完全な君が見たいから、

@Suima3

第1話 7月2日


「起きろー!!」

18度に設定した冷房の寒さに耐える為に包まっていた羽布団を剥がれてしまう。

「なんだこの部屋は!」

早朝から騒がしい声に耳をやられてしまうのじゃ無いかと自分自身が心配になる。

「ねーねー起きてー」

「うるさい!…って寒!」

朝5時。貝橋奈威は自称黒髪ロングの超絶美少女妹の貝橋愛美の睡眠妨害によって目を覚ますのであった。ただ、美少女と間では行かないが、それなりにはモテるらしく、黒髪のお腹あたりまである髪は事実なのでほぼ合っていると言ってもいいかもしれないが。

「なんだよ。まだこんな時間じゃないか」

時計を見た後に外を見て改めて早く起き過ぎた事を悔やむ。スマホの目覚ましを7時に設定した意味が無くなり、そのうえ睡眠と云う孤高の行為を邪魔した愛美を奈威は睨んだ。

「あのね、ここ分からないの」

何かと思えば、愛美は紙とペンをベッドの上に出す。

「中学中間テスト直しプリント…」

そんな事の為に俺は起こされたのかと、奈威は溜息を吐き二度寝する為にもペンを走らせた。


「ってな感じでさ。それからは眠れなくてさぁ、今眠いわけよ」

「それは災難だったな」

螺九高校の2ーBの教室で奈威が友達の朝倉雷那に朝の話題で話を進める。

朝倉雷那は中学からずっと同じクラスの友達で、宿題を忘れたことは一度も無く、整った顔立ちにスタイルの良さはクラスの女子を魅了している。

「おっと、もうすぐチャイムが鳴るぞ。移動教室だから移動しようぜ」

雷那が話を半ば強制的に止めて移動する様に奈威に促す。朝にあった出来事の愚痴を全て吐けなかった奈威は缶のコーンスープのコーンが最後に残るくらい腑に落ちないが、雷那の言う事も間違ってはいない為立ち上がった。

「じゃあ、頼むよ。いつもいつも悪りぃね」

雷那は高一の前半に事故に遭い左腕を失った。だから、奈威がいつも荷物を持ってあげている。奈威もそれが嫌ではないし、むしろやってあげたいくらいだ。

「そういえば、今日朝のホームルーム無かったね」

「昨日言ってただろ。今日は朝のホームルームが無い代わりに帰りのホームルームが長くなるらしいぞ」

ホームルームなど睡眠時間としか考えていない奈威はそんな事知らなかった。だが、家に帰ってもやる事の無い奈威にとっては何の問題も無いが。


「はぁー。疲れたぁー」

午前中の授業が終わり奈威は大きく息を吐く。

「溜息を吐いて良いのは受験に落ちた時と彼女に振られた時だけだぞ」

持ってきた弁当を食べにくそうに食べる雷奈が注意した。ただ、高校二年生と云う受験が無く、一番楽しめる学年にテストをするのはどうかと思う奈威だ。溜息の1つや2つ出てしまうのは必然である。

「ふーん、じゃあ僕はコンビニで昼食でも買ってくるわ」

「あ、俺も行く」

弁当がまだ半分以上残っているのにそれを蓋を閉めて元の状態に戻す雷那。

「まだ、食べ終わって無いじゃん」

「いいのいいの。どうせ残り物を入れただけだし」

そう云う雷那を見るのは初めてで、成績優秀で真面目で悪が嫌いな正義マンはそう云う事はしないと思っていた奈威だったが、雷奈が人間であることの再認識をしたのであった。

「でも、何を買うんだ?」

「好きなアニメの一番くじ」


学校の前には大きな通りがあり、そこを右に曲がって少し行くとコンビニがある。そこが一番近いコンビニだが、どうやら雷那の欲しい物はそこには無いらしく、さらに先のコンビニに行く事になった。

普段の行き帰りは雷那の親御さんが面倒を見てくれている為、腕を失ってからと云うもの、奈威は雷那と外に出たことは無かった。ただ、一緒に外を歩けて嬉しいだけでは無く、守らなければならないと云う身の心配をしなければならない為、歩き難い事を実感させた。

