第10話 定期報告

森の中をどこまで走ったのか、草地に戻ってきたベルフィはボロボロの姿になっていた。

やはり女性陣を怒らせてはいけないよな。


アレッサとルディも帰ってきたので、俺達五人は森の奥へと出発した。

大森林の調査のため、蛇行しながら進む必要があり、なかなか距離を稼げない。


朝にドローンで確認した魔獣も、時間が経ちすぎて、既に移動してしまっている。

ルディを五感だけが頼りだ。


休憩地点から一時間ほど歩くと、タイタンスネークの群れと遭遇した。


タイタンスネークは蛇系の魔獣で、毒攻撃はないが、強力なアゴで岩を砕く危険な魔獣だ。

屈強な冒険者であっても、一撃で体を両断されることになる。


ルディはいつものように毒を塗った短剣を投擲して、遠距離攻撃に徹している。

その一方で、アレッサは嬉々としてタイタンスネークへと突っ込んでいった。


突進は彼女の持ち味だが、タイタンスネークはハイオーガを上回る膂力の持つ。


ガンと両者がぶつかり合い、次の瞬間にアレッサが横に移動し、巨大メイスでタイタンスネークの腹に一撃を叩きつける。


どうやら彼女も戦法を変えたようだ。


するとアレッサの横をすり抜け、エリスがタイタンスネークの群れに飛び込んでいいった。

そして演舞でも踊るように舞い、魔獣の体を高速で斬り刻む。


それにベルフィのアイスバレットと、俺のショットガンが炸裂し、女子達の攻撃で半数まで減っていたタイタンスネークの群れは全滅した。


興奮したアレッサとルディがエリスを囲んで嬉しそうに話しかける。


「さっきの攻撃、すごかったね! 早くて目で追いきれなかったわ!」


「あんなに簡単にタイタンスネークを討伐するなんて、今までの実力を隠していたのね」


「ノアに仲間だと言ってもらえたので、私も皆に協力したくて……」


恥ずかしそうに俯いて、エリスがチラッと俺を見る。


クッ……可愛すぎる!


しばらく森の中を進んでいると、太陽が西に傾く頃、空に光が打ちあがった。

あれはセインの光魔法だ。


予定通り、情報交換をするため集まれという合図だろう。


その光を見たルディは複雑な表情で、「行くしかないよね」と言葉を漏らす。


普段は競い合っているパーティ同士。

あまり仲良くないんだよな。


光の放たれた方向へ歩いていくと、少し開けた草原があり、その中央に野営テントと天幕が建てられている。


周囲を見回すと、離れた場所にも幾つかテントが設営されていた。

どうやら俺達が一番最後に到着したらしい。


ベルフィが指定する地点に、大型テント二つを俺達二人で設営する。

その間に、女子三人は森の中へ食べ物を捜しに行った。

もちろん、これは偽装だ。


森の中にいる間に、予めスマホから野営用具一式と、レトルト食品を召喚して、大型リュックに詰め込んでおいたのだ。


レトルト食品を開封して、中の具財を使えば簡単に料理できる。

もちろん調味料も準備万端だ。


他のパーティに、俺のスマホの能力を見せるわけにはいかないからな。


皆で食事を囲んでいると、遠くから俺を呼ぶセインの声が聞こえてきた。

どうやら集まれということらしい。


俺はベルフィと共に『蒼穹の聖光』の天幕へと向かった。

俺達二人が到着すると、セインとブレイズが席に座っている。


すぐ傍に人の気配を感じて、その方向へ顔を向けると、『奈落の髑髏』のリーダー――ヴェノムが影のように立っていた。


『奈落の髑髏』は一年ほど前にラッカに突如現れた冒険者パーティだ。

その時は既にBランクだったが、ジョルドさんも彼等の詳しい素性は知らないそうだ。


南東方面の調査で、何度か顔を合わせたこともある。

ルディに頼んで一度偵察してもらったが、彼女でさえも連中を見失った。


ただ一つわかっているのは、『奈落の髑髏』は個人行動を主軸とするパーティということだ。


俺達二人が椅子に座ると、セインが話し始めた。


「皆、調査ご苦労様。『蒼穹の聖光』から報告しよう。ラッカからこの地点まで調べたが、古代遺跡の痕跡を見つからなかった。徐々に強力な魔獣も出没しているが、皆なら心配ないだろ。ではブレイズ、お願いできるかな」


「俺達も同じようなもんだぜ。しかしな、『獅子の咆哮』はミノタウロスを十体も倒したぞ。どうだノア、俺達に勝てないだろう」


「はいはい、そうですね。ブレイズ達の勝ちでいいよ」


「おい、『不死の翼』! もっと本気で調査しろよ、ゴラァー!」


俺の気のない返事に、ブレイズが威嚇の声をあげる。


だから、こいつ等と集まるなんてイヤなんだよ。


まだ吠えているブレイズを無視して、ベルフィが説明に移る。


「僕達も同じような結果だね。楽しかったのはタイタンスネークと交戦できたことかな。もちろん全滅させたけどね」


ミノタウロスとタイタンスネークは、大森林の魔獣の中で同等の強さだ。


それって、ブレイズを挑発しているよね。


するとベルフィの話しを聞いたブレイズが機嫌よく笑む。


「ヤル気のないのはノアだけか。『不死の翼』、勝負の決着はまだ先だからな! 俺達が絶対に勝つ!」


胸を張って鼻息を荒くするブレイズに向かって一陣の風が吹き抜け、次の瞬間に彼の頬の皮膚が浅く斬れた。


そして天幕の柱に短剣が突き刺さる。


驚いて周囲に警戒を走らせると、天幕の陰にいるヴェノム が短剣で遊んでいた。

その様子を見たブレイズが、険しい表情をして激高する。


「何してくれてんだ! 『獅子の咆哮』に喧嘩を売ってるのか!」


「クックックック。うるさいんだよ、お前。斬り刻むぞ」


ヴェノム が小さく呟き、その瞬間に奴の体から殺気が溢れだし、天幕の中の温度が一気に下がる。

それを肌で感じたブレイズが大剣を構えた。


参戦するわけにもいかず、俺は椅子に座ったまま観戦することにした。

隣で微笑んでいるベルフィも同じ意見のようだ。


冒険者をやっていくなら、こんな喧嘩は日常だからな。


どうなるのかと観察していると、セインが立ち上がり、片手を頭上に向け、巨大な光の剣を創りだした。


その剣の威圧で天幕はドンと音をたてて吹き飛び、空一面の星々が見える。


「両者そこまで! それ以上、争うなら僕も黙ってはいられないぞ!」


そう言ってセインは爽やかに微笑む。


一番暴れてるのはセインだと思うんだけど……


やはり彼も冒険者らしく、どこか性格がぶっ壊れてるよな。

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