第14話 農協ギルドから融資を受けるか、自力で頑張るか

🧭 導入の書:この物語のはじまりに

「借りたら、負けだと思ってるんです」

そう言い張るのは、若き農家・クレア。

今年の春、天候魔害で収穫が半減。ギルドの緊急支援融資の対象となったが、彼女は首を縦に振らなかった。

そんな彼女に、ギルド職員・風間は問いかける。

“借りない強さ”とは何か――“借りる覚悟”とは何か――


🌾 本章:農地に立つ者たちの記録

「うちは大丈夫です。来年も、自分でやります」


畑の隅で、クレアはきっぱりと言った。


彼女はまだ25歳。祖父から受け継いだ小さな農地を一人で守っている。

ギルドが提示したのは、返済猶予3年の“魔道資本融資”。

新しい灌漑魔具を入れれば、来年の収量回復も見込める――

それでも、クレアは頑なだった。


「ギルドの融資って、便利すぎるんです。

でも、使ったら最後、自分の農業じゃなくなる気がして」


俺は思わず聞き返した。


「“自分の農業”って、どんな農業ですか?」


クレアは答えなかった。



翌日、風間はギルド内でクレアの“資本管理履歴”を調べた。

すると、出てきたのは「補助金・融資ゼロで5年連続黒字」という記録。


「……この人、本当に、独力でやってきたんだな」


だが、同時に現れた赤い警告マーク。

《慢性的な労働過負荷/病気リスク極大》――


「これじゃ、農業は続いても、“農家”が潰れる」



その週末、風間は再び畑を訪ねた。


「来年も、このままなら――正直、倒れると思います」


「……わかってます。でも、借りるって……

誰かに頭を下げるってことですよね。

“やっていけてない”って、自分で認めることですよね」


「クレアさん。融資って、“失敗の証”じゃなくて、

“続けるための決断”ですよ」


「……え?」


「たとえば、作物が水を欲しがってるとき、

あなたは“乾いたまま我慢しろ”って言いますか?」


「――言いません。水をやります」


「じゃあ、人間も同じです。必要な時に支える。それが農業ギルドです」


クレアは、ふっと笑った。


「……じゃあ、その水、借りてみますか」



数ヶ月後。新しい魔法灌漑線が引かれた畑に、クレアの姿があった。


「風間さん。あの時、貸してくれたのは――金じゃなくて、“選択肢”だったんですね」


「“続ける農業”のための、選択肢です」


風にそよぐ若葉の音が、やけに静かに、まっすぐに届いた。


🌱 収穫のひとこと

借りることは、負けじゃない。

助けを求めることは、弱さじゃない。

それは、“続ける覚悟”を持った者だけが選べる、強さなんだ。

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