第12話:ジジイと熊本にて


「ありがとうございました……」


 忌々しいダンジョンが壊された事で、ようやく通常営業に戻れると礼を言う男が一人。別にそんな褒められる事でもないと謙遜し始める火焔。


「いえ、僕らは全国のダンジョンを全て終わらせる事が目的なので……」


「……こちらを……」


 そう言って手渡されるお守り。コレを無碍にするのもしのびないので貰っていくことにした火焔。


「おい火焔!行くぞ!」


「あっ、はーい!あ、お守りありがと……う?」


 師匠に呼ばれ振り返り、お礼を言おうとした火焔だがそこには誰もいなかった。何なら本来の神主は全く別の所にいたし、先ほどの妙に学の高そうな男はどこにもいなかった。


「……ま、まさかね……ハハ。ハ……」


 その男が誰で何だったのか?少なくとも火焔にはわからない……。


 それはそうと、一行はせっかく九州に来たので観光をしに行こうと現在熊本県に向かっていた。熊本と言えばあのゆるキャラが有名……。どころか、九州観光中にそのキャラクターを見ずに観光する事は不可能と言われている程有名な奴がいる県。


 それ以外となると……。熊本城とか。


「と言う訳で鍋ヶ滝なべがたき公園にやって来たぞ」


「なんか見たことありますね。しかしいい空気ですねぇ」


 詳しい事は説明しないがどこぞのお茶のCMにも使われたと言う凄い場所である。別にここにダンジョンがあるとかそう言う訳ではなく、単に師匠がここに来たかっただけの話である。


「……。え?アレ熊本城とか行かないの!?」


「もちろん行くわい。じゃがその前にここに来たかったんじゃよ」


 まだ師匠が若い頃(95年程前です)、師匠は心雅と共に来たことがある。その時も修行目的では無く、単なる観光として。つまるところ弟子に同じ景色を見せたかっただけと言う訳である。


「……いい景色ですね」


「そうじゃな。……どれ、出るか!」


 そう言って踵を返した一行だが、その瞬間滝を切り裂くようにダンジョンが出現する。これにブチ切れた師匠と火焔。顔は二人共見えないが相当キレているようだ。


「……」


「え、行くの?いや、良いけど……」


『なんやいきなり呼びつけて……ってなんや?!どないなっとんねんコレ!?』


 即座にダンジョンへと潜っていく二人。後ろから慌ただしくチックの録画機能をオンにしつつ後を追うシオン。だが彼女がそこで見たのは、今までのダンジョン攻略がお遊びに見える程の淡々とした殺し。


「え、コレ全部……死んでる?」


 一見すると肉体には傷はない。だがよく見れば、全員心臓が無いか頭部の脳幹めがけて穴が開いているかと言うエゲつない死に方をしている。死んだことに気が付いていないのかただ立ちながら死を感じている奴もいた。


「……え」


 ダンジョン内は綺麗な草原なのに、それに見合わない死体の山。外では鳥が鳴き花が咲き誰もがステキな一日を過ごしている事だろう。


「だからお前らみたいなゴミは……地獄の劫火で焼かれてしまえ」


『あわわ……あわわああわああ』


 :ひ、ひぇ……ッ

 :アレでも殺意を押さえた方だったの?!

 :見ろこの死体の山を!2735体の死体の山だ!これが人の業なのだ!


 ただただ致命傷になるだけの攻撃を続けるだけ。拳法とは微塵も呼べない悍ましい何か。それが目の前にいる。それでもシオンは撮影を辞めない。動画配信者としての意地である。


「階段じゃな」

「そうですね」


 床を破壊して進まないの?と思うだろうが、キレているからこそ全てのモンスターと言うモンスターを皆殺しにして進むためわざわざ階段なんか使っているのである。もちろん道中で出会う奴は片っ端から殺戮スクラップ殺戮スクラップ。誰一匹として生かすつもりはない。


「コワ……」


『ここまでくるとモンスターに同情するわ……』


 後に残る存在なし。誰一人生存セズ。散っていく命に価値などなし。


 :こりゃひどい!誰も生き残ってないや!笑うしかねぇぜ!