「本当にいつもありがとうね」

雲一つ無い青空の中、燦燦と輝く太陽が雷那を照らしながら改めて感謝をされる奈威は、顔を見ながら言われたのは初めてだった為少し照れ臭くなった。

「そんな事ないよ。だって僕も助けられた事あるし…あれ?そんな事あったかな?」

「知らね」

つい最近雷那の事を命の恩人とまで思った程に助けられた感覚が襲ってくるが、そんな記憶は辿っても無く不思議な感覚に陥った。忘れているのだろうか。それとも夢でそう云うのを見たのがなんとなく覚えているのだろうか。分からないが、その感覚の正体が分かるまでは助けてあげようと思う奈威だった。

「ここにあるの?」

目の前にある都会の大通りの横にあるコンビニとは思えない古さに奈威は驚きを言葉にする。

「ここは結構前からあるらしいよ」

「ふーん」

中に入ればコーヒーのいい香りがフワッと広がった。

「あれだ」

レジ前にある一番くじを引くための券を一枚取った。そして、奈威は当初の目的である昼食を買うために、お弁当が置いてある場所に向かった。

「どれが美味しいと思う?」

普段は見かけないコンビニの弁当は何が美味しいのか不味いのかが分からないため、雷那に意見を求めた。

「うーん…これとかどうだ?」

ハズレが無さそうな唐揚げ弁当を指す。

「そうだな」

下手に冒険をして美味しくない物を食べさせられるよりは良い気がした為、雷那の意見を承諾した。そして飲み物を選んでレジに向かった。


「っっしゃっ!」

当たりを引けたのか、店を出てすぐにガッツポーズをする雷那に苦笑いで奈威は対応する。

「いいやつ引けたの?」

「そりゃあもう!」

雷那はスマホでフリマアプリの画面を見せる。それを奈威は除いた。

「これって…まじ?」

「マジだ」

1の次に0が5個続いている事に奈威は動揺を隠し切れない。

「じゃあ、行こうか…ぁ」

方向を変えようとする奈威は、後ろから人が居る事に気付かず、ぶつかってしまった。突然の出来事に驚きを隠せないが、バランスを崩し転ぶことに全神経を使う。

「いてて…」

全神経を使う等無理な話だ。そう自嘲しながらもぶつかった人の安否を確認するべく後ろを向いた。

「いててて…ぁ、ごめんなさい!」

頭を手で押さえながら、艶のある黒髪が邪魔して顔は見えないが声から女であり、そして引っ込んでいるところは引っ込んでいて、出ているところは出ていると云うスタイルの良い少女は泣いているのか、嗚咽まじりに息をしながらこちらを見るのだった。

