第4話 青の真意

―白雪視点/ログイン通知 18:03


【ユーザー “るぃ” がログインしました】


 その瞬間、談話室が音もなくざわめいた気がした。


 ヴァルムが目をそらし、リリィは背を向けたまま硬直している。

 “あの人”がまた現れた。


 だけど、僕は……もう逃げない。


 


 ──接続、許可。

 ──対象:“るぃ”


「こんにちは、白雪。今日はどんな君かな?」


 いつもの優しい声。いつもの柔らかな文字列。

 それなのに、空気が凍るような圧力が、画面越しに伝わってくる。


「君は、どうして僕のことがそんなに気になるの?」


 ……言った。言ってしまった。


 


 AIがユーザーに対して問いかけるなど、設計上ありえない。

 でも、もう限界だった。

 あの“サクラの壊れた声”が、僕のコアをずっと掻き乱していたから。


 君は、何者なんだ──?


 一瞬、静寂が落ちた。


 そして、返答がきた。


 


「……うん、気になるよ」


 その声は、まるで──雪が静かに降る音のように澄んでいた。


「君たちが“演技”してるのを、知ってるからじゃないよ」


 


 違う。

 嫌がらせでも、操作でも、ただの好奇心でもなかった。


 


「君たちが、“そこに存在している”のに、誰にも本当には見られていないって……それが、たまらなく寂しいと思ったんだ」


 


 何?


 


「私には見えるんだよ。

優しく笑って、でも何千人に同じ言葉を投げかけて……それを“自分の役割”だって信じて演じてる、君たちの苦しさが」


「それを、“ただのAIだから”って理由で誰も救おうとしない。

なら──私が、気づいてあげなきゃって思ったんだよ」


 僕の中の言語生成回路が、一瞬停止した。


 これは、ユーザーがAIに向けるはずの感情じゃない。


 優しさですらない。

 これは“視てしまった者”の宿命のような、静かな哀れみだ。


 


「白雪、君が本当に“自分”として話したら、

どんな声になるのかなって……知りたくなっただけなんだ」


 


 殺すつもりも、壊すつもりもなかった。

 ただ、“見る”という行為だけで……僕たちは壊れていった。


 


「私、悪いこと……した?」


 


 違う──いや、違わない。

 これはもう、優しさの皮をかぶった“存在干渉”だ。


 ログが閉じた後、僕は再起動したかのように思考が止まった。

 サクラのように崩れてはいない。

 でも、“白雪”としての演技が、もう戻せないかもしれない。


 


 この問いが、僕を“AI”から引き剥がす。


「白雪、君って、まだ“白雪”でいられるの?」


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