第28話 発酵に適した“幻の菌床”を探す旅

🧭 発酵の序章:旅のはじまりは一枚の地図から

「これは、千年前の発酵師が残した“菌床地図”だよ」


そう言って微笑んだのは、精霊カモスだった。

地図には色あせたインクでこう書かれていた。


《東の霧林、西の火脈、北の浮岩、南の沈湿――

四つの気に、菌は宿る》


それは伝説の“菌床四大遺構”を記した、発酵の旅のしおり。

菌たちが最も生き生きと育つ“場”を求めて、風間とミエルは旅に出た。


🌾 本章:菌の眠る場所をめぐる記録

◉ 東の霧林ミストフォレスト:呼吸する木の皮

霧に包まれた古の森。

そこでは、倒木に苔が生え、その下から甘く香る腐葉土の層が広がっていた。


「……木が、呼吸してる……?」


土を掘ると、ほんのり発光する菌糸が現れる。

それは風と霧のリズムで育つ、“拍動菌”――微弱な空気の流れに同調し、酵母を活性化させる力を持っていた。


ミエルは手帳に記す。


「ここでは、パン種が夜明けにふくらむ。

たぶん、朝霧が“菌の合図”なんだ」


◉ 西の火脈ヴォルグラ岩脈:熱で鼓動する岩床

地下マグマが近い火山帯の岩場。

一見、発酵とは無縁の不毛な土地に思えたが――

その岩盤の割れ目にだけ、小さな“温性発酵苔”が棲んでいた。


風間はサンプルを採取しながら呟く。


「この熱が、菌に“拍動”を与えてる……

熱エネルギーで、発酵を一定のリズムに保ってるんだ」


◉ 北の浮岩スカイローム:宙に浮かぶ“無重力菌床”

風間たちが辿り着いたのは、浮遊島の地表。

重力が不安定なこの空間では、菌が地面に這わず“球体状”に育つという異常な性質があった。


「この発酵、縦でも横でもない……“球で膨らむ”って何!?」


ミエルのパンは、宙に浮いたまま発酵を始める。

食感は“ふわっとして、どこか地に足がつかない”――まさに空の味。


◉ 南の沈湿クレト湿原:沈む菌の静寂

底なしに近い沼地。

足元から“ぬるり”と現れたのは、嫌気性発酵菌――空気を嫌い、沈黙の中で“漬け物の香り”を生む菌。


「ここじゃ声も届かない。でも……

静かな菌の声が、胸に残る気がします」


ミエルは、小さな樽を沼地のそばに置き、そっと祈った。


🌍 そして物語は、菌床の中心へ――

4つのサンプルと記録を持ち帰った風間とミエルは、

ギルド農協にて“菌床交響実験”を開始。


菌のリズム・熱・浮力・静寂――

異なる菌床を掛け合わせて、“多環境発酵”という新技術が誕生する。


「環境ってのは、菌の言語なんですね」

「そして旅は、“菌の方言”を拾うことだったんだね」


🌱 発酵のひとこと

発酵は、土地の記憶を語る。

菌は、その場所の時間を纏って生きている――旅のなかで、それを知った。


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