「だ、大丈夫ですか…?」

怖い人を見るように怯える少女は常に涙目だった。

そんなに自分達は怖い人に見えるのだろうかと心配になる奈威だが、

「大丈夫だよ」

できるだけ怖がらせないように、優しく話しかけた。

「……あれ?」

格好に違和感を覚え少女をよく見ると、制服が螺九高校の制服だと云う事に気付いた。そして、胸元に付いている校章の色を見ると——、

「2年生…?」

2年生の色である青い校章が付いていた。

「ご、ごめんなさい!」

少女はそう叫び颯爽とどこかへ去ってしまった。

「おい奈威?」

放心状態の奈威に声を掛けたのは雷那で、その言葉が奈威の意識を現実に戻した。

「あ、あぁ」

「もしかして同学年の女の子に怖がられてた、って事か?」

筋肉が特別ある訳でも、怖い顔でサングラスをしている訳でもなく、むしろ逆に細い体に弱そうな顔の奈威を怖がれる要素は皆無であった。

「なんだろう。なんも面識が無いし、彼女でもなければ好きな人でも無いのに、すごいダメージを食らった気がする」

スマブラで云う300%並のダメージを食らった奈威は悲しい気持ちになりながら、学校に戻るのであった。


「はぁ、」

買ってきた弁当をつつきながら、奈威は溜息を漏らす。

「まだ、引きずってんのか?」

唐揚げを1つくれと言わんばかりに、箸を持ちながら希望に満ち溢れた顔で言ってくる雷那に唐揚げを1つあげて、質問の回答に首を捻って返す。

「でも、あんな子いたっけなぁ」

「確かに、見た事ないよな」

2ーABCと3クラスある訳だが、どのクラスでも見た事のないあの生徒に疑問が残っていた。

「ねぇ、それ一個ちょうだい」

雷那と悩んでいると、そこに割り込む声は唐揚げをねだる声だった。

「おま、それはショートケーキの苺頂戴って言ってるようなものだろ」

残り一個となった唐揚げを指で指しながらニコニコとコチラを見てくるのは最近雷那の紹介で仲良くなった咲口梓だった。

梓は後輩先輩ともに人気がある生徒で、持ち前の元気と明るい性格、そして誰もが二度見してしまう容姿に美しさで、見事生徒会長になったのだった。

ただ、奈威が梓と友達になるまでは人気のあるしっかりとした生徒の印象だが、友達になってから、それなりに話すようになってからは、梓は意外とポンコツであることが分かってしまった。無論、好意など微塵も無い為そんな彼女に幻滅する事も、逆にギャップで好きになる事も無いが。

「えぇー、良いじゃん」

学校の顔とも言える生徒会長は髪を青に染めている。規則上は髪を染めるのは良いのだが、生徒会長が染めるのはどうかと奈威は思うのだった。

「お前はショートケーキの苺を取るのか!」

「そんな事はした事ないよ」

「じゃあ、お前は雪見大福を一個頂戴って言うのか!?」

「……ぇ?」

それはもうすでにやったことのある人の顔だった。

「まさか、お前、言った事、あるのか…?」

信じられない物を見るような目で聞く奈威に梓はどんどん顔を青ざめさせるのだった。

「まぁ、いいじゃない」

場を和ませようとする雷那。それに便乗して梓は、

「そうだそうだ!」

幼稚園児を連想させる様に言うのだった。

「まぁ、お腹も一杯だし、はい」

「ぃやったぁ!じゃあ、いただきまーす!」

「——!?ちょ、ま…」

なんの抵抗も無く奈威の使っていた箸で唐揚げを食べようとする梓を止めようとするが、気が付けば箸と唐揚げは梓の口の中に収まっていた。


「みんな座ってー」

6限目が終わり、休憩無くして担任の大澤句実子先生が入って来た。

「えぇー」

反応は三者三様だが、圧倒的に不満の声が多いのは言うまでもない。ただ、大澤先生も急いでいる様なので、生徒達も文句は言いつつも素早く自分の席に座った。

「今日はやることが多いからテキパキ行くぞー」

じゃあ、と前置きをして大澤先生は自分が入ってきたドアに視線を当てる。

「転校生だ」

息を吐くように、当たり前かのようにサラッと言うその言葉にクラス内は凍った時間が訪れる。

「えーと、」

その停まってしまった時間を解凍したのは、そんな声と共に開いたドアの音で、クラスメートの視線は一斉に『彼女』に集まった。

——それは、奈威と雷那にとって見覚えのある人物だった。

「あぁー!」

コンビニの前で自分達を怖がった黒髪の少女だった。

「うるさい!」

驚きに声をあげる奈威を大澤先生は一喝した後、再び少女に視線を当てる。そして——、

「甘地憂です」

奈威とぶつかった少女、甘地憂と名乗るその人物は頭を下げた。

憂は緊張しているのか、動きが性能の悪いロボットの様にカクカクしていて、発する言葉さえもつまりつまりだ。

「ってことで憂さんをよろしくね。取り敢えず、あそこにでも座ってくれるか?」

クラスを見渡した後、句実子先生は空席に憂が座る様に頼んだ。

窓側で一番後ろの席だが、周りは女子に囲まれている為怖がると云う事は無さそうだと思うが、緊張は取れないらしく周りの女子から質問攻めになっている憂はどこか可哀想であった。

転校生の登場と云うイレギュラーな事はあったが、その後ホームルームは順調に進み、夏休みの話や宿題の話、試験の話、学校近隣に住んでいる人からのクレーム、などの話を聞きホームルームは終わった。

