#09-1 READY GO!

 あたしは――「リナ」。”勇者に復讐する魔王の娘”だった女。

 ”親友”のユニと、”お父様の仇である元勇者”マティア、”トラブル魔法少女”シラと一緒に、「お父様が知ってしまった真実」を探す旅をすることになった。


 大きな荷物を背負ったシラが当然のように言う。


「んじゃ。行こっか」

「何処にだよ。何か当てはあるのか?」

「え。流れでわかるっしょ。このペンダントが作られた場所だよ」

「え? それって……」

「そう。リナの実家。ひとつ。ペンダントを作ったのはリナである。ふたつ。リナは実家から出たことがない。故にペンダントはリナの実家、あるいはその周辺で作られたという仮説が成り立つ。ま、私の読みではどこかに”魔王”の秘密の研究室があると思うんだよね。ワクワクするね♪」

「それはさすがに強引じゃない?」

 

 すかさずユニが突っ込む。

 

「大胆な仮説って言ってよねー。何事も大胆さが大切よ☆」

「俺がカーネスさんの日記を見つけた私邸にはそんな研究室はなかったぞ」

「それはマティアみたいな素人さんが見つけられなかっただけだと思うよ。とりあえず、みんなで探してみよ♪」

「お前な……」

 

 研究室……? お父様の研究室なんてあったかな……。覚えてない……。

 ……でも、あたしはあの場所に、もう一度向き合わなきゃいけない。

 逃げてたままじゃ、きっと何も変わらない。あの場所にこそ、答えがある。そう思った。

 

 こうして、あたしたちは研究都市トリシアから、あたしの故郷ベルグシュタットに向かった。


 ・


 なんと船旅だ。シラが「陸路は面倒くさい」と言ってナロウボートを使うことになったのだ。

 ナロウボートは馬が平船を牽引するのんびりした輸送手段で、人はもちろん、様々な荷物が積み込まれていて、セントリオン川でよく使われているのだそうだ。


 あたしもユニも、初めて乗る船にテンションがあがった。

 水音が単調に響き、馬の蹄が岸辺をとくとくと叩いていた。

 そのリズムがどこか懐かしくて、遠い昔の夢を揺り起こすようだ。

 時折、マティアが鳥や魚の話をしたり、シラが難しい魔法の話を始めたりして実に飽きない。

 

 馬を引く少年は、あたしたちより少し上くらいだ。

 こうして荷を運んでくれる人がいるから、あたしたちはこうやって旅ができるんだ。“役割”って、こういうのもあるんだな、って思った。

 船旅では、川底が浅いところではみんなでボートを押したり、夜は川辺りに停泊して焚き火を囲んで夕食を取ったりしながら楽しく過ごす。

 こういう大人数での旅は、小さな頃、渡り鳥の民リンドバーグのみんなと旅をした時以来だ。

 

 ・


 数日後、あたしたちは、そんな船旅を終えて無事にベルグシュタットに到着した。

 記憶の中では鮮明なはずなのに、どこか知らない場所のように静かで、風の音だけが鳴っていた。


「……リナ。生まれ故郷は懐かしい?」

「うん……たぶん。でも、あたしはお城の外に出たことがなかったから、いまいちピンと来てないかも……」

「そっか。そんなもんかもね。ちょっとでも覚えていることがあった見にいこうね!」


 ユニの声はいつも優しい。やっぱりこの子は一番の”親友”だ。


 マティアが言っていたように、ベルグシュタットの城下町は活気があった。お父様をきっと慕っていた人たち。きっと信じてくれた人たち。本当はここがあたしの帰る場所なんかもしれない。

 さっそく、先に宿を取ってくると言っていたマティアだが、だいぶ時間が経ってから戻ってきた。


「いやー。遅くなった。申し訳ない。ワイルさんに聞いたウマいチーズフォンデュを出す宿屋の部屋を取りに行ったら満室でね。他の宿屋を紹介してもらってたんだ。そっちはワインがウマいらしい。楽しみだ」

