第二章:隣り合う君 第4話
またねの別れで僕たちは別々の電車に乗る。
昨日は夢だったのかな。大学への道。いつもと同じ道だけど、なんだか僕は変わっているような気がしてしまう。君との距離。出会って数日なのに、これまでの人たちとは違う。友達もいない僕。だけど君は僕を見てくれている。好きな人と偶然だけど一緒にいられたこと。僕はついてるな。彼女はどんなことを思っているのかな。僕のことを少しでも思ってくれていたりするのかな。募る思いが空へ駆けていく。この想いは伝える日が来るのかな。
霜月
「おはよーーー。」
「おはよう。」
いつもの顔を見つめる。今日はいつもよりも眠そうな君。
「眠そうだね」
「そうなんだよー、レポートが終わらなくてオールしちゃった。」
「それは大変だったね。帰ったらしっかり寝るんだよ。」
「えーーー、はーーーい。今日一緒にご飯食べたかったのにー。」
「え、それは聞いてない。」
「でー?答えは?」
「もちろん行きます!」
この二ヶ月間君とのLIMEは止まることを覚えなかった。毎日のおはようとおやすみ。たまにやってくる君からの電話。そして好きの言葉が増えていった。君に伝わるかはわからない。渾身の変化球をかけて投げ続ける。暴投でもいいから君に届いたらいいのに。
【次は星海丘、星海丘、、、】
ドアが開くと君が立っている。少し肌寒くてワンピースの上に重ねたカーディガンが風に揺れている。純白のプリンセス。まるで野獣の城に迷い込んだベルのように彼女は凛とした姿でそこにいた。釣り合わない僕と君だと周りの人たちは思うのかな。
「おつかれ!!」
本当に勇敢なお姫様だ。僕は彼女に釣り合わない野獣とかそんなんじゃない。僕は今召使いだ。
「お疲れ様です!」
「行くよーーーー!!」
スーパーに立ち寄ってまた君の家へと帰る。今日は君の好きなオムライスを作る。この人ために僕は手に豆ができるほどにフライパンを握ってきた。いよいよ君に見せる時だ。僕が主人公になれるチャンスがここまで来ている。
「できた!」
「さあ、おたべお食べ」
リビングで待っている君にオムライスを速達便で送る。最後の仕上げは萌え萌えキュン。ケチャップで閉めさせてもらいます。
「なんで描いて欲しいですか?」
「んーーー、そうだなあーーー、、、」
君が悩んだ姿はどうしてこんなにも可愛いのだろう。眉間に皺(しわ)を寄せ、口をとんがらせる君。
「じゃあ!じゃあ!ゆりちゃん好きでお願いします」
君は少しだけ恥ずかしそうに、だけどどこかにやけたような感じを出している。
「ええ、ええええ」
これを書いてしまったら僕は自分の好きの気持ちを彼女に伝えたということになってしまうのかな。こんな風に伝えるのは嫌だな。でも、これを書いたら認めてしまう。それだったら。
「書けないです、まだ。ごめんなさい」
「なんで?」
「言葉で伝えたいです。」
無意識に出た言葉に僕は驚いてしまった。なんてことを言ってしまったのか。好きでいてくれている訳がないのに。それなのに僕は一方的に伝えてしまう。
「今でいいんだよ。」
君は僕の耳元でそっと囁く。
思えば沢山の軌跡が散らばっていたよね。沢山の好きには僕からじゃない左手のトーク画面。いつも僕のことを誘ってくれて、沢山の話を聞かせてくれたんだ。君はずっと待っていてくれたのかな。僕はいつも好きを小っ恥ずかしく隠してしまっていたんだよね。だから今日は男にならないとだよね。
「大好きです。優梨さんと出会ったあの電車で一目惚れしてからずっと。優梨さんといることが自分の中でもう当たり前になるぐらいに貴方が大好きです。これからはもっと近い距離で貴方のことを知りたいです。」
恥ずかしさと緊張で下を向いてしまった。君の少しだけ荒くなった呼吸だけが僕の耳に届く。そっと目を開けると、君は大粒の涙とボロボロになった顔を僕にむけている。
「優梨さん!?どうしたんですか、!僕何か傷つけてしまいましたか、、、!?」
「笑っていたかった。」
「大丈夫ですか、!、!?」
僕の焦った声と対照的に君の声は川の流れのように流れて行ってしまっていた。
告白をしてしまった。その事実だけで僕は君の声が届かない。
「敦也!!」
暖かい温もりと君の匂いがする。
「どうしたんですか!?」
僕のことを抱きしめて君は僕にいつもの割れんばかりの笑顔をくれる。
「私も大好き!!!」
綺麗事だけじゃない。僕の色はいつも灰色だった。君と出会った時いつも通り何もないと思っていた。だけど何か起これと本気で思った自分がいた。君と居たいと思ったから降りなかったあの菖蒲坂。僕たちの距離はゆっくりと無くなっていた。君が作ってくれた沢山の料理の味。僕は君から沢山の色をもらったんだよ。そんな君が今僕の腕の中で沢山の笑顔をくれている。僕は君になんで返せばいいのかな。
自然と出た「ありがとう。」いつも言っている言葉なのに全然違う言葉のようだ。君とこれから過ごす僕はどんな色になるのかな。そんなことを思いながら君をギュッと抱きしめる。
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