「なぁ、あの子ってあの子だよな?」

帰りの挨拶を終えて、ガヤガヤと話し声が飛び交う教室でまだ確信が持てない奈威は雷那に質問をする。

「あぁ、あの子はあの子だ」

「だよな。あの子はあの子にしか見えないよな」

「違いない、あの子しか有り得ない」

「やっぱりあの子か」

「——あの子あの子うるさーい!」

今の会話で何回あの子と云う単語が出てきたか分からない程あの子を使った奈威と雷那を、隣で聞いていた梓が少しキレ気味に注意する。

「そんなに憂ちゃんの事が気になるなら、話しかければいいじゃん」

「それが出来たら、こんな所で話はしないよ」

結果的に憂の人気は凄まじく、可愛らしい容姿に、弱々しい性格が相まって憂の周りには女子が絶えずに押し寄せている。ラインを交換したり、質問をしたりで憂は忙しくしており、それ以前にあんなに女子はいる所に奈威が行ったら、不慮の事故や空気の読めないKY奈威などの不名誉なあだ名を付けられかねないと、ネガティブな結末しか見えない奈威は、今日憂に近づくのはやめる事にした。そもそも、一回怖がられている為冷静に話し合えるかと言われれば問題点の追加である。


明日憂に話し掛ける事を決めた奈威は部活動の為に雷那を誘って音楽室に居た。

現在奈威と雷那は軽音楽部に入っており、理由はベースを少しやったことがあると云うのが表の理由で、本当はカッコ良さそうだから軽音楽部に入った。

幸いにも雷那がギターをやっており、ベースも持っていた為買う必要は無かった。

ただ、雷那は元々リードギターを担当していたが左腕を失ってからは弾くことが難しくなった為、今は監督兼作詞作曲を担当している。

「ねぇ、曲出来た?」

チューニングをしながら問う奈威に雷那は五線譜とにらめっこしながら「うん」とだけ頷く。

「どんな?」

「いつもはロックぽい感じだけど、今回は優しい感じにしてみた」

「ちょっと楽譜見せて」

まだ手書きの段階の楽譜を半ば無理矢理取り、目を通した。——雷那の云う通り、普段の激しい感じは全く無くゆっくりとした、ふわふわとした感じの曲だった。

「このコードを使う事で日常系アニメのbgm感が出るだろ?」

例えの上手さに納得を隠しきれない奈威。曲を作れるうえに作詞もできる雷那は尊敬の一言だった。

しばらくすると、他クラス、他学年の生徒たちも集まって来た。総勢14人の軽音楽部では5人1組で3チームで行う為、どうしても1チーム4人になってしまうところがある訳だが、それは不運な事にも奈威の所であった。事実上雷那は楽器を弾けない為、3人のチームだ。

要はドラム、キーボード、ベースしかいない為普段の演奏会では顧問の間街朝尾先生がリードギターを担当してくれている。

「じゃあ、やるか」

ドラムの隅川まふゆ先輩の合図で奈威はギターを構え、キーボードの美奈蘭愛先輩は鍵盤に手を置いた。そして、ドラムスティックを——、

「ちょっと待って」

演奏開始を遮ったのは顧問の間街先生の、疲れ切った声だった。

「ちょっと待ってって、どうしたんですか?」

朝花先輩の問いに間街先生は扉の方を見る。何かと奈威達は視線をドアに向けると——、

「これがどうしたんです?」

誰かいるわけでも何か置いてあるわけでもない、いつも通りの扉に拍子抜けしてしまう。

「あれ…?」

何を期待していたのか、目の前の事実に驚きを隠しきれていない間街先生はドアの方へ向かい「静かに待っててね」と言い残し部屋から出て行ってしまった。

「なんだったんだろう?」
奈威のその言葉に先輩も雷那も「ねー」と返し、楽器から手を離した。

「ごめんごめん」

間街先生が帰って来たのは数十分後だった。

そう言いながら部屋に「ははは」と笑いながら入ってきた間街先生は、さっきと同じ様に扉に視線を当てる。それを真似する様に奈威達も間街先生の視線を——、

「あれー?」

デジャブと言うのだろうか?さっきと全く同じ状況に奈威は内心苦笑いだった。

「あ、いたいた」

ただ、違う点は間街先生が求めていた物、もしくは者が扉の外にあるらしく手を半ば強制的に引いて部屋の中に入って来事だ。そして、間街先生は疲れた顔をして目的を奈威に見せた。