 

 この男は本当に旅が上手だ。街の人達とも積極的に交流するし、食べ物や飲み物も美味しいものを知っている。あたしの知らない世界の広さを知っているんだろうな……。

 そんなことを思いながら、マティアに付いていくと、いつのまにかベルグシュタット城前に来ると、城門の前には教団の兵士が立っていた。

 「とりあえずは来てみたけど」と言ってマティアが立ち止まる。

 

「彼らがいて、城には入れないんだ。カーネルさんの寝室は裏口から行けるから、そこから忍びこも……」

 

 そう言って、マティアが裏口に案内しようとするが、シラは言う。

 

「そんなことないよ。正面から入れるよ。わざわざ裏口行く必要ないでしょ。城から私邸に通じる通路もあるはずだし、こそこそしないで普通に城から入ろうよ。そうだよね。リナ」

「え、ええ。たぶん。いつもお屋敷からお父様が出ていく扉があったから、そこがお城に通じている扉だったんだと思う」

「いや、それはそうかもだけど、兵士が城に入れてくれないんだってば」


 マティアの静止も聞かずにシラは兵士に話かける。


「あ。ねぇねぇ。兵士さん。あたしシラ。これ研究員証ね。連絡があったと思うけど、研究調査でこの城に入るから開けてくれるかな?」


 シラはポーチからカードのようなものを出して兵士に見せた。

 

「ああ。シラ研究員。はい。ニカノール様から書簡が届いており、聞いております。すでに教団の方でめぼしいものは研究し尽くしたと思いますが……」

「いいの。ちょっと確認したいことがあるだけだから。それから、あたしの研究って騒音が出ることあるから、もし、騒音があっても気にしないでね」

「そちらも伺ってます。どうぞ、お入りください」


 そういうと、兵士は城の門を開け、あたしたちを招き入れた。

 固く閉ざされていた大きくて重そうな門は大きな音を立てて開いていった。


 兵士は思い出したように付け加えた。


「ああ。そうでした。シラ研究員。それから、『万一、修復が必要な破損が発生した場合は、報告するように』とことづかっておりますので、何かを発見されたり、破損があった場合は私たちに報告してください」

「うざー。ニカノールって事務の人だよね。うざー。あの人もキライ」


 シラはこうしてプリプリ怒っているが、あたしたちはこうしてすんなり城に入ることができた。


「というわけよ。どう? マティア。あたしは魔法だけじゃないんだよー?」

「シラってすごいんだね! ウィザード級研究員って伊達じゃないね?!」


 ユニがやたらと感心している。

 

「シラが俺を『マティア』と呼んでいる……」


 マティアは相変わらず名前を呼ばれることに感動しているらしい。そんなに自分の名前好きなのかな、この男……。


 こんな風にして城に入ると、人があまり出入りしない建物の独特の、ひんやりとした冷たい空気の臭いがする。

 あたしは屋敷と内庭にしかいたことがないから城側には来たことがなかったが、雰囲気は似ていて懐かしい。ここがお父様のお城……。

 シラはそんな私の感傷など気にすることもなく、どんどん城に中を進んでいくし、マティアはずっと何かをメモしてあとから着いてくる。


 そうして、あたしたちは一番奥にある荘厳な部屋に辿り着いた。


「ここが玉座の間。私邸への扉があるとすれば、ここと隣にある執務室だね」


 シラが扉を開けようとするとユニが声をかける。


「シラ。ちょっと待って。そこはリナにとっては辛い思い出の場所だと思うんだ。リナに扉を開けさせてもらっていいかな」

「え。そういうもの? いいけど……。日が暮れないうちにね」


 この扉の向こうが、マティアやシラたちがお父様と戦った場所。

 この扉の向こうが、お父様の亡骸があった場所。

 この扉の向こうが、あたしが歩き始めることを決めた場所……。


 この扉を開ければ、きっと何かがわかる。


「うん。大丈夫。お待たせ。行こう」


 あたしは巨大な扉に手を掛け押し開けた。

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