第14話 ドワーフ達との出会い

エリスの放った聖槍は、ワイバーンの胸を貫通し、そのまま空中で方向を変えて、もう一体のワイバーンを背後から貫いて、彼女の元へ戻ってきた。


その姿はまさに戦乙女!


俺が感動に震えていると、アレッサが大声で叫ぶ。


「こんなに楽しいんだから、ノアもどんどんやろうよ!」


「おお、そうだな」


我に戻った俺は、急いでロケットランチャーを構えて射撃する。


それから後、五人の無茶苦茶な攻撃で、空を飛んでいた全てのワイバーンを討伐した。


ルディ、アレッサ、ベルフィ、エリス、俺の五人は、地面に座り込んで、呆然と空を見上げる。


「私達、やったんだよね! あれだけいたワイバーンを私達だけで倒したんだよね!」


「今までで一番スッキリしたわ! またワイバーンと戦いたい!」


「僕はもう無理だな。魔力がほとんど残っていないよ」


「私も興奮しました。仲間と戦うって、とても素晴らしいことなんですね。武器を貸してくれて、ノア、ありがとう」


「皆、よくやった! これが『不死の翼』の実力だぜ!」


俺達五人はしばらく、自分達の討伐を褒め合った。

ふと、俺の頭に疑問がよぎる。


「討伐したのはいいが、あれだけの数のワイバーンを回収するのに、時間がかかるぞ」


「そうだね。ワイバーンの魔石や素材は相当な高値がつくはずだ。それを放置して崖に向かうのも勿体ない。後からくるパーティに横取りされたら目も当てられないからな。しかし、当初の予定通りに断層に向かわないと、他のパーティに追いつかれる。悩ましいね」


「そうよね。ワイバーンの屍も回収したいし、崖にも行きたい。どっちがいいのかしら?」


頭を抱えて悩むベルフィとルディに、アレッサが断言する。


「ワイバーンの屍を回収するに決まってるでしょ! ワイバーンを殺したのは私達なんだから、きちんと私達のものにして供養してあげないとね!」


「私もアレッサと同じ気持ちです。崖の調査は他のパーティと協力して進めても遅くはありません」


「そうだな。あるかどうかもわからないお宝を探すより、ワイバーンの屍のほうが高値で売れるかもしれない」


エレナと俺がアレッサの提案に乗り、今後の方針は決まった。


それから皆の武器をスマホで召還し、謎食品と水を補給して休憩していると、ルディが目を細めて立ち上がる。

それに続いてエリスが警戒の声をあげた。


「周囲を囲まれています! 皆、気をつけて!」


慌てて身構えて、周囲に視線を送ると、崖の方向にある茂みがガサガサと動き、暗闇から人影が歩いてきた。


全員が俺よりも身長が低く、筋肉隆々の男達で、顔中に髭を生やしている。

手に握っている斧は鈍く輝き、その目は殺気を帯ていた。


ドワーフがなぜ俺達を取り囲んでいるんだ?


ドワーフとは、エルフと同様にエアハルト世界に生息する亜人種だ。


パラディール大陸には多くの国があり、その中には亜人と共に暮らす国もある。

しかし、ベルトラン王国は人族至上国であり、亜人はほとんど住んでいない。


見たこともない人種なのに、なぜドワーフとわかったか。

それは前世の日本でラノベを読んだことがあるからだ。


目の前にいる連中は、異世界ファンタジー漫画に登場するドワーフの特徴に一致している。


『ニューミナス 大森林』は未開発の原初の森林だ。


亜人種が住んでいてもおかしくないが、まさかこの場所でドワーフを出会うとは思わなかった。


ざっと辺りを見回すだけで二十人以上に囲まれているようだ。

この近距離で戦闘になれば、俺達も無傷ではいられないだろう。


どう対処するか悩んでいると、一人の年老いたドワーフが進みでる。


「あなた達が、ワイバーンの群れを討伐したのか?」


「ああ、そうだが。魔獣を倒すのが冒険者の仕事だからな」


「空を飛んでいた光輝く武器も、お主達のものか?」


「そうだ。何か問題でも?」


老ドワーフの質問に戸惑っていると、手に持った斧を投げ捨て、老ドワーフがゆっくりと地面に手をつく。


すると俺達を囲んでいたドワーフ達も一斉に地面に武器を置いて、平伏を始めた。


おい、おいどうなってんだ?


ドワーフ達の行動に俺達は呆然と立ち竦む。


「我等を助けていただき、ありがとうございますじゃ!」


「はぁ?」


「空を飛ぶワイバーンの群れは、崖に住む我々の天敵でしてな。幾人も同胞が殺され、奴等を討伐するのに苦労していたのです。それをあなた方は簡単に討伐された。ワシ等の恩人ということですじゃ。心より感謝を申し上げる」


つまり……崖に住んでいたドワーフを、偶然にも俺達が助けたってことか。


ということはドワーフ達は、あの断崖について詳しいよな。

上手く交渉ができれば、鉱脈や古代遺跡の情報をゲットできるかも。


理解が追いついた俺はニコニコと微笑む。


「俺達は冒険者として当たり前のことをしただけだから、そんなに頭を下げなくてもいい」


「何と寛大なお方ですじゃ。お名前を聞かせていただいてもよろしいか?」


「俺の名はノア。一応『不死の翼』のリーダーをしている。よろしくな」


「それではノア殿、我等の集落にご案内いたします。宴会を催しますのでごゆっくり滞在してください」


大森林の奥地で祝宴に招待されるなんて、断るわけにはいかないよな。


仲間の顔を見ると、皆、笑って頷いている。


「その話に乗った。ぜひ招待してくれ」


「『不死の翼』だけで行くつもりか。俺達も連れて行け」


急にボソリと声が聞こえ、その方向を見ると、ヴェノムと『奈落の髑髏』の連中が樹々の陰に潜んでいた。


いつからそこに居たんだ?

全く気配に気づかなかったぞ。


茂みから出てくる『奈落の髑髏』に、険しい表情でエリスが聖槍を構える。


「あなた達は招待されていない。大人しく帰りなさい」


「ほう、俺達とやり合うってことか。こっちも何人か死ぬだろうが、そっちの命もいただくぜ」


「我等ドワーフが集落に案内するのはノア殿達のみ。邪魔をするなら、ドワーフ族の威信にかけて、そなた達を葬ってやろう」


老ドワーフの目に殺気が帯び、地面に置いてある斧を手に取って、仁王立ちに構える。


「ドワーフさん、私達は負けないわ! このメイスでグシャって潰してあげる!」


「森の陰で私達を監視していたなら、私達の武器の威力を知ってるよね。ワイバーンも楽に殺せるけど、それでも殺し合ってみる?」


「普段のステッキでも、十分にお前達とならやり合える。僕の魔法を受けてみるかい?」


皆、ヤル気になってるよ。

冒険者同士の争いにドワーフ達を巻き込むこともできないよな。


「そういうことだから、『奈落の髑髏』、一度死んでみるか?」

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