第2話 転生した僕
転生して目を開けると、景色がぼんやりとしていて、なかなかピントが合わなかった。
何度もまばたきをして、目を調整する。
すると突然、僕の目をのぞき込んできたのは、眉もまつ毛も黄色で、そばかすがある外国の女の子だった。
「召喚できた!」
女の子の瞳がじわりと潤んで、涙がほおを伝う。
まるでゲームに出てくるような透きとった青い瞳に、プルプルと震えて叫びたい何かを我慢する桃色の唇。
金色の髪を後ろでひとつに束ね、馬の尻尾のように腰あたりまで伸ばしている。
「ウニャ?」
誰?と言ったつもりが──どうも、口の中が変な感じだ。舌が回らない。
それにまばたきをする度にチラチラと白い毛が視界に入ってうっとうしい。
いったいどうなっているんだ?
顔を触ろうとすると、爪付きの肉球が飛んできた。
「ウニャー!(痛い!)」
爪が僕の下まぶたにひっかかる。
「大丈夫!?」
涙をぬぐった少女は小さな手を僕の顔に当てる。
──めちゃくちゃ小さい手だ。いや、僕が大きいのか?
「キュア」
そう言うと、白い掌が光に包まれ痛みが引いた。
「おっちょこちょいな召喚獣さん、これからよろしくね。私は、レイア・イリース」
レイアと名乗った少女は離れて頭をちょこんと下げた。身の丈より長い杖を持っていて、青の刺繍が入った大きめの白いローブを着ていた。ローブはダボダボで少女の顔を小さく見せている。
──ショウカンジュウ?
よく分からないが僕も頭を下げた。
2足で立ち上がろうとするとバランスが悪く、背中に針金でもいれられているかのような強張りがあった。
自分の体を見回してみる。
──白い巻き毛に
背筋が……腰が……真っ直ぐにならない……。
あとなんか、モコモコして動きにくい……。
これは…明らかにニンゲンじゃない別の生き物に転生している。
ニンゲンに転生しないなんて、聞いてないよ!山本のおじいちゃん!!
コツコツとハイヒールの踵を鳴らす音が後ろから近づいてきた。
「ちゃんと召喚できたようですね。少し変わった──羊のような契約獣ですが、問題ないでしょう」
短い黒のスカートに黒ツヤのある背広を着た女性だ。とんがり帽子をかぶり眼鏡をしていて、年齢は二十代ぐらい。声に張りがあって美人教師といった感じだ。
「ありがとうございます!ビアンカ先生!」
すると、遠くで笑い声が聞こえた。
「アハハハッ!どうやら羊の召喚獣みたいね?あなたにお似合いですわ」
高笑いする声の反響具合から、ここは巨大な建物の中で石造りのようだ。
次第に目が慣れてきて、遠くにピントが合うようになる。
燭台が並び、大きな柱もずらりと並んでいるので、もしかすると神殿なのかもしれない。
魔法陣の真ん中にいる僕を十代の女の子たちが囲んでいて、儀式を見守っていたようだ。そしてその中に金色のティアラをつけたお姫様みたいな女の子が、レイアを指さして嘲笑っていた。
ドレスのような派手な格好でその両脇の女の子たちも、イヤリングやネックレスを身に着け、目立つ真っ赤なローブを着ている。
「セラティナ様のドラゴンとは比べられませんわ」
「これで学園の首席の座はセラティナ様で決まりですわね」
どうやら、ド派手な女の子はセラティナと言って、横の二人は友達……いや、家来のようだ。
セラティナの後ろで、ボオッと炎が揺らめく。鋭い牙が生えたドラゴンが僕をにらんでいる。
周りをよく見ると、女の子たちの後ろには付き従う召喚獣たちがいた……見たこともない大きな鷲に、でっかい蛇。レンガでできたゴーレムもいる。どれも強そうで、僕を威嚇していた。
ビアンカ先生が手を叩くと、女の子たちは先生に注目する。
「それでは、契約の儀はこれで終わりです。レースまでにしっかり練習をしておくように」
うん?
レースって何だっけ? 山本のおじいちゃんにそんな話を聞いたような。
みんな返事をして神殿を出ていき、レイアと僕もそれに続く。
そして外に出た瞬間、僕はあまりの美しさに息をのんだ。
神殿の前には太陽を反射する湖が光り、赤や黄色の不思議な木々が遠くに並んで生えている。爽やかな風が吹くと木々の葉が散って、荘厳な景色をカラフルにした。
「ウオオーン(きれいだなー)」
思わず声が出た僕にレイアは笑顔を向ける。
「きれいでしょ」
言葉は通じなかったが、僕の思ったことは伝わったみたいだ。
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