三枠目 レイアヤは営業じゃありません!?

 二人揃ってレイアヤと呼ばれることが定着しだしたころ、レイアヤの壁ではリスナーからやってほしいおすすめのゲームの実況をするようになっていた。

 とある話題の9番通路ライクゲー配信が同接がだいぶ多かった。

 アヤさんはホラー耐性が全く無く事件性のある悲鳴を切り抜きされるほどだった。この話題性はチャンスだとアヤさんを説得して何とか実況に漕ぎ着けることができた。

 なので責任を取って、壁はスタジオではなく私の家にアヤさんが来て撮る方針に変わった。

 運営側から私は信用されているらしい。まあお酒は弱くはないし、記憶を飛ばすほど破滅的な呑み方はしないのでアヤさんを任されたというわけだ。

 ⋯⋯同じ女性だからって安全な時代じゃないのにね。

 「レイアヤゲーム部」で配信する時に、プレイするのは私で隣に彼女がいる。

 自分はホラー好きなのでプレイする事がほとんどだった。

 アヤさんは距離感がバグっているので今は腕に抱きつかれている。

 ヴァーチャルの見た目通りグラマーなお胸が当たっている。

「なんかレイちゃんドキドキしてない?」

「え゛っ⋯⋯違いますよゲームが怖いんですって⋯⋯」

 勘違いするな彼女は陽キャ彼女は陽キャ彼女は陽キャ⋯⋯

 念仏のように心のなかで言い続ける。

 これって無意識だもんなぁ。

 アヤさん、そういうところは直したほうがいいですよ⋯⋯

 とは言えない。

 人誑し、モテモテ、後輩からもラブコールを受けているらしい。女性ファンが多いオタク後輩の石動めぐるも最近は絡みが多くなっている。

 先に目をつけてたのはこっちだぞ⋯⋯

 私以外の誰かのコラボは、コメントも残さず眺めてしまうことが殆どだった。見ているうちに隣に自分がいないことにモヤモヤとした感情が生まれていた。

 会えない時間が長くなるほど会いたいという気持ちが大きくなっていた。

 アカデミー以外で初めて会って、その上で優しく接してくれたVの人だからって、アヤさんにここまで夢中になるなんて思っていなかった。

 やはり関係性としてこのハマり方は健全ではない。 

 しかし自分でもこの気持ちは止められなかった。

 アヤさんのバグり距離感で、私の中にある理性めいたヒンセイセンスか、何か張り詰めたものに見えない亀裂が入ったような気がしている。

「きゃあああああーーーッッッッッ!!!」

「⋯⋯あ、こっちだ、鍵ここか」

「何で平気なのそんなにぃ⋯⋯ううう⋯⋯」

「隣にビビり散らかしてる人がいるから⋯⋯」

 コメント欄はてえてえで溢れていた。

 アヤさんは無意識に距離感が近いので、とある層から重宝されている。

 コメントにいるが営業とか営業じゃないとか勘ぐるのはあまりに無粋だ。

 この箱の一期生が「女は黙って!百合営業!」というネタを披露していたが、あの場にいた私は上手く笑えなかったのを覚えている。その出来事を思い出した。

「もしかして、楽しくない?」

「いや、謎解きをね、考えてたんですよ」

 画面越しでは伝わらないこともあるから、本当に仲が良いから絡んでいるということが分からない状態では営業っぽく見えるのも理解できる。

 他の箱の大手CP「ぺりサリ」は裏では「結婚するわけないぺり。阿呆な企画通すなぺり」「サリアは配信以外でコイツとは会わないのに。てかネタだっつうの。炎上損だわ」と本人から聞いた。

 聞いた時は本当にショックだったな⋯⋯

 炎上損って、それはないよサリア提督。

 ぺこサリてえてえは二度と言えない体になってしまった。

「知らない方が良い真実が謎解きの答えじゃないかな」

 リドルを解くのが得意なアヤさんと、アクション部分の攻略が得意である私の組み合わせは良いコンビだと思う。これは営業なんかじゃない。

 人のつながりを茶化すな、と言いたくなる。

 石動めぐる、君はメロちと組んでいるがそれは言われたからじゃないよね⋯⋯?

 希望くらい持ったっていいじゃないか。

「あぁ、なんかそれありましたね、あいつスニークキルしたらイケるか?」

「やだ⋯⋯こわいこわい無理⋯⋯あああ、バレそう⋯⋯」

 こんだけ近いのはレイちゃんだけだよ、とかメロいこと言われてぇ。

 それはない。アヤさんは善人なだけだ。

「大丈夫、私に任せてください、アヤさん」

「ぁ⋯⋯うん、ありがと⋯⋯」

 え、何そのリアクション。

 これは見たことのない反応だった。

 私に少しは心を開いてくれたと思うことにする。

 多分アヤさんは私が期待しているような感情を持ってはいないに決まっている。

 そもそも、信頼の証である気兼ねない身体接触への答えとしてこの感情はきっとふさわしくない。

「照れないでくださいよそんなに、ねぇ、アヤさん?」

「あははは⋯⋯ごめんごめん⋯⋯」

 彼女を困らせられたのは、自分だけを見てくれたように思えて嬉しかった。

 悪いハマり方してるなぁ⋯⋯

 昔これで痛い目見てるのに何してんだろ。

「キリいいですし、今日はここまでにしますかね?」

「そうだね、次はチャプター4からやっていく感じだね」

 EDを流して配信を終えた。

 コメントの反応を見て満足度を把握する。

「おつです。いやぁ、今日もよく叫んでたっすね」

「怖かった⋯⋯レイちゃんの家の防音室はすごいよね。私の声が貫通しないなら中々いい性能してるんじゃないかなと思うよ。メーカーあそこでしょ?」

 アヤさんがアイコスを取り出す。

「すー⋯⋯はーっ⋯⋯ごめん吸わせてね⋯⋯」

「うい、オッケーです。あ⋯⋯やべ⋯⋯」

 アヤちゃんやっぱり喫煙家だったんだ

 推せるポイント増えちゃった♡

 アヤ様かっこいい

 私、アヤの女になる

「やったよ⋯⋯アヤさんごめーん⋯⋯」

「いいよいいよ。アヤめいとは安心してね。運営は把握してるからさ。帝国大学生から吸ってる。あ、夢壊しちゃったらごめんね⋯⋯」

「コメント欄助かった人多かったみたいです」

「でも一応ここだけの内緒にしてね」

 私だけの秘密じゃ、なくなっちゃった。

 あーあ、嫌だなぁ⋯⋯


 独占欲としてはあまりに重い感情が生まれていた。 


 


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