9+10=11

第21話

俺はダメだ。

——私はダメだ。


「取り敢えず奥様にはできる限り優しく接してください。そして、なるべく一緒にいてください」

場所は精神科だ。

あれから五日ほど経って、奈々の元気が戻らず、食べ物も喉に入らないような状態の奈々を放置できるはずもなく、俺は精神科に連れて行った。


——あれから私はずっと死ぬことを考えていた。

決行は今日。春樹に対しては——罪悪感で潰れそうだった。

もし私が死んだら。と考えるたびに胸が痛くなる。でも私は決めたんだ。


なぁ、奈々。お前の声を聞かせてくれよ。俺は寂しいよ。

時刻は午後八時。

俺は車の中で信号で止まる度に奈々の顔を確認していた。いつもの可愛らしい顔だが、どこか生気がなく、死んだ目をしている。


——私のことを心配してくれてたのは、知っていた。

この五日、私はずっと春樹と話していない。手伝いにきてくれた親とも一言も。

私の好きな食べ物や、好きな映画、アニメ。色々としてくれたが、全部頭に入らず、ただ、目の中に映るだけだ。


俺はお前と死ぬまで一緒にいる。それはもう決めたことなんだ。

だから、俺はまた奈々と笑える生活を取り戻したい。

時間はかかるかもしれないけど、また美味しい食べ物を食べたら、美味しいって二人で笑って。面白いものを見たら二人で大笑いして。

馬鹿なことやって、律花も呆れるほどに遊んで。


——もう私の人生は楽しめそうにない。

何をやっても全部律花の顔が思い浮かんでしまう。あの子がずっと私たちのことを見ていて、悔しそうな表情で見てるんだ。

今日の朝だってそうだ。

起きれば部屋の隅には律花がいて、なんであたしは…って私に言ってくるんだ。

その瞬間申し訳ない気持ちになって、なんで私は生きてるんだろうって。


俺はお前を死なせたりはしない。


——私は死んで律花と同じ苦しみを味わう。それが私にできること。


こんな俺で。


——こんな私で。


奈々。


——春樹。


『ごめん』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る