 :ホントに大丈夫?コレ配信で写して良い奴?

 :すみませ~ん、多分そこ結構ムズいダンジョンだと思うんですけど……


「む?」


「アーティファクトですね。……ただ、何もないのが気味が悪いところですが」


「十中八九罠じゃろうな。だが知らん。何が出てこようと殺す」


 アーティファクトと思しき歯車に触れると、そこから歯車で出来た存在が出現する。背後には懐中時計が振り子のように揺れていた。


『我が名はカッt』


「『幻矛ゲンム』」


 師匠が技を放ったかと思うと、それの存在を全否定するように打撃が飛ぶ。

 結局名乗る前にそれは粉微塵にされた。ついでにダンジョンも崩れ始めた。二人はしばらく動かなかったが、コレでダンジョンが破壊できたのならいいか……とゆっくり脱出し始める。


「いかんな……。ついキレてしまった」


「僕もです……。まだ修行が足りないですね……」


「そう言うの良いから早く逃げない?!」


 結局、二人が脱出下直度に崩れ落ちるダンジョン。ダンジョンが沈んでいった後には何も残らずきれいさっぱり消え去るのみ。後には何も残らない。そこで今まさに誰もがドン引きするほどの殺戮があったとしても。


「どれ。熊本城にでも行くか~」


「そうですね師匠」


「……さっきまでのテンションどこに行ってるの……?」


 さっきまでの二人がウソのように元のテンションに戻ると、そのまま熊本城へと向かう一行。どれだけあの場所を荒されるのが嫌だったのだろうか、分かりはしないがいずれにせよ事は終わっているのだ。


「よっ……と。全く……。顕現してから3分で負けんなよ」


 が。事は終わっていなかった。先ほどまで師匠らがいた場所に、ペストマスクを被った男が現れたのだ。その人物は誰もいないことを確認すると、地面に手を突っ込んで先ほど師匠が粉微塵にしたはずの存在を引き上げる。


「なん……。だ……あれ、ハ」


 引き上げて即座に左足に値するを引き千切ると、ペストマスクを少しだけ外してその足を食べ始めていく。そして残った残骸はその辺に捨てると魔法を使用して燃やし始める。


「……。殴られ過ぎて知能までイったか……。まぁいい。お前の人格などに興味はない。私が欲しいのは……お前のボディだけだ」


 燃える残骸を眺め、塵の一滴すら残っていないことを確認すると、男は闇へと消えていく。去り際にポツリと


「……現状最も我々の目的に適している人物は……あの三人と言う訳か」


 と、それだけ呟いて。


 ◇


「と言う訳でやってきたぞ熊本城!!!」


「デカいですねぇ~」


 さっきまでの虐殺が嘘みたいな表情を見せる二人。シオンももう気にしないことにした様子。とは言え熊本の大きなダンジョンはほぼ無いようで、しいて言うなら先ほどあったダンジョンがデカいダンジョンだったのだろう。


「……にしても、九州地方福岡にも熊本にも配信者全然いませんねぇ……。ホントにダンジョン流行ってるんですかね?」


 火焔は九州に来て全く人がいないことに疑問を呈する。既にそれについて調べていた師匠は、なぜ九州地方に配信者がいないのか説明を始める。


「そこ気になってワシ調べてみたんじゃがな?……あぁ、検索はチックに任せたが」


『そうなんよな。言っちゃなんやけど九州全然デカいダンジョン無いねん。しいて言うならこの前の太宰府と……もう一つあるけど、アソコは……』


「……九州地方の中で一番配信者が多いダンジョンはどこにあると思う?」


「……どこですか?」


 師匠は地図に載っているある場所を指す。そこは日本有数の活火山であり、現在もなお噴火が続いている危険な土地。だがダンジョン内で取れるアイテムや武器は九州地方はおろか日本内でもトップクラス……。


「桜島ダンジョンじゃよ」


 ___________________


 師匠のキレ具合:ブチ切れるとオーラがむき出しになるぞ!羽虫とかなら触れただけで消し飛びます。ちなみに過去一でキレた時は大の大人が傍を通っただけで死にました(笑)


 高評価感想星ハート待ってます!!!

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