第三話 策略

...目を覚ます。この感覚は数刻前味わったばかりだ。


「...ここ、は.........うっ..」


 意識の覚醒と共に襲う左後頭部の強い痛み。頬を伝う生温かい液体はまだ生きていることを実感させると共に絶望的な状況を静かに知らせてくれる。

 

俺はあっさり捕まっていた。


 俺の光属性魔法(仮)によって怯ませたはいいものの、所詮スマホのフラッシュ。大通りに出る前に普通に捕まってしまった。最悪だ。異世界に来てから碌なことがない。

 手足は椅子に縛られている。無理に動かそうとすると立て付けの悪い椅子が今にも壊れそうで、這いつくばることになるくらいなら大人しく捕まっていることを選択する。

 ポケットの感覚からスマホは既にとられていることがわかった。あれは英雄の遺物などではない。機種変更したばかりなんだぞくそが。


 周りを見渡してみると古びた倉庫のような場所であった。多くのほこりが被った木箱が点在しており、蜘蛛の巣も目立つ。天井に近い窓から光が漏れ出しているのをみる限り、転移してからまだあまり時間は経っていないように見える。


 そして奥の部屋らしき場所からは微かな光と話し声が聞こえる。俺はこれからどうなるのだろうか。頭が痛い。アドレナリンが出ているのか、悶えるほどではない。


「...ん...?」


 血が伝う顔に意識を集中させているとあることに気づいた。

 片耳から音が聞こえない。

いや、微かに聞こえはするが、何か耳に異物が詰まっているような感覚。しかし慣れ親しんだフィット感。

これは...


「イヤホン...?」


 ワイヤレスイヤホンの片方が俺の耳に装着されていたのだ。なぜ?イヤホンはポケットに入れていたはずだ。追いかけられて気絶するまでの間、記憶はないがイヤホンを指すという行為はあり得ない。いったい何があった。

 熱望的な状況と重なる不可解な現象に、俺は困惑していると


『...こんな板が英雄の遺物〜?俺にやぁそうはみえねぇけどなぁ』


!?

ワイヤレスイヤホンから知らない男の声が聞こえてきた。


「...これって...」


 これは...ライブリスニング機能か?この機能はスマホ周辺の音をマイクが拾い、ワイヤレスイヤホンを通して聴くことができる。

まさか、Bluetoothによって奥の部屋の会話が聞こえてきている?


『だ、だか、アイツの格好から持ってるもんまでこの俺でも見たことがなかったんだ。文献にも載ってねぇ。』


『確かに、僕も見たことないね。この側面の突起を押せば片側の面が発光する仕組みっぽいけど...』


『となると、賢者の遺物あたりか?発明好きって聞いたぜ』


『いや、賢者の遺物は王立図書館のどこかに眠っていると聞いたよ?というか、きっと本とか手記とかその類だろう』


『まぁーとにかく珍しいもんっぽいからなァ、あの人に渡すお土産には、充分なんじゃねーか?殺されることはねぇだろうよ...たぁぶん』


 俺のスマホがどんなものか、探っている様子だ。少なくとも聞こえるのは3人の男の声。1人は聞き覚えのある声だ。きっと路地裏で絡んできたやつだろう。もう2人は聞いたことないが、仲間なんだろう。

 そしてあの人、とやらは彼らの上司で機嫌を損ねると殺される危険性もあるくらいやばいやつっぽい。さらに気になるワード”賢者の遺物”とはなんだ?路地裏でアイツがいっていた英雄達の遺物のことだろうか。

 こっちにきてから重要そうなワードが次々と出てくる。ある意味情報収集はできているといっていい。かなりハードモードだが。


(...あれ?)


 色々思考を巡らせていると、あることを思い出した。


ーーそもそも、ワイヤレスイヤホンの充電は無かったはずじゃ...?


 ちゃんと充電がなくなるティロン⤵︎という情けない断末魔を聞いた覚えがある。いつの間にかイヤホンが耳に刺さっているのもおかしいが、こうしてBluetoothが機能しているのももっとおかしい。


『んで、あの野郎はどうする?ありったけ情報吐き出させますかい?拷問とかで』


 おっと話の話題が俺に移った。イヤホンがどうとかどうでも良くなるワードが飛んできて、俺は思考が真っ白になる。


「...やばいかもッ」

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