十一枠目 夢ではない本当のこと
「レイアヤの『壁!』」
配信開始されているのを確認する。
すれ違いが生じてしまって距離が離れてしまった頃は、二人揃っての壁の配信なんてもうできないものだと思っていた。配信を再開できたのは、アヤさんがもう一度、私の側に来てくれたからだ。
私は戻ってきた彼女の信頼に応えたければいけない。
アヤさんは何度も傷ついてきた。
だから、私は、私こそは、彼女を守りたいと思う。
「不仲説とか出てて心配かけちゃってごめんね、本当に待っててくれてありがとう」
「その通りですね、ありがとうございます。あ、あの記事見たんですけど、迷惑かけてたのは私の方ですから、ネット記事は信じないで下さい」
腹立ってきた、あぁ、もう。
「そうそう、私の個人配信でもあの不仲説の記事って本当なんですかって聞いてくる人が出だして、目に余るようになっちゃっって困ってたの。取り敢えず、ギスギス、不仲説は壁の配信では除外ワードに新規で入れさせてもらったの」
あ、こっちは本当にムカついてたみたいだ。目が怒ってる。
アヤさんは言っていないが、事務所も動かした。
該当記事は削除された。
「どうせコタツ記事なんでしょうけどね、不仲説はもう出ないですから」
不仲説の記事のせいで余計な時間を食ってしまった。
逆に問題を乗り超えて恋愛感情を向け合う、愛する人、恋人になったんだ。キレそうだ、不仲なわけないでしょうよ、記者誰なんだよ……クソ……
「そう、ここ数日で、深〜い関係になったもんね……♡」
ぐおおお!この距離でウインクは光になってしまうッ!
手も握られてつい我慢できなくなった。
「アヤさん手が!手にぎにぎは刺激が強いって!」
マイクから離れたアヤさん、彩さん、が近づいてくる。
気が付かなかった。
「……もっと凄いことしたじゃない、ねぇ、玲ちゃん」
アヤさんなんて言った?
内緒話ってことかな
距離の近さに素晴らしい良さがある
「じゃ、じゃあ最初のコーナーいっちゃろうかな!」
「なんでもないよ?手を繋いでるだけだよレイちゃん、どうかした?」
湿度出てきた
レイアヤは本気だって分かってた
ありがとう……
「……ふ、ふつおた打ちっぱなし、いこうかな」
配信で甘えてくれるようになったの、嬉しすぎる。
自分に嘘ついてた。
思い切って椅子同士を近づけた。
お便りのコーナー中に自分から抱きついたりした。
「次のお便りは、こっちでしたっけ」
「あ、違う、待って……いや、それ行こう……」
「先に私が読みますね、匿名希望の方です」
「レイちゃんお願いします」
内容はこうだ。
同性の友人に告白する勇気が出ない。
でも、嫌われたくない。
現状維持も辛い、だから言い出す勇気をくださいというものだった。
「同性でも、いや、同性だからこそ勇気でないんだよね……」
「自分は想像するしかないけど、踏み出すのは大変だろうなって思います」
私も怖かった。
彩さんのカムもそうだと思う。
私にとっては、レズビアンであることも全部ひっくるめて、アヤさんであると受け入れることは容易なことだったし、なんの抵抗もなかった。
だが今だに大多数はそうじゃない。
お便りの細かい書き方で女性同士だと彩さんが気づき、教えてくれた。
「背中を無責任には押せないけど、応援してますってことは言わせて欲しいなと、ふたりとも思ってるということは伝えときます。お便り送ってくれた方に幸せがあるように祈ってます」
自分たちもそうだと言ってあげたかった。
付き合ってます、カップルですって。
貴女と同じだって。
「そうだね、私も、とっても応援したい。送り主に良いこと、あるといいな」
いつか言えたらいいな……
「次のお便りは、この夏行きたいところはありますか、だって」
「……ナイトプール行きたいです。アヤさんの、新しい水着みたいので」
【恋青空メロ】ナイトプールは女の子限定多いからオススメです
メロちだ!
ギャルだあああ!
のぞメロのメロの方さん!?
「メロちゃんありがとうね来てくれて」
【恋青空メロ】ダブルデートしましょうよ
【石動めぐる】おい勝手にきめんな
「個チャでやれよ石動w」
「いこういこう、やってみたかったんだそういうの」
「……そうですよね!じゃあ行きましょう、すぐにでも」
「レイちゃんありがと♡」
【石動めぐる】手のひらドリルかよおい
「……さて、次のコーナーに行こうかな」
「え、いいのめぐるちゃんは」
「あいつ強い子なんで大丈夫っすね」
「そっか、ならいいかな……」
【石動めぐる】アヤさん?
草
おもろ
草
草
アヤさんも石動の扱い覚えたか
【石動めぐる】単芝やめれる?
「石動は置いといて、夏に続かなかった習慣ってあったりします?」
「そうだねぇ、あ、ラジオ体操は続かなかった」
今年の夏は楽しめそうな予感を感じ枠を閉じた。
その後もトークも盛り上がって、レイアヤ活動再開にふさわしい回になった。
久しぶりの配信で不安だったけど問題なく進行できたのが嬉しかった。
安心した、良かった。
私はアヤさんを支えられるくらい強くなれたんだ。
「レイちゃんお疲れ様」
「お疲れ様でした!」
お疲れ様のキスをした。
彩さんは、自分の定期配信のために帰宅することになった。
表情には出さないが、彼女は寂しがっている。
「本当は離れたくないんだけど、冷蔵庫の中身とか確認しないとだから……」
「分かってます。なら出る前に抱きしめさせて下さい」
彼女は孤独を恐れていたから、自分で言っていたが、今までだって、孤独を埋めるためにいろんな女性と関係を持っていたのだと聞いたことがある。
新しく彩さんと関係を持った私も、離れたくない思ってしまう。
彩さんは眉を下げて切なげに笑う。
やはり一人ぼっちにさせたくないな。
いつでも寄り添っていたいな。
一緒に、寝起きしたいな。
頭を捻っていたら、一つのアイデアが脳内に生まれた。
「……あ、彩さん」
「なあに?」
「なら、その……私と一緒に、シェアハウスで暮らしません……か」
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