第138話
なんとかクリスマスプレゼントを選んで家に帰ると、リビングでお母さんがテレビを見ていた。
私が帰ってきたことに気付くと、ポテチをかじりながら見てくる。
「あら、あんた今帰ってきたの?」
「うん」
「六時ぐらいになったらおばあちゃんち行くからね、準備しときなさいよ」
「は~い」
軽く返事をして、階段を上がる。
部屋に入って、どうせおばあちゃんちに行くから着替えなくてもいいかと思い、そのままベッドに腰かける。
スマホの充電が残り少ないことに気が付いて、充電器に差す。
ベッドに寝転って天井を見ていると、余計に静かな感じがする。
クリスマスイブで外は賑やかなはずなのに、この部屋だけは全てから切り離されたように寂々としていた。
でも、このぐらい静かな方が今の私には丁度良い。少しでも騒がしいと、それに揺られた心が強い緊張を持ち始めてしまうから。
よくよく考える必要もなく、私は明日、沙羅、そう夢野、そうそう夢野 沙羅に告白する。
告白っていうのは‥‥ってもういい。好きって言うんだよ、好きって。
面倒臭いことはどうでもいい。大事なのは、そこに存在している真実だけだ。
この確かな気持ちだけを信じていればいい。と言いたいけれど、どうしても不安は拭えない。
失敗することはもう流石にないだろうとはわかっているつもりだ。とはいえ緊張する。
これまで踏み込めなかったその領域にようやくたどり着けるのに、素直に喜べないのが自分でも不思議でならなかった。
幸せに向かっているはずなのに、どうして私はその幸せを直視できないのだろうか。
いやまあ‥‥なんていうか。
告白の言葉はどうしようかなって、考えてるだけなんだけどね。
普通に、好き、って言えばいいかな。
それとも、もっと捻りを効かせたようなやつの方がいいだろうか。
もっとポエムっぽい方が‥‥いやそれは、黒歴史になるかもな。
考えたところで良いのは思いつかないだろう。たぶん、こういうのはその場の勢いに任せた方が良いような気がする。
私が伝えるのは本音で、この気持ちなのだから、思うままに言えば、きっと伝わる。
すごく、単純な話だった。
言葉にすれば終わる、簡単なお話だ。
とっても、つまらないかもしれない。
でも、私は楽しいと思う。
やっぱり、夢野 沙羅に恋できて良かった。
ゆったりと目を瞑った。そのまま眠れそうなほど穏やかだったけれど、スマホの通知音が鳴る。
閉まりかけていた目を開けて、スマホを手に取ると、瑠璃からメッセージが送られていた。
『メリクリ・イブ!』というメッセージに続いて、写真が付け加えられる。
その写真を確認すると、クリスマスツリーをバッグにピースをする瑠璃と花音が写っていた。
花音のやつ、帰ったんじゃなくてランデヴーかい! と思いながら、『メリクリメリクリ』と送り返す。こっちもなにか写真を送ってやりたかったけれど、生憎写真を撮る癖がないから写真ライブラリにはそれほど写真がなかった。
もっとなにか残せば良かったかな。
そんな後悔をしたところで遅いけれど、ライブラリを遡っていたら見つける。
夏休みの夏祭りが雨で中止になってしまったとき、沙羅が私のところに来てくれて、それで撮った浴衣姿の私と沙羅。
私にも確かな宝物が残っていた。
それにしても本当に沙羅はかわいいし、美人だ。
びっくりするぐらい顔が整っている。華奢な体もエロいし、笑顔なんて破壊的だ。
まるで夢見たものをそのまま現実に持ってきたかのような理想的な少女は、何度見ても飽きないし、何度だって恋できる自信がある。
確かに現実に存在しているその少女の名は、夢野 沙羅。私が恋した人、夢に見た人、好きな人だ。
隣に立っているこの女は、月宮 楓。取り柄のない普通なやつで、特段良いところがない癖にからかい癖のあるクソ女、そして性欲が強い。ちなみに、私だ。
こう見比べると、本当に釣り合っていないように思える。
きっと、こんなことを沙羅の前で言ったら本気で怒られるだろうな。沙羅だったら、「楓さんはかわいいもん!」となぜかその月宮本人に対して言いそうだ。
気持ちはわからなくもない。好きな人を、好きな人本人であっても馬鹿にされるのはムカつく。
もし、沙羅が自分のことを悪く言ったとしたら私もムカつくだろうし。
でも、怒れないな。沙羅に怒るのは気が引けるから、そもそも怒らずに愛することで証明してみせる。沙羅がどれだけ魅力的な人なのかを。
写真に写るあまりに愛おしいその沙羅を夢を見るように見つめていたら、思わず幸せのため息が零れた。
あまりにも沙羅のことが好きすぎて、自分でもちょっと引く。
そんなことしてたら電話が鳴った。