「…甘地…憂です…。よろしく…」

弱々しく泣きそうな声で挨拶をしながら入って来たのはコンビニで奈威達とぶつかった兼学校に転校してきて、それが自分と同じ2ーBだった黒髪の少女、甘地憂だった。

ここまで来ると運命まで感じてしまいそうになる程、憂と一緒になっている奈威だが、驚いているのは奈威であって、それを越す勢いで驚き、そして恐怖しているのは甘地憂であった。

「その、…すいませんでした!」

部屋に入って奈威を視界に入れた瞬間、大きな声で憂は頭を下げた。

「え、知り合い?」

腹を空かせた肉食動物の如く何を求めているのか一瞬で分かる目で見て、聞いてくるのは隅川先輩だった。

残念ながら恋愛要素は無いですよと内心で隅川先輩の事を憐れみながらも、今の状況を壊すべく取り敢えずは「大丈夫だから」と慌て気味に言った。

「で、謝りに来る為にここに来たの?」

「いえ、その、私、ただ軽音楽部に入りたくて来たのですが、その、えーと、そしたらあなたが居て…」

つまりつまりの喋り方に苦笑いを含めながら、そうかそうかと頷く。

「ちなみに、何をやりたいの?」

「えーと、ギターを…リード…」

自分の顔が太陽の様に笑った事に自分で気付くほどに嬉しくなった。今欲しいものはなんですか?と聞かれたら間違いなく甘地憂と言う確信さえある。

「じゃあ、僕たちのチームに?」

「は、はい」


「ねーねーなんでそんな、にやけてんのー?気持ち悪いよー」

甘地憂が奈威のチームに入ることを表明した後、一旦憂は職員室に呼び出され、そのまま解散となった。帰り、雷那をいつも通りに親に預けて先輩だけになった帰り道で、憂ちゃん歓迎会と題した物を開催する事に全会一致で決定し、サラッとラインを交換したらしい雷那に、憂のラインを教えてもらい、挨拶をした今はその返信待ちだった。

「え?」

妹の愛美の言う事が本当でにやけていたのならば、奈威自身も気持ち悪さを感じる。何よりそれはもはや——、

「好きな人のラインの返信を待つ人じゃないかー!」

「え、なに?好きな人居んの?」

好きな女の子からの返信を携帯の画面とにらめっこしながら、ソワソワしながら待つ子供の姿が奈威自身に乱反射をして顔が熱くなるのを感じた。

「いや、別に好きじゃない」

「男のツンデレはモテないぞー」

その意見には同意だが、その言葉が今の自分に当てはまるかと云えばどうかを考える奈威。

すると、携帯が震えた。画面が点き、通知が1に増えた。

「会いたくて震えたのかな?」

何故かする緊張をほぐす為に戯けながら奈威は携帯のロックを解いた。

『こんばんは。改めて私をよろしくお願いします。そして昼はごめんなさい』

丁寧な言葉遣いで絵文字も少し使ってくるその文章には驚きを隠せない。その返信をまじまじと見る奈威が気になった愛美はそっと携帯の画面を覗く。

「え、本当に彼女?」

「勝手に覗くな!」

奈威に一喝された愛美はシュンとなるが、今日は親が旅行に行っていて居ないので、晩御飯の用意を開始した。

「ここは、控え目に行くべきか積極的に行くべきか…」

勢いが売りの奈威が選ぶ選択肢は実質1つだ。

『いえいえ、気にしていません』

「かぁー!!ひよってしまったぁー!」

奈威は前者を選んだ。

ひよってる奴いる?ここだよー!状態の奈威は自分に情けなくなるが、気持ちを切り替えて今度は雷那のトーク画面に行った。

雷那とはいつも通りの雑談をして、キリのいいところで終わり床に入った時には日を跨いでいた。日を越えると謎の達成感が生まれてくる奈威は達成感に浸り、今日の事を振り返りながら意識を徐々に落としていった。



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