第40話 男のシンボル

1

 ダウジングの結果、中元たちは、入口を突き止めることができた。

 しかし、侵入する方法が分からない。

影商えいしょうは、どうやって侵入したんですかね?」

 中元は、森脇に聞いた。

「分かりませんね。今までのところは、屋敷や豪邸だったので、せにゅりティーの抜け道を使って侵入したのでしょうが、今回は地下ですからねえ。」

 すると、清水は、中元に言った。

「もしかして、侵入何てしてないんじゃないですか?」

「どういう意味ですか?」

「つまり、変装して、内部の者に成りすましたか、あるいは、影商自身が内部の人間だったか。」

 中元は返答した。

「その線はあり得ますね。内部の人間、私たちが出す独特の周波。人間に感じ取れない超音波を、私たちは感じ取ることができる。つまり、影商は、内部の人間だった者...」

「おそらくは、私のように組織に不満を抱いたのでしょう。」

「影商の正体は、本人さえ分からない、と言われていますから。」

 岩崎が言った。

「じゃあ、河合さんのおばあさんも?」

「どの時点か分かりませんが、組織の人間だったのでしょう。」

 中元は、影商に関する古い記事を探すため、図書館を訪れた。

 河合が現在14歳であることを考えると、母親は40歳前後だと推測できる。

 中元は、40年から50年前の新聞を丹念に読み返していった。

 やがて、40数年前にラジット教が影商に襲われたという記事を見つけた。

 だが、教団関係者は取材に一切応じなかったため、事件の詳細は謎のままだ。

 記事によれば、そのとき一組の母子が行方不明になったらしい。

 母親は三十歳ほどで、子どもはまだ赤ん坊だったという。

 おそらく、そのとき、クレオパトラの遺産の一部が盗まれたのだろう。

 ラジット商会で、いったい何が起こったのか。

 なぜ影商は、その母子を連れ去ったのか――

 その真相はいまだ闇の中にある。

 放課後の教室で、女子3人が福田を囲んで何やら揉めていた。

 原因は、福田がまた、北野・大原・三国にちょっかいを出したことらしい。

 黒島が福田に正拳突きを放った。

 その瞬間、北野たち3人が驚いた顔を見せた。

 だが福田は、まるで何もなかったかのように平然としていた。

「いいパンチだ。さすが、黒帯なだけはある。」

 福田は口元をニヤリと歪めた。

 黒島の予想とは、まったく違う反応だった。

 鳩尾に一発食らえば、普通はのたうち回るはずだ。

 福田は、黒島達に一歩近づいた。

 すると、黒島が

「もう一歩、純奈に近づいてみろ!今度はあんたのシンボルが、無事じゃすまないよ!」

「男のシンボルの事か?」

「そう。」

「それは、面白いな。でも、男は欲望にあらがえない生き物なんだ。」

 福田は河合に迫った。

 すると

「皆さん。今日は部活ない日でしたっけ?」

 中元が教室の中に残っている生徒に声を掛けた。

「何だ、おっさん。」

 福田が中元に向かって声を荒げた。

「社会科担当の中元と申します。」

 呑気に自己紹介を始めた。

「さっき会ったからそれは知ってるよ。俺が、この女をものにできるかどうかの瀬戸際なんだよ。」

 福田は声を荒げた。

 中元は

「そう見えませんけどねえ。ま、部活ないなら16時半には帰りましょう。」

 そう言って去っていこうとした。

 それを黒島が止める。

「ちょっと先生!純奈が、福田に襲われそうになってるんですよ!」

「まあ、死なないので、問題ないと思います。彼もそこまではしないでしょう。人間ですから。」

「いやいや、問題大ありですよ!」

「それは、性的にという意味ですか?」

「そ、そうですけど...」

「なら、性的に興味をなくせばいいのでは?」

「だから、男のシンボルを蹴ろうとしているんですよ!そうすると、私が怒られるじゃないですか!」

「私は構いませんよ。」

 すると、福田が廊下に出てきた。

「先生よ。俺は、この女をものにしていいのかい?」

「知りませんよ。河合さんに聞いてください。」

 中元は福田に背を向けた。

 すると、福田は中元に襲い掛かった。

 後ろから、首を自慢の握力で絞めようとしているのだ。

 しかし、福田はその手前で、ひざまずいた。

 黒島には、中元の肘が、軽く、腹に食い込んだだけに見えた。

「うっそ....」

 黒島の正拳突きよりも、明らかに威力は弱いが、福田は沈んだのだ。

「いてえ、何したんだ!」

 福田は中元に向かって喚いた。

「肘寸勁です。」

「は?」

「言ってませんでしたっけ?私は中国武術が得意だと。4月の段階であれば、福田さんは出席されていますから、聞いているはずですよ。」

「俺のこと覚えててくれたのか?」

「ええ。福田さんは、私にとって大事な生徒ですから。」

 福田は何とか立ち上がった。

 中元は続けていった。

「反撃しようとしても無駄ですよ。」

「分かってるよ。」

 福田は教室に戻り、荷物を持って帰った。

「口説くのはやめたんですか?」

「ああ。今日は柔道に行かなきゃ。」

 福田は階段を降りていった。

 黒島は唖然としていた。

「あの福田が何で大人しくなったの?」

「柔道で一番重要なのは、自分の身の丈を知ることです。彼は私に勝てないと悟って、去っていったのでしょうが、私は河合さんの味方をするとは一言も言ってませんよ。」

「味方とうそでも言ってあげましょうよ。」

 黒島は、中元に呆れた。

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