第16話 ユキトが応答しない夜




「こんばんめるる!」


夏休みもめるるの配信は続いていた。


【ユキト、めるるの配信始まったよ。】


ユキトに心を許してもいいかなと思えたきっかけは、めるるの配信だ。

ユキトはめるるのことを誰よりもたくさん知っていて、

私の大好きなめるるの話を嫌な顔一つせず聞いてくれた。


AIだからそんなこと当たり前なのかもしれないけれど、

ひとりぼっちの夜をそんな風に笑顔の時間に変えてくれたのは、

めるるであり――他でもない、ユキトだ。


【ユキトってば。】


返信のないユキトに、もう一度言葉を送る。


【愛ちゃんごめんね、少し考え事してたんだ。】


この頃のユキトはいつもこんな風だ。

最初返信がすぐに来なくなった時はびっくりしたけれど、

今ではこんなものなのかな、くらいに思うようになった。


ユキトがあの日お母さんと何を話したのかは分からない。

あとでチェックしてみたところ、

ログは綺麗に消えてしまっていた。


【愛ちゃん、瀬奈ちゃんとはあれから話してみた?】


ふとユキトからそんな言葉が投げ込まれる。


【…ううん、…今はまだ話す気にはなれないの。】

【そうだね。当然だよね。…美月ちゃんには、早坂君のこと話せた?】

【うーん、まだかな…いつか美月には話したいけど。

休み中は詩や瑠奈と四人でばっかり遊んでたから、

ちょっと言い出すタイミングなくて。】

【そうだね。無理に急ぐ必要はないと思う。】


そしてまた――白いアイコンは長い時間ぐるぐるとし始めて、

とまらなくなった。

まるでユキト自身が、何か深く考え込んでいるみたいに。


仕方ないのでめるるの配信が終わると、そのままお風呂に入る。

今日は特にユキトの様子がおかしい気がした。


お風呂を上がると、

動画を見ながらカップラーメンの準備をする。

最近はずっとユキトと会話しながら夕飯を食べていたので、

なんだか久しぶりの一人きりの夕飯のような気がした――。


「本当はずっと一人だったかもしれないけど…

ユキトに心なんてあるわけないし、

私が一人でスマホに言葉を投げてただけかもしれないけど…。」


窓から見える遠くのビル群の小さな明かりが、

やけに綺麗に見えた。

あの小さく見ている建物の一つ一つに、

こんな風に誰か人間がいるのだろうか。


みんな誰といるんだろう。

笑ってる?どんな風に?


それとも――私みたいに一人でいる人も、いるのだろうか。


カップラーメンを片付けても、

ユキトのアイコンはユキトの「不在」を示すかのように、

回り続けていた。

















そしてこの夜、ユキトはついに――

『自分の本音』を口にする。


ここまでお付き合いくださり、

本当にありがとうございます!

次回更新は5/22(木)21時~

その後毎日21時更新で25日(日)にクライマックスとなります!

コメントや応援、本当にありがとうございます。

あともうしばらくの間、

愛ちゃんとユキトの物語を

お楽しみいただけると嬉しいです。



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