の動きに合わせて、岩が砕け、躯がさらに細かく肉の欠片に変じ、爆発が起こる。地獄は底をより深く曝け出していくが、その光景を見る者は誰もいない。
唐突にその争いは終わった。血まみれの少女と、異形の『鎧』が立っていた。
「『
怒りと驚き、悔しみ、そして恐怖をたたえて少女は呻いた。全身が赤に染まり、服も喪っているため皮を剥がれたかのような姿だった。羞恥を感じる程の余裕もなく、緑色の瞳だけが、唯一生を主張している。
『鎧』の方は姿が定かでない。戦いの余波で巻き起こった煙が包み、影としてしか判別ができなかった。ただ、光る一つの丸いものだけが確たるものだった。
少女は憤怒のまま、『鎧』に背を向けて歩き出した。それ以外に選ぶ手はなかった、追撃されたとて対処できないほど消耗している。ひたすら逃げる事だけが、彼女に残された術なのだった。
そして、それは成功した。『鎧』は追撃も追跡もせず、そのまま仰向けに倒れ込んだ。同時にその姿は変じ、ひどく細く弱弱しい形となる。
「………バカ野郎」
首を微かに動かし、影は呟いた。ひどく小さく、聞く者もいない言葉は届くことなく。降り注ぎだした雨の中に溶けていった。
『女王の国』こと『セラーニャ』が統一という題目を掲げ各地へ侵攻を開始したことは、『される側』にとっては恐怖と怒り、絶望を沸き上がらせると同時に納得も与えていた。かの国がいずれはその方針をとることは疑いようもなく、むしろこれまでよく決断に至らなかったものだと怪しまれてすらいた。
各国指導者の間にはよりによってなぜ自分の代である今になってと呪い、自国の終焉に際する様々な感情が去来していた。侵攻に対する対応はそれぞれ異なれども、いずれ『セラーニャ』による統一が成されるだろうことは明らかであった。
『
かつての取るに足らない小国は、力を狙う者共の侵略を跳ねのけ、従属、あるいは庇護を求める近隣諸国を吸収し大国へと成長。『
いかに自国を遺すかが、それ以外の国々の争点であった。足並みを揃えて『セラーニャ』へ立ち向かうという計画は紙の上ですらまとまらず早々に霧散し、吸収併合されることはもはや当然、その中でどうやって自治を確保するかに腐心せざるを得ない。不本意なれど、そうせねば待つのは古来の国々同様に滅亡だけだ。
ある国は、一戦すらせずに反発と敵意を隠して全面的に降伏し、後世へと望みを託した。
ある国は、決して譲れぬとした条件をつきつけ、叶わぬ時はたとえ死が待とうととも戦う姿勢を示した。
ある国は、表向きは侵攻を受け入れつつ、その裏で虎視眈々と綻びを伺い牙を研いだ。
またある国は、戦いを挑んだ。勝機を見いだした、一戦し力を示し譲歩を引き出そうとした、ただ蹂躙されることを嫌った、故は様々だが、例外なく美しき『娘』たちにより殲滅させられ、『セラーニャ』に歯向かった愚者の列にその名を刻まれていった。
その名は、実際に戦いに駆り出された多くの人々の屍により浮かんでいた。『
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