第134話 栄光の玉 10

 かめはめ波は失敗だったが、改善の余地というか可能性はあるな。

 あれこれ試していると、ギャルのぴかりがありがたいアドバイスを垂れる。


「ちゃんと火の玉とかエネルギー弾とか、そういうのを溜めないと。あと飛ばすときにも魔法で初速を加えるとかさあ」

「そうかもしれんが、そもそも火の玉とか手の中で作ると熱そうじゃない?」

「そりゃ、熱いっしょ。そういう魔法は同時に自分を守るシェルも作らないと。うーん、こうかな」


 ぴかりが手のひらを上に向けると、ポンと光の玉が出てくる。

 ギラギラと輝いて、近づくとやけどしそうだが、注意深く観測すると、その周りを薄い魔力の膜が覆っているのが感じ取れる。


「こうして保護しといて、ぶつかる瞬間に膜が裂けるようにする、とかかな」

「難しくない?」

「うーん、まあハレっちは自称天才だからいけるっしょ」


 そう言ってひょいっと光の玉を放り投げると、通路を凄い勢いで飛んで行き、壁に当たってはじける。

 同時にすさまじい爆風が巻き起こるが、すっと前に出たフィリソーズが手をかざして爆風を遮断した。


「なにをやっているのです、ぴかり。ちゃんと加減しなさい」

「ごめんごめん、思ったより力でちゃった。つまりさー、魔法にはこういう危険もあるよ、みたいな実演じゃん」

「調子のいいことを。晴男さんもパワーだけはあるのですから、注意するように」


 よくわからんが、魔法は危ない分、ロマンと可能性がある物だとはわかった。


「攻撃に魔法を使うのは、もう少し様子を見た方がいいでしょうね」


 様子をうかがっていたラヴァ先生もそうおっしゃる。


「今ぴかりが見せたように、火の玉とシェルを同時に作り出すのは、それなりに鍛錬が必要ですし、実戦で使うなら速度や安定性も伴わなければなりません。十分に練習した上で、そのプロセスを呪文という形に落とし込む所までできれば及第点でしょう」

「落とし込むって、元々そういう呪文が有るわけじゃないの?」

「すでに誰かが確立した物なら有りますよ。例えば……」


 そう言って人差し指を誰もいない方向に向け、「スファエラ・イグニタ」とつぶやくと、指先がポンと光って、小さな火の玉が飛んで行った。

 火の玉は先ほどとは違い、目でギリギリ追える程度の速さで飛んでいくと、壁に当たって小さくはじける。


「これはおそらく、【火球】として知られるスキルと同じだと思います。威力としては、一般的な弓矢程度でしょう。小さな火の玉を低速でまっすぐ打ち出します」

「ははあ、って何語よ、それ」

「うーん、ラテン語、ですかね。意味は火球と同じく燃える球、英語だとファイヤーボールなどでもよいのでは?」

「なるほど、えーと、ファイヤーボール!」


 試してみると、確かに俺にも撃てた。


「あとはそうですね、火魔法で言うと、火の壁で敵を覆い尽くすファイヤーウォールぐらいでしょうか」

「少ないんだな」

「ある程度慣れてくると、呪文の形で定型化する必要が無くなるので」

「ふむ……それにしても」


 もう一度ファイヤーボールを放ちながら、根本的な疑問を口にする。


「どういう仕組みで、こんな魔法なんてトンチキ現象が発生してるんだ?」

「そうですね、私もまだ認識できていませんが……」


 ラヴァは少し悩むそぶりを見せる。


「簡単な思考実験からはじめて見ましょうか。もしご主人様が万能の神であるとか、それに等しい技術を持つ超越者だとして、こういう魔法やダンジョンの存在する世界を作るとしたら、どのようになさいます?」

「それはつまり、物理的に実現可能な範疇でってことか」

「そういう解釈で結構です」

「まあ、『そういう世界よ、有れ』というだけで実現するんじゃ、法則もへったくれもないからな。うーん、一番有りそうなのは、仮想世界か」

「そうですね、矛盾が少ないという点でよい案だと思います」

「しかし、聞くところによると、星一つ分をシミュレートするだけで、銀河一個分ぐらいのエネルギーが必要とかいう試算もあるそうじゃないか」

「精度によりますが、相当な計算コストが要求されるでしょうね。ではダンジョン内だけに限定すれば?」

「ゲートを通ることで仮想世界に入るってこと?」

「そうです」

「それなら計算リソースは大幅に削減できるか。でも、ダンジョン外で存在できるお前達の説明がつかなくなるな」

「そうなりますね、現実にはかなり可能性は低いでしょう。他には?」

「うーん、なにかこう、物質を作り出すような……、空中元素固定装置とか」


 それを聞いた希咲が、


「古すぎません? ハニーって70年代ですっけ。せめてトレックのレプリケーターとか」

「あれだってTNGからだろう、87年だっけ、たしか俺の生まれた年に始まったんだよなあ」

「じゃあ、十分古いですねえ」

「そんなことはないだろう」

「人間自分が生まれる前は全部古く感じるんですよ」

「うぐぐ、とにかくだ、そういう装置で、ダンジョンとか火の玉とかを作り出すという」

「物質を原子レベルで変換するとしたら、どれだけエネルギーが要るんですか。それこそ仮想世界のほうがはるかにマシなレベルでは?」

「どうだろう。いずれにせよ、想像もつかないスゲーパワーが必要で、それさえあれば逆にどうにかなる現象、というわけか。つまりそれだけの莫大なエネルギーを工面するところから始めるわけだな」


 俺の回答を聞いた眼鏡巨乳のラヴァは、こくりと頷く。


「そうですね、つまりダンジョンの秘密を探求するとは、その根源を支えるエネルギーの元をたどると言ってもいいでしょう。技術とは扱えるエネルギーのオーダーで決まる物です。実際にダンジョンも魔法も、そして私たち眷属も実在するのですから。それが判明すれば、自ずとその原理も解明できるかと」

「ふむ、ちなみに、どれぐらいのオーダーを想定してるんだ?」

「天の川銀河のもつエネルギーはご存じですか?」

「うーん、暗黒物質を含めた全質量から想定したエネルギーが10の59乗ジュールとかだったっけ」

「では、ひとまずそれぐらいを想定しておくべきでしょう」

「いやいやいやいや、いやいやいやいやいや、どんだけ」

「ダンジョンはすでに地球上至る所に存在しています。星一つ分の物理現象に任意の精度で干渉しようというのですから、欲張りすぎとは言えないでしょう」

「まじかよ」

「ちなみに、先日訪れた春日山ダンジョン、あそこが内包する魔力エネルギーは概算で10の24乗程度と見積もれますね。たしか地球が太陽から受け取る一年分のエネルギーがそれぐらいでは? 先の見積もりとは比べるべくもありませんが、少なくとも手の届くところにそれだけのエネルギーが埋蔵されているのです」

「桁がバグってない?」

「それほど、外してはいないと思いますよ」


 いろんな数字の桁オーダーに対する感覚というのは、理系でやっていくためのセンスに直結しているといえる。

 もっと言うと対数的な視点で世の中を見る、すなわち世の中にあふれる比例関係を線形的に解釈できるかどうかが重要だと言うことなのだが、そういう感覚を持っているつもりの俺から見ても、いや、だからこそわかる異常なエネルギーの世界だ。

 俺達の住む地球は、なぜそんなことになっているのか、元からそうだったのか、それともなにか原因があったのか、何一つわからんままダンジョンをうろうろするうちに、どうやら一通り探索が済んだようだ。

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