第136話 栄光の玉 12
クリスマスもなんとなく過ぎ去っていき、翌日は希咲のマンションに行って荷物整理をしたり、散髪だの掃除だのの雑用をこなしたのだった。
荷運びの方だが、我が眷属たる栄光の玉アスワドに詰め込むことで、一往復で終わってしまった。
おかげであとは鍵を引き渡せば、引っ越し完了である。
「いやー、これ革命的なスキルですよね。悪いことでもやり放題では?」
希咲があっけらかんと言い放つが、まったくもってその通りだと思う。
「つくづく俺が天地あまねく恥じるところのない公正な男であって良かったと思うよ」
「公正な人間が一番言いそうにないセリフですね。まあそれはそれとして、人前では使いづらいスキルですよね」
「アイテムボックスってスキルは、存在しないんだよな?」
「公になってるスキル自体、半分もないとか言う説もあるのでなんとも言えませんが、一般には知られていませんね。」
「職場で実験しようと思ったんだけど、様子見だなあ。まあ3サイズの方を研究するので忙しいしな」
「あれ、職場でバラしたんですか」
「うん」
「なんとも言わないんですね、職場の人」
「みんな科学のためなら自分を捧げる覚悟ができてるんだよ」
「それは結構なことで」
ちなみにアスワドダンジョン1Fは完全にクリアした状態になっていて、すべての部屋が明るく照らし出され、モンスターも出ないという、完全に別邸状態になっていた。
まあ迷路なので最初の部屋以外は使いづらいんだけど。
「ところで、このダンジョンってクリアするとなにか報酬とかあるのかな」
何気なく尋ねると、ラヴァは首を傾げる。
「さて、どうでしょうね。中でテイムできるモンスターや経験値だけでも価値はあると思いますが」
「あー、確かに。この先、もっとおいしいモンスターが出るかもしれないしな」
「他にあるとしたら、アスワドの能力が解放される、とかではないでしょうか」
「おー、めっちゃありそう。どうだ、アスワド。お前なんかできることが増えてないか?」
希咲が持ってきた観葉植物の上でプカプカ浮いていたアスワドを呼び寄せる。
「わかんね」
「わからんか」
「そげに一朝一夕にできることが増えたりしないだよ。自己づつげんつーのは、もっと地道にやるもんだべ」
「そりゃごもっともなんでございますがね」
「それはそうと、なんか生まれそうな気はするだよ」
「え、生まれるって、誰の子だよ!」
「誰って決まってるだべ、あ、う、生まれ……」
ぽろっとアスワドの穴からなにかこぼれ落ちてきた。
床に落ちる前に慌てて拾うと、なんかガチャガチャのカプセルだった。
どこまで本気でやってるんだ、こいつは。
「元気なお子さんが生まれましたよ、アスワドさん」
カプセルを手にそうつぶやくと、
「二人の愛の結晶だべ、さっそく開けてみるべ」
「安っぽい愛だなあ。どれどれ」
カパッと開けると中から光があふれて、ぽろっとなにかがこぼれ落ちた。
手に取ると、小さな折りたたみナイフだった。
「おお、アイテム! これ、フロアをクリアする度にガチャが引けるとかそういうアレ?」
「知らんだよ、また生まれそうになったら教えるだ」
「おう、たのんだぞ」
トンチキ仕様もここまで来ると、逆に面白みが出てくるな。
肝心のナイフの方は、刃渡り10センチほど、グリップは木製でぱっと見はオピネルナイフに似ているが、刃が金色に光ってるんだよな。
これ、アレじゃね、ヒヒイロカネ。
光沢が独特で角度によっては七色の光を放っており、少なくとも金や真鍮の類いではないとおもう。
グリップを握ると、妙に手に吸い付くようなフィット感がある。
試しにガレージにあった廃材に斬りつけてみたら、ヌルッと切れた。
布や木だけでなく、レンガでさえもヌルりと真っ二つなのだ。
「やべぇ、なんだこりゃ」
あまりになめらかなレンガの切り口にビビっていると、突然後ろから声をかけられてさらにビビる。
「見ましたよ、兄さん」
「おわっ、ビビるじゃねえか」
「アスワドがアイテムを生んだって聞いて」
「生んだとか言うなよ、まあ、なんかヤバいのが出た」
「ちょっといいですか」
ナイフを手に、レンガをサクサク刻んでいく。
「うーん、豆腐でも斬ってるみたいですね。これ、どういう仕組みなんです?」
「単に刃が鋭いってだけで、ここまで切れたりしないよな。超音波カッターでプラをカットしたような感触ではあったが、あれって石とか金属は切れないしなあ」
「もっと試し切りしたいですね。そっちの鉄パイプで試して……あれ」
不意に希咲がナイフを取り落とし、よろめいたので、慌てて抱き留める。
「どうした!?」
「す、すみません。急に立ちくらみみたいな」
「先日の後遺症とかじゃないのか」
「いえ、そう言うのではなく、なにか力を吸われたような」
そこに様子を見に来たぴかりが驚いて駆け寄ってきた。
「どったの!?」
「いや、それが……」
今起きたことを話すと、ぴかりは希咲の額に手を当てる。
「なんかごっそり魔力が抜けてるね。そのナイフに吸われたんじゃない?」
そういってナイフを拾い上げる。
「ああ、うん、これめっちゃ魔力を吸ってる。今の希咲っちじゃ、ちょっと扱えないかも。ハレっちもちゃんと練習してから使った方がいいよ」
「じゃあなにか、魔力を使って切れ味を上げるみたいな?」
「たぶん、そういう感じ」
「ふうん、なかなかハイコストではあるが、あの切れ味は異常だからな、どれぐらい使えるか試しとく必要はあるか」
幸い、希咲は数分休んだだけで回復したようだが、ダンジョン関係の物は、もうちょっと警戒した方がいいのかな。
でも俺もわりとノーガードで攻めるとこあるからな。
難しいもんだ。
***
次は掲示板回なので、続けて更新します
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