第11話:ジジイ、大暴れ


「さてと。クックック……滅茶苦茶にしてやるッ!」


 :イヤッイヤァッ!

 :ま、待てッ!暴れるのは止めろッ

 :これ以上何を暴れるって言うんですか?


『別にやるのは構わないんだが……。程々にしてくれよ?』


 火焔の戦いぶりに感化されたのか、テンションが元に戻ったのか。師匠は本気でダンジョンを解体することにしたようだ。配信の事など全く考えず、まずはダンジョンの床を砕いて下へと向かう。


「そ、それホントにいいんですかぁ~!?」


「大丈夫でしょう。行きますよシオンさん!」


 ちなみにダンジョンの床は通常ダイナマイトで破壊されても壊れないほどの耐久力を持っているが、師匠の前では障子紙と同じくらいの硬さでしかない。もはやダンジョンがかわいそう……と思うほどの圧倒的蹂躙に、コメント欄も阿鼻叫喚。


 :あーあやってんねぇ!!!

 :なんじゃぁこりゃぁ!おいっやめろよそんな事!

 :可哀そうなダンジョンさんねぇ

 :(ダンジョンのコメント う、うせやろ……こんな事が……こんな事が許されてえぇんか?!

 :ハッハッハ!こんなんどうしろってんだ!


 15Fから30Fまでゴミのように床をぶっ壊しながら進んでいった一行。探索要素もダンジョン要素も否定しながら突き進むそれは、迷宮破壊者デストロイヤーそのもの。


「おっ、ここで仕舞のようじゃな」


 明らかに床の硬さが違う場所に落ちたところで、その場所が最終階層だと腕を止める。目の前には明らかに様相の違うアーティファクトと、何というか蜂の巣みたいな障害物。


「如何にも入ってくださいっていう感じじゃなぁ……。ま、付き合って……やらんもんねーーーーッッッ!!」


 師匠はそう言うとその七の構えを取る。と言っても七はほぼ構えという構えはない。ただちょっと姿勢を伸ばすだけである。


「表我流その七、応用編……『響真蛇キョウシンジャ』!!!」


 巣を叩く。殴るのですらなくビンタするくらいの軽~い打撃。だがすぐ効果は出始める。巣が一瞬震えたかと思うと、次第に震えは大きくなっていきドンドン巣全体が地震でも起きてるのかと錯覚するほど大きく揺れていく。


「あ~……。成程」


 火焔がそのエグさに気が付いた瞬間、ドロリと巣の入り口からデロッデロに溶けた肉があふれ出て、そのまま物言わぬ屍が出来上がった。もうドン引きすることしか出来ない視聴者達。


 :あ……うぁっ……!

 :え!?良いの?!こんなグロ画像配信で映していいの!?

 :なんじゃぁこの……なんじゃぁ!?


「あー……。ヤバいね。ホントに」


 もう馴れているシオンはこの程度の反応を示すのみ。ぶっちゃけかなりヤバい光景だが、今までのアレコレよりはマシだと判断した模様。一瞬その肉塊の中にいる女王蜂と目が合った時は流石に吐きそうになったが。


「今の技は内臓破壊用の技ですね?」


「あぁそうじゃ。無論、それだけが目的ではないがな……」


 そしてこの光景を前に、一切怖気づかない火焔。まぁこの程度なら見慣れているというのもあるが、やはりコイツも壊れてしまっているのだろう。それはそうと、師匠はむしろこの後を警戒している様子であった。


「……師匠?」


「まぁいずれにせよこの程度ではないと思っていたが……。出てこい」


「……アンタ、空に目でもついてんのか?」


 空間の一部がゆがんだかと思うと、そこから何やらカメレオンのような見た目のモンスターが現れた。ソレはゆっくり地面に降りてくると、肉塊になったハチの巣を蹴り飛ばす。


「まぁいいや……。オレは『ズィール』。俺こそこのダンジョンの真のダンジョンマスターって奴だよ」


「あーね。……多分ハチの巣に入ったらその手に仕込んでる毒ガスか何かを噴射して中の蜂ごと虐殺するんでしょ?」


 火焔がそういうと、ズィールは腕に仕込んでいた毒ガス噴射装置を捨てて肉体を変化させ始める。まるで蛹が蝶に変化するような動き方に、シオンは言いようもないキモち悪さを感じていた。


「隙ありぃっ!!!」


「は?えっちょっおmゴッホァッ?!!?!?!?」


 :あ、あぁっ……!

 :マジかコイツ!マジかよコイツッ!

 :容赦も遠慮も一切ねぇ~ッ!そこに痺れる憧れるーッ!


