勝者、どこかの誰かさん

第1話

私はきっと、男を見る目がない。


実際に今付き合っているであろう男は、それはもうよそ見ばかり。


私に甘い言葉を吐いておいて、その口で他の女の子にも同じようなことを言う。


だから少しだけ。悔しいから、少しだけ。


いつもの仕返しのつもりで、私も他の男と二人で出かけてみることにした。


多分相手は私に好意を持っているだろう。あの女慣れした奴と付き合っているのだ、私だってそこまで疎くはない。


でも、やはり比較対象が大きすぎたのかもしれない。


彼なら、彼は、彼が。


頭を占めた大半に気が付いたら急に虚しくなってしまった。


その後の想定内の出来事もずっと上の空で、結局引き伸ばした答えを引きずった足で辿り着いたのは、その仕返しの相手のもとである。


私の姿を見た彼はやけに楽しそうに肩を揺らす。反対に胸に僅かな嘘を仕込ませた私の肩は沈んでいた。


「というわけで私、今日告白されたよ」

「へえ、良かったね」

「彼、真面目で紳士でとても素敵な人なの。どこかの誰かさんと違って」

「ふうん、それならますます良かったじゃないか」

「多分私を一番に考えてくれると思う。どこかの誰かさんと違って」

「そうかもしれないな」


仕方ないとでも言いたいのか、肩と眉を下げて困ったように笑う仕草に、私は急に胸が苦しくなる。


自分で浮気のようなことをしておいて、報告して、勝手に苦しくなって。本当に一体私は何がしたかったのだろう。


引き止めてくれるとでも思った?彼にとっての私が、私にとっての彼と同じ立ち位置だと証明したかった?


きっと私、本当は。


「でも、それでも私はどこかの誰かさんの方がいいみたい、趣味悪いよね」


私にはあなたじゃなきゃダメだと、そう言いたかったの。


「ははっ、なんだそれ」


趣味悪いは失礼だろ、と彼は笑う。


ひとしきり笑って、私の腕を優しく掴んで胸元へと引き寄せる。


「ま、俺もお前にはどこかの誰かさんの方がお似合いだと思うけど。それに、」

「それに?」

「そのどこかの誰かさんとやらは、お前のことが相当好きみたいだし」


耳元で囁かれるそれは甘い甘い罠。


一撃で私を仕留める術を知っている男の本音なんて、いくら探っても分かるわけないのだから。


だから私は今日もこうして負けを確信して、大人しくその身を委ねるのだった。


勝者、どこかの誰かさん。


敗者、そんな奴を心底愛してしまっている私。




【完】

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