第13話 ワイバーンとの戦い
真夜中に野営地を出発した俺達『不死の翼』は、暗闇の森の中を疾走する。
ベルフィが光球を飛ばして、ルディがその横を駆け走る。
二人の後ろを行くエリスは夜目が利くそうだ。
後方に目をやると、アレッサが楽しそうに走っている。
断層に向かって一気に森を進んでいると、空から「ギャァオォォオオー!」という魔獣の雄叫びが聞こえてきた。
頭上を見あがると、空に翼を広げる魔獣の黒い影が見える。
たぶん、あれはワイバーンだ。
先頭を走るルディが立ち止まり、片腕を広げて皆に停止の合図を送る。
「空から魔獣がくるよ!」
「あの影はワイバーンだ! 俺達で敵うはずがない。撤退しよう!」
空を見上げてベルフィが悲愴な表情で叫ぶ。
俺の隣に並ぶエリスも、目を見開いている。
すでにワイバーンを倒す対策は考えてある。
スマホでロケットランチャーを召喚すれば、討伐できるはずだ。
「皆、慌てるな! 俺がワイバーンを倒す!」
「空を飛んでるなんて卑怯だわ! 落ちちゃえ!」
恰好つけて宣言する俺の横を通り抜け、アレッサが力一杯に巨大メイスをワイバーンに向けて投擲する。
強烈な勢いで放たれたメイスはクルクルと高速回転しながらワイバーンの体の中央に。
「グゥゥェェエエエエエーーー!」
腹を潰されたワイバーンは奇声をあげて、空から落下する。
ドスンと地面に落ちた巨大メイスは、一瞬後にアレッサの手に握られていた。
あのメイスはバッカス様が創った神具だからな。
手元に戻ってくるぐらいの性能があってもおかしくない。
そんなことよりアレッサ!
エリスに俺の強さをアピールしようとしてたのに、俺の見せ場を横から奪うなよ!
悔しがっている俺に気づくことなく、ルディとベルフィがアレッサを囲む。
「ワイバーンを倒すなんてすごいよ! メイスを飛ばすなんて、さすがアレッサだね!」
「空を飛んでいるドラゴン種は、魔法防御も強くて、僕でも対処が難しいのに、よく倒してくれたよ」
「ウフフフフ! もっと褒めて、褒めて!」
嬉しそうにハイタッチをする三人を見ていると、エリスが歩いてきて俺に小声で呟く。
「次、期待しています……頑張ってください」
エリスはキチンと俺の行動を見てくれていたんだな。
彼女に気にしてもらえるなんて、今日が死地でも俺は構わない!
アレッサに負けてる場合じゃないぞ!
全力でワイバーン共を撃墜してやる!
意気込みを新たにしていると、上空から「ギャァオォォオオー! ギャァオォォオオー!」と複数のワイバーンの咆哮が聞こえてきた。
空を見上げると、何体ものワイバーンが空中を滑空している。
俺達を敵と認識したようだ。
危機を察知したベルフィが吠える。
「緊急事態だ! ノア、あれを出してくれ!」
「私も! 早く早く!」
「了解。エリスは俺の後ろに隠れて」
俺はポケットにあるスマホを手に取り、画面をスクロールして、素早くタップを繰り返す。
すると空中にロケットランチャー、黄金に輝くステッキ、真赤に染まった円刃――チャクラムが現れた。
黄金のステッキとチャクラムは、バッカス様が作った神具である。
普段は威力が強いので、天界の倉庫に格納しているが、緊急時にベルフィとルディに貸し与えている、二人のお気に入りの武器だ。
アレッサに貸している巨大メイスとバックラーも、召還するはずだったが、彼女に泣きつかれて、今では彼女の愛用品となっている。
俺の投げたステッキを受け取り、ベルフィがニヤリと笑む。
「空にいるからって図に乗るな!」
「ワイバーンの鱗が硬くても、自慢の翼を切り刻んであげる!」
チャクラムを握るルディもニヤニヤと微笑む。
俺はロケットランチャーを肩に担ぎ、皆に号令をかける。
「盛大にやってやろうぜ!」
「「「応!」」」
アレッサがその剛腕で一気に巨大メイスを投擲する。
この一投でワイバーンの胸が陥没、まずは一体。
それに続き、ルディが腕をクルクルと回して、チャクラムをワイバーンへと飛翔させた。
空中を飛ぶ円刃から灼熱の炎が発生し、ワイバーンの翼を両断する。
これで二体目。
「僕も負けてられないね」
ルデイは姿勢よく立ち、ステッキを空中に振るう。
『トルネード!』
ステッキの先から強烈な竜巻が発生し、迫ってきたワイバーン二体に襲いかかる。
四体のワイバーンが次々と空から地上へと落下した。
「イケー!」
その光景に高陽した俺は、照準を合わせてロケットランチャーの引き金を引く。
ドォオン!
爆音が響き、次の瞬間に、ロケット弾はワイバーンに命中して大爆発を起した。
その間もアレッサ、ルディ、ベルフィの三人はワイバーンを次々と撃墜していく。
スマホでロケット弾を召喚し、次弾の準備をしていると、斜め後方にいるエリスが声をかけてきた。
「皆の使っている武器はいったい? これほどの殺傷力の武器を私は見たことがありません」
「俺のスキルで召喚している武器なんだ。固有スキルだから、武器の詳細は俺にもわからないけどな」
天界の倉庫から、神々の創った武器や、地球の兵器を借りてきているとは言えないからね。
なのでアレッサ、ルディ、ベルフィの三人にも同じ説明をしている。
時々スマホに連絡がくる神様達については、俺の親戚ということで誤魔化しているのだ。
俺の話を聞いたエリスは、言いにくそうに言葉を続ける。
「あの、私にも何か武器を貸していただけませんか?」
このままでは、エリスだけ仲間外れになるよな。
俺は少し考え、スマホの画面をスクロールして、ある武器を召喚する。
空中に現れたのは、銀色に光輝く聖槍だ。
俺が槍を手渡すと、エリスは丁寧にお辞儀をして、ワイバーンの群れをキッと睨む。
「いきます!」
聖槍を構える彼女の姿は、まるで北欧神話のヴァルキリーのように美しく、俺は呆然と見惚れるのだった。
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