びっくりして反応が遅れたけれど、画面に表示された名前が沙羅だったからすぐにとる。
『こんばんは』
電話越しに愛おしい声が聞こえてくる。
そうか、陽は落ちているし、もうこんばんはの時間かと気付いた。
「こんばんは」
『う、うん‥‥‥』
ぎこちない感じの沙羅に、「どうしたの」ときいてみる。
『え、えっと‥‥‥』
「いや、いいや」
『え?』
「私の声が聞きたくなったんでしょ? つまり、用はないってことだ。どうしたのってきかれても困るだけだし‥‥う~ん、そうだな。私も同じ、沙羅の声、聞きたかった」
『‥‥‥‥‥』
恥ずかしがってんのかな~、とか思いながら誰に見せるわけでもない笑顔をする。
「声だけじゃなくて、顔も見たいな~。ビデオ通話ってのがあったな~、あれなら顔が見れるな~」
適当に呟くと、いとも簡単にビデオ通話にできる。
画面に映る、照れる沙羅の顔を見つめながら、「かわいい」と呟く。
『も、もう‥‥!』
「ふふんっ」
沙羅は、膨らませた頬を萎ませる。
『その‥‥今日は、普通に用があって電話したから』
「え~、そんな! 私の声が聞きたいんじゃなかったの~」
大袈裟に言うと、『それは、そうだけど‥‥そうなんだけど、そうじゃなくて、う~ん』と本気で困られる。
「ごめんごめん。で、どんな用なの?」
『その、明日のことで‥‥‥』
意外にも真面目な話だったことに気付いて、かしこまってしまってベッドの上で正座する。
『明日は、家で待ってたら良いんだよね?』
「うん、そう。私が迎えに行くから。それを確認しときたかったの?」
『それもなんだけど‥‥その、明日になる前に伝えたいことがあって‥‥‥』
「伝えたいこと?」
『そう。その‥‥夢の話』
「夢野話?」
繋げて言うと、『ち、違う! 夢“の”話』と訂正される。
『ま、真面目な話だから』
「ご、ごめん‥‥‥」
先ほどから沙羅が緊張していたから、それを和らげようと思ったのだけれどあまり効果がない。むしろ、その緊張がこちらにも伝わってきてしまった気がする。
『楓さんはどんな夢を見てるのか伝えてくれたから、私も伝えとこうと思って』
「う、うん‥‥‥」
間違いない。なんか、緊張してきた。
告白というわけではないけれど、ほぼ告白みたいな感じだ。
『私も‥‥ずーっと昔から、楓さんに会ったときから、本当にずーっと、夢を見てた。楓さんに夢を見てたし、楓さんの夢を見た。きっとそのときから、私も恋してた』
顔を赤くしながらも勇気を出して言ってくれた沙羅に、私の体が熱を持つ。
―――夢を見た。
この言葉が持つ意味を私は知っていた。もし、沙羅も私と同じ意味でその言葉を使っているのだとしたら、それはつまり、出会ったときからずーっと、私たちはお互いに夢を見ていたということだ。
それがすっごく、嬉しくて。
嬉しすぎて、素直に嬉しいと言えなかった。
「そっかあ」
短い言葉に、あまりに多くの感情を乗っけすぎて顔が緩んでしまう。
『そ、それで‥‥その結構、す、すごい夢も見た』
「すごい夢?」
『楓さんと同じように、キスもしたし‥‥そ、その、すっごくおっぱい揉んだ』
「お、おう‥‥」
『抱き締めたし、匂いも嗅いだし、他にも結構いろんなところ触った。えっちなこと、いっぱいした』
言い切ってから、沙羅の顔が画面越しでもハッキリと真っ赤になる。
俯いて、持っていたスマホも天井を向いて沙羅が見えなくなってしまう。
彼女としては、すごく恥ずかしいことを言ったつもりらしい。いや、確かに恥ずかしいことに変わりはないのだけれど‥‥でもなあ、それ‥‥‥
「沙羅」
呼ぶと、沙羅はスマホに自分の顔を映す。
『な、なに‥‥?』
なにか酷いことでも言われると思っているのか、沙羅は目をこちらに合わせてくれない。
「それね」
『う、うん‥‥‥』
「全部、私もしてんだわ」
そう告げると、ようやく目を合わせてくれる。驚いたような丸まった目だった。
「つまりね」
和ませるように、あと、恥ずかしさを包み隠すように精一杯の笑顔を作った。
まあ、ちょっと本気でおかしくて笑いそうになったってのもあるけれど。
「お互い様ってこと」
沙羅は全く驚きを隠さず、固まったまま動かない。
ふとした瞬間に動いたと思ったら、後ろに倒れて、ベッドにボスンッと着地した。
そのとき、下から「かえでー! そろそろ行くよー!」とお母さんの声が聞こえてくる。
「あ、ごめん。じゃあ、えー、なんだ? メリクリ」
未だに固まったままの沙羅は、口だけ動かして『め、めりく、り~』と言った。
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