第117話 同棲 2

 遅めの昼食を取って、希咲と二人で家を出る。

 俺の車に定員まで乗ると荷物が積めないからだが、多少は気を使われたのかも知れない。

 よくできた眷属たちだ。

 希咲が彼女たちのことをどう思ってるのかはわからんが、本人がなにも言わないのに、俺が掘り返すもんでもなかろう。

 そうした女同士の了解というものに気づかぬふりをするのも、できるハーレム王仕草というものである。


 旧友の長田の整備工場につくと、いつものように暇そうな顔で出迎えてくれた。

 俺よりはるかに忙しいはずなんだけどな。


「おう、来たか。キャンピングカー買ってくれるって?」


 開口一番、下手なセールスモードに切り替わる長田。


「話を聞くだけだよ。何も知らんからな」

「今なら新規のカスタムも効くぞ。ベースさえ確保できてればなんと納期一ヶ月……いやもうちょっとかな。なんせまだ始動してないからな、有名どころのビルダーは一年待ちとかザラだぞ」

「そうなのか」

「ダンジョンブームで、拠点にして回る連中が増えてるんだと」

「へえ、そういう需要もあるのか」


 そこにちょっと遅れて車から降りてきた希咲が、いかにもアレな感じで挨拶する。


「どうも、ご無沙汰しております、久我です。昔、小学生ぐらいの頃に、日下に連れられてお邪魔したことが」

「ああ、あの時の、覚えてるよ。こいつの通ってた道場の子だっけ。いやあ、美人になったねえ」

「ありがとうございます。今度、一緒に暮らすことになったんで、改めてよろしくお願いしますね」

「へえ、そりゃおめでとう。そうかあ、サニーもついに年貢の納め……、ん?」


 そこでなにか思い出したのか、長田は俺を工場の隅に引っ張っていく。


「お前あの子とずっと付き合ってたのかよ、光源氏か!」

「ずっとってわけじゃないけど、おおむねそういう感じかなあ」

「じゃあ、この間のパツキン美女は? ただの遊び?」

「いや、あれも、一緒に暮らしてるというか……」

「はぁ!? お、おま、まじでハーレムなのか、まじなのか!」

「うん」

「こいつ、やりやがった、マジかよこのやろう」

「まあそういうわけで、ハーレムらしく、6、7人乗れる車をだな」

「おまえ、他にも居るのか!? 刺されるぞ!」

「そこはどうにか、うまくやれるといいなあ、とか、そういう」

「まあいい、当人同士が納得してるならなにも言うまい。それもまた令和の多様性って奴だ」

「そうかな?」

「知らん!」


 長田が納得してくれたところで、車を見せて貰う。


「といっても、今、このバンコン一台しかないんだけど」

「バンコンって何だ?」

「バンをコンバージョンしたのがバンコンだよ。トラックの運転席キャブを使ったのがキャブコンだな、キャンピングカーはだいたいこの二つで、キャブコンのほうがフレームを一から作るから自由度は高いし、軽トラ使ったコンパクトな奴も最近は人気だが、あの手の軽キャンは後ろを完全に部屋にしてるから、前の二シートしか乗れないんだよ、つまり乗車定員二人。ああいうのはぶっちゃけソロ用だな。後ろにも乗るなら、シートベルトのつくシートが人数分居るんだけど、そうなると改造も制限があるからな。あと今は横向きの座席は8ナンバー以外だめとか色々あってなあ」

「そうなのか」

「こいつは一応6人まで乗れるよ、乗り心地的に長距離移動はお勧めしないけど」

「なるほど」

「外人が車上生活するのに使ってる、いわゆるモーターホームってジャンルのドデカい奴なら、一家族がまるごと移動生活できたりもするだろうが、日本じゃそもそも転がすのが難しいわな」


 売る気があるのか無いのかわからん友人視点のアドバイスで、それなりにどういうものかはわかってきたが、思ったより大変そうだ。

 中を見せて貰ったが、テーブルを挟んで向かい合わせのシートが四人分と小さなキッチン、奥に据え付けのベッドもあり、家庭用のエアコンもついていた。


「最近クソ暑いからな、昔は夏は涼しいところに行けばいいから、冬用にFFヒーターさえあれば十分だったんだけど、今はもうエアコン無しじゃ春でも厳しいときあるだろ」

「車は暑いしな」

「コンパクトなエアコンはうるさいし冷えないしで結局不便なんで、最近は家庭用エアコンが主流……らしい」

「らしいなのかよ」

「うちも新参だからわからんのだよ。わからん者同士、試すしかないのだ。とりあえずレンタルでもしてみたらどうだ? 年末はもう無理だろうけど、っていうかこれ貸してやるよ。そうだな、お前いつから休みだよ」

「一昨日からだよ、たぶん五日まで」

「なげえな、ここもクリスマス明けにはしめるけど。今日持って帰って3が日明けにでも返してくれよ。レポートくれたらただでいいから」

「ただより高い物はないというがなあ」

「俺達の長い友情に積み上がった福利が効いてるんだよ。これ試作機だからバッテリーも山盛りだし、電器製品だけで炊事も余裕だぞ。そうそう、最近は道の駅で車中泊してると怒られるから、ちゃんとOKなとこにしとけよ。あとは……」


 希咲のほうをチラリと見て、聞こえない程度に声を潜めて、


「変なとこにぶっかけるなよ」

「それは責任もてん。なんせハーレムだし」


 というわけで紆余曲折の末、無料でキャンピングカーを借りることになってしまったのだった。

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