 が。がである。師匠は一切の情け容赦なく……変身しようとしていたズィールをぶん殴る。隙を見せたほうが悪いので仕方ないところだが、それに大いに文句を言い始めるズィール。


「て、テメェッ!?普通変身中に攻撃するかぁッ?!」


「?そう言うのは戦う前に行えばよかろう?何故わざわざ目の前に着て変身をする?バカなのか貴様は?まぁ畜生相手には難しい話か……」


「こ、コイツ……ッ!これでも食らいやがれッ!!!」


 そういうとズィールは先ほど捨てた毒ガス装置を拾い師匠達に向けて噴射する。もちろん人間が吸えば一呼吸でマヒを起こし二呼吸で全身が固まり、三呼吸すれば死に至る猛毒である。


「死ね死ねぇーーッ!お前らみたいなのは全員死ねばいいんだッ!!!」


 が。


「あぁ……。そう言う事出来るんですね師匠……」


「……あ、あぁ……?!」


 何度でも言っておこう。師匠という存在は化け物である。なんと師匠は毒ガスを吸い込んだ!通常なら当然お陀仏だろうが、師匠の体内ではとんでもないことが起きていた。


 :ん~!?なにそれ?!

 :人間濾過フィルターかな?!

 :……は?!え!?どうやったらそれが出来るの?!


「バ……化け物がぁっ!!!」


 なんと、毒ガスを吸い込んだ瞬間口の中で濾過して吐き出したのだ。口から洩れるガスは無毒化され毒としての効力は失われている。異常と言わざるを得ない光景だが、事実として目の前に出されるともはや誰も理解できていない様子。


「さて……返すぞッ!」


「や、やめろぉっ!」


 そして無駄に強い毒ガスはワザと浄化せず……一度肺に貯めて保存し固めた物をズィールにぶつけた。それは避けようとして腕に当たり、そこからあっという間にズィールの肉体を蝕み、彼の肉体をグズグズに溶かしていく。


「ぎゃぁぁぁぁぁッッッッ!!!こんな!こんな下らねー死に方ッ!嫌だっ、嫌だーーーーーッ!!!」


 ブスブスと音を立て完全に肉が溶け切り、後に残ったのは彼が蹴っ飛ばした肉塊と同じ肉塊であった。そしてそれに一瞥をする事もなく、アーティファクトを起動しに行く師匠。


「……で、コレはどういうあーちふぁくとなんじゃ?」


「さぁ?チック何か知ってる?」


『……ハッ!思わず絶句してたわ……。いや、なんなん?……アレ。ワレ……夢でも見てた?』


「現実だよ……。何?なんなのアレ……」


 困惑が止まらない二人をよそに、師匠と火焔はどうやってコレを起動するものかと模索していた。しばらくしてようやく起動方法が見つかった。ガーッという音と共に、その機械からはマップが出てきた。何の変哲もないただのマップである。


「……なんでしょうね、コレ」


「今までで一番ワケのわからんモノが出てきたが……。これもあーちふぁくとなのかのぉ?」


 とりあえずダンジョンが崩れる前に脱出を始めた一行。その前に配信を切りこの部分が間違っても映らないようにする。

 またBANされてはたまった物ではない。同じ轍は二度と踏まないのだ。まぁ詰められたら逃げる手段は山ほど用意しているのだが。


「それにしても……あの二人はどうなったんでしょうか?」


 と、ここで火焔が気になっていた事を口に出した。佐賀ダンジョン崩壊時、確かにあの二人は巻き込まれたはず。動画の更新も無く、今となっては知っていてやったのか知らずにやっていたのか分からない。


「……多分生きとるじゃろうなぁ。じゃが、どこに行ったのか分からん以上深追いはせん。……ま、多分じゃが……ワシらとやっとる事自体は似とる。この九州地方で配信を続ければ、出会うことになるじゃろうて」


 が、師匠は理解していた。多分生きていると。正直に言って師匠はあの二人と出会った瞬間に、二人のどちらか分からないが悲しみのオーラを感じていた。自暴自棄という奴だ。おそらく片方は知らずに、もう片方はダンジョンの仕組みを知ってやっている。


「……なんであの二人はこんな事をするんでしょうか。……そして、何が目的なんでしょうか……」


「……さぁな」


 火焔相手にはそう言ったが、内心は違う。


(おそらく……世界への復讐。……それがメインなんじゃろうな。……それをしたとして、何が変わる訳でもあるまいが……)


 結局のところ、当人以外で自分自身の悲しみを癒せる人間はいないのだから。


 ___________________


響:七代目表我流師範『音無おとなし修也しゅうや』が開発した技である。彼はとても腕の良い医者であった。


 高評価感想ブックマーク星ハート待ってます!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る