第10話 作戦室
「みんな、俺について来い」
野獣先輩の一声で、俺、上野先輩、朝日先輩の三人は彼の後ろについて歩き出した。
向かう先は、オフィスの隣にある会議用の小部屋。
社内では“作戦室”なんて呼ばれてるらしい。
壁一面がホワイトボードで埋め尽くされ、
片隅には古びたコーヒーメーカーが置かれているという、
やたらドラマチックな会議室だ。
バタン、とドアが閉まる。
室内には妙な緊張感が流れていた。
「さて。プロジェクト・再始動だ。まずはキックオフミーティングを——」
野獣先輩が腕を組みながら言いかけた、その瞬間。
——ガチャ。
勢いよく開くドア。
そこから、ぜぇぜぇと息を切らしながら現れたのは、
小太りの男性社員だった。
丸いメガネがずり落ち、シャツの脇に汗じみが広がっている。
両手には分厚い資料の束。
運搬スタイルは完全に『伝説のRPGで仲間になる学者タイプのキャラ』である。
「……太田どうした?」
野獣先輩が声をかけると、
男は「はぁ、はぁ」と何度か呼吸を整えてから、
資料をドサッと机の上に置いた。
「これ……新商品のプロジェクト資料。前任が使ってたやつ、
全部まとめておいたんだ」
そう言って、太田先輩は袖で額の汗をぬぐった。
その表情には、どこか使命を果たした男の安堵がにじんでいた。
さっそうと、立ち去ろうとするその背に向かって——。
「……ちょっと待て、太田!!!!」
野獣先輩の声が飛んだ。
「へ?」
ドアノブに手をかけたまま、太田先輩がきょとんと振り返る。
「お前、この資料……熟知してるんじゃないのか?」
「ま、まあ。多少は……。データまとめたり、前任に相談されたりもしてたし……」
「なら、今ここに残れ。説明してもらう」
「えぇっ!?」
わかりやすい悲鳴。
めちゃくちゃ拒否したそうな顔。
でも野獣先輩はまったく動じない。
むしろ当然という顔で、椅子を一つ引いた。
「座れ。戦場に兵は多い方がいい」
『ここ戦場だったの!?』
心の中で全力でツッコんだ。
ていうか、太田先輩、今めっちゃイヤそうな顔してるのに、
誰も助けようとしないあたり、プロジェクトの業の深さがうかがえる。
「兵って…ぼ、僕は、補助的な立場で……!」
「補助こそ戦場の要だ」
完全論破。
観念したように太田先輩は椅子に腰掛け、机に肘をついた。
重々しくため息をついたあと、資料を開きながらぼそりとつぶやいた。
「前もって資料、置いておけばよかった……」
そう言った彼の声は、悲痛な叫びのように聞こえた。
この時の俺はまだ知らなかった。
このプロジェクトに潜む、果てしないカオスの正体を——。
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