第3話


「【災焔:増幅】」

「【旋月:放出】」


 フレイオ陛下が放った黄金の焔が地面を燃やす獄炎と混ざりあい、火勢を強めながらラビを包囲する。

 ラビは魔法で焔を相殺しつつ、陛下への接近を試みるも、攻撃した者に継続ダメージを与える【呪鏡】に阻まれ、攻めあぐねていた。


灰燼王かいじんおう』の二つ名の由来となる『焔』の属性を操る陛下に対し、王国最強の『討滅騎士ヴォーパル・ナイト』のたるラビの属性は、力の方向を操る『月』。


 迂闊に近接戦を挑めば、力の方向を操られて一瞬で姿勢を崩され仕留められてしまう。必然、ラビへの攻撃は魔法による中・遠距離が主体になっていた。


 陛下の放つ焔はラビに逸らされ届いていないものの、地を舐める焔は確実に足場を減らし、ラビの周囲の空気を奪う。

 ラビもそのことに気づいているのだろう。酸素欠乏に陥る前に、どうにか俺の追従させた【呪鏡】を掻い潜ろうと、あらゆる角度から陛下に攻撃を仕掛けていた。


 ――【魔鏡:蓄積】【幻鏡:増幅/マナ】。


 俺――サンデルは戦闘の様子を垣間見つつ木の陰に【隠鏡】で身を隠し、二つの魔法を起動する。


【魔鏡】は、注いだマナ量に応じた威力の光属性の攻撃を放つ魔法。これに別の貴石ルースでマナの蓄積を指示。

【幻鏡】は映したものを投影する魔法。先程はラビの前に周囲の景色を映して投影していたそれに、の増幅を指示。


 そしてこの【幻鏡】は、使用者がそこに『在る』と認識さえしていれば、のだ。


 俺は身体の前で、【魔鏡】と【幻鏡】を合わせ鏡にする。


 マナを蓄積した魔鏡が幻鏡に無限に映り込み、幻鏡は

 映しとったマナは再び魔鏡に投影され、合わせ鏡の数だけ際限なく蓄積されていく。


 ラビが力の方向を操ると言っても、限度はある。

 魔法の範囲や効果の高さは、込められるマナ量次第。ラビが月魔法に込めた分を上回るマナ量の魔法であれば、ラビの防御は突破可能だ。


 俺の魔法なら、それが出来る。だからこそラビは、俺を警戒していた。


 ――頃合いか。


 魔鏡に許容量ギリギリまでマナを蓄えたのを見計らって幻鏡との合わせ鏡を止め、今度は幻鏡に魔鏡全体が映るようにする。


「【幻鏡:増幅/投影数】、【魔鏡:追従】」


 本物の魔鏡の周りに、魔鏡の幻影をいくつも生み出す。

 俺は攻防の合間を見計らい、魔鏡の群れをラビに向かって飛ばした。


「ご苦労、サンデル」

「――っ!」


 追従の指示先を魔鏡に変更したことで、【呪鏡】へのマナ供給が断たれ消失。それを見たフレイオ陛下は即座にラビから大きく距離を取り、陛下と入れ替わる形で鏡の群れがラビを包囲する。


 本物を破壊すれば限界まで蓄積されたマナがその場で炸裂し、幻影に攻撃すれば致命的な隙を晒す。

 ラビは自分を取り囲む鏡を振り切ろうとしたが、轟々と燃え盛る黒金の焔がそれを許さない。


 鏡の群れに追い立てられ、焔の壁に行く手を阻まれ。逃げ場をなくしたラビの脚がとうとう止まった。


「終わりだ――【魔鏡:放出】」


 尋常ならざる量のマナを蓄え、ラビを囲む全ての魔鏡がまばゆい光を放つ。

 攻撃が放たれる瞬間まで、どれが本物かは分からず、攻撃が放たれれば、もはや防ぐことも避けることも出来ない。


 俺も、陛下も、勝ちを確信した――次の瞬間。


「【全貴石ルース、蓄積マナ解放】!」


 詠唱により、ラビが纏っていた源鎧マナ・アーマーが砕け散る。

 鎧、槍、最初に地面に取り落とした盾――その全てから夥しいマナの奔流が溢れだし、ラビの身体を包み込んだ。


 今のラビが纏うマナ量は、俺が【魔鏡】につぎ込んだ量に匹敵する。

 同時に、【魔鏡】が蓄積されたマナを光線として解き放った。

 

 ――いや、防いだ所で!


 源鎧マナ・アーマーを纏わない生身での状態では、魔法の複数発動が出来なくなる。

 たとえ【魔鏡】の光線を防いだとしても、源鎧マナ・アーマーなしで完全武装の俺とフレイオ陛下相手に、どう戦うつもりなのか。


 【魔鏡】から放たれた光線が迫る中、ラビは円牌メダイユを握りしめ、静かに魔法を唱えた。


「――【歪月:反射】」


 刹那。ラビの纏ったマナが、周囲の空間を大きく歪ませる。空間の歪みにぶつかった光線が無数の細い光線へと分割され、ラビに命中する直前で軌道を捻じ曲げ、その全てが俺と陛下に向かって降り注ぐ。


 限界までマナを込めた光線を単騎で防ぎきる術はない――単騎で、なら。


「【呪鏡:追従】【護鏡:反射】‼」


 俺は即座に陛下に【呪鏡】と、攻撃を反射する効果を持たせた護りの鏡【護鏡】を飛ばす。

 咄嗟に込めたマナ量では、完全に防ぎきることは出来ないが、鎧に付与している【護焔】と併せつつ逃げに徹すれば、少なくとも死には至らないはずだ。


 その後に源鎧マナ・アーマーを捨てたラビを討ち取れば、陛下は無事に逃げられる。


 ――陛下……お供できずに、申し訳ありません。


 全ての護りを陛下に与え、俺は眼前に迫る自身の魔法を見上げた。


「ハハッ……綺麗だなあ」


 星よりもまばゆく輝く光線に、俺は乾いた笑いを零す。

 敵国の兵士も自国の民も、等しく消し飛ばした己の魔法。鏡に己を映すがごとく、自分のしたことが、自分に返ってくる。


 何とも、俺らしい最期だ――……


 そう、己の運命を受け入れた瞬間。


「サンデル!!!!!」


 焔を纏った真紅の影が、俺の名前を呼びながら、猛然とした勢いで俺の身体を抱きかかえる。


 ――なん、で?


 その影が、フレイオ陛下と認識した直後。



 俺と陛下の身体を、空から降り注ぐ無数の光線が貫いた。



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