第13話 作戦会議です

「会長に全てバレていた!?」

「うん、そうだった」


 帰ってからアーニャとばあやに話しました。二人ともとても驚いていましたが、ばあやの方はすぐに冷静さを取り戻しました。


「やはり御父上様方にお話しすることは考えていないのです?」

「そうね、一年に一度のお祭りだもの。騒ぎにはしたくないわ。私達だけで解決したいの」


 そう言ったものの、じゃあどうやって解決するのか……まったく見当がつきません。

 自分で言い出した手前、なんとかしなくちゃいけないとは思いますが、考えれば考えるほどまとまらず、もやもやした気持ちが心に溜まっていくばかりです。


「じゃあさ、何かこう、裏をかくような作戦とかないっすかね?」


 沈黙を破るようにリリナが何となく思いつきを口にしてみますが――。


「裏ってどの辺りの裏?」


 アメインが本当に不思議そうな顔で小首を傾げ、素直な疑問を投げかけます。


「うーん、なんすかねえ……」

「リリナ、落ち着いて。考えがまとまらない時は、いったん深呼吸するのも良いわよ」

 アーニャがなだめるように声をかけます。


 すると、今まで静かに座っていたナギが静かに手を挙げました。


「情報戦とか、潜入とかなら拙者がやりますか?」


 淡々とした口調でナギが手を挙げて提案します。


「情報戦……会長の裏をかけるっすかね?」


 リリナが心配そうに言います。内心は私自身も一緒です。ただ、ナギに頼むというのは、何か良い案のようにも感じますが……あれは上手くいくかなあ。


「そうだ、もういっそ会長さんの弱みを握って脅迫するとか?」


 唐突にアメインが真顔でそんなことを言い出します。


「アメインちゃん、そんな物騒なことはダメよ」

 アーニャが慌てて止めに入りました。


「だって、他に何も浮かばないんだもん」

「うーん……」


 みんなで顔を見合わせると、もう一度深いため息が居間に響きました。

 こんな風に堂々巡りをしているだけでは何も解決しません。もしかしたら張本人の私が何か言わなきゃいけないのかもしれませんが、何を言えばいいのか……。


「ミナモは何かある?」


 アーニャが疲れた顔で私の方を向きました。


「え、私?」


 突然話を振られて、私の胸がどきりとします。頭を巡らせて腕を組み、少し考えます。

 さっきからずっと胸に引っかかっているもの。違和感というよりは、小さな疑問のような感覚。

 それは、もしかして私たちはそもそも考える方向を間違えているのではないかという漠然とした何かです。


「うーん……私達がそんなに考えても意味無いんじゃないかな?」

「えっ?」


 一斉にみんなが驚いた表情で私を見つめます。その視線に私は急に心細さを覚えましたが、ここで引いてはダメだと自分を励ましました。


「だって、私達は王国軍でも無いんだし、会長さん達を出し抜こうなんて無理があるのかなって……」

「じゃあどうするっすか?」


 リリナが戸惑いながら問いかけてきました。


「正面から乗り込もう。多分準備もしているだろうから証拠もあるよ……多分」


 自分で口にしていても、実際それがうまくいくかどうか自信はありません。けれど、多分相手は私達より一枚も二枚も上手です。色々と複雑な策を考えても、それより上を行かれると思います。それなら逆に、単純なやり方で下を行けば良い。そんな単純な発想です。

 それに……あと少しだけ、心の隅に浮かんだ考えがありました。本当に有効かは分からないけれど、それがもしかしたら役に立つかもしれないという、頼りない希望のようなものです。

 そんな続きを話そうとしますが、みんなが私をじっと見つめている視線が少し痛くて、口を開きかけたまま躊躇ってしまいます。こんなただの子供の私が考えたことなんて、本当に通用するのか不安になりました。自信も揺らぎ始め、申し訳なさでいっぱいになります。


「ご、ごめんやっぱ――」

「じゃあそうしましょう。キリルにも声を掛けておくわ」

「ええ、その方が良いっすね」

「え、えっ?」

「何?大丈夫よ。私も強いけどキリルはもっと強いんだから」


 特に疑問を挟むことも、バカにすることも無く、アーニャとリリナは話を続けます。いや、そうじゃなかったんですけど……


「い、いや!私なんかの考えで本当に良いんですか?」

「師匠、あんなに啖呵切った後にそれは通用しないっすよ?」

「そうよ、それにあなたの事、ただの子供じゃ無いって最初に言ったでしょ」


 アーニャは私の手をぎゅっと握りしめ、真剣な目で私を見つめてきました。その温かく強い瞳に見つめられていると、不思議と心の奥の不安が少しずつ和らいでいきました。


「う、うん。わかった」


 大丈夫だよね。そんな気持ちが芽生え始めました。


「あとさ、もう少し考えていることがあるんだけど」

「なになに?」


 アメインが期待を込めた声で聴いてきます。


「あの海賊さん達に一緒に戦ってもらいましょう。この前会った会長の部下曰く、相手には海賊さん――ゴローマさんの仲間だった人達が多くいるみたいです。きっと場合によってはこちらに味方してくれるかもしれません」

「海賊たちが敵に回ることは?」


 ナギがまた淡々と言います。


「無いと思う。悪いことはしたくないって話だったし」


 あの感じだったら寝返るって事はしないでしょう……多分。

「うん、わかった。では、ひとまず今日の会議はここまでにしましょう」


 アーニャが軽く手を叩きながら、にこやかに締めくくりました。

 少しだけ疲れが残る表情をしていましたが、どこか清々しくも見えました。


「ミナモが出してくれた案があるんだし、これ以上深く考えても仕方ないわ。あとはその時になってみないとわからないものね」

「そうっすね。まあ、師匠の言ったとおり、あんまり難しく考えても仕方ないっすし」


 リリナがのんびりとそう言うと、アメインが元気に頷きました。


「うんうん!難しく考えても良いことないよね。わたし、ミナモの案、いいと思う!」

「拙者も異論は無いです。あとは作戦に備えて万全の体調を整えておきます」


 ナギも静かな笑みを浮かべて賛同します。 


「あ、あともう一個だけ……」


 私はもう一個思いついたとっておきの事をみんなに伝えます。


「「「「「ええ!?」」」」」

「だ、ダメかな……?」


 みんなの驚嘆の声が家に響きます。


「い、いや良いとは思うっすけど……」

「ボクは賛成だよ!」

「でも良いの……?本当に?」


 いろんな反応です。でも良いんです。多分それがお祭りも出来て、色々と解決できる一番の手段。ナギには大役を任せちゃいますけど。


「拙者は大丈夫です。いつでもいけます」


 本当に?出来るの?


「では皆様、本日のところはゆっくりお休みくださいませ。明日から準備が色々と忙しくなりますゆえ」


 ばあやが柔らかな口調でまとめ、会議は本当にお開きになりました。

 皆が立ち上がり、それぞれの部屋へ戻ろうとしている中、アーニャは再び私の方を向き、小さく頷いて見せます。


「ミナモ、ありがとね」


 その短い一言だけで、胸に残っていた不安がすっと溶けていくようでした。

 これで本当に大丈夫だろうかという気持ちはまだ完全には消えませんが、今はアーニャやみんなを信じて進むしかありません。


「うん、こちらこそ。ありがとう、アーニャ」


 私たちは微笑みを交わし、明日への決意を胸に部屋へと戻っていったのでした。

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