第26話『図書館の時計が毎日ちがう時間を指している』

図書館の奥にある、小さな掛け時計。

どんなに正確な電波時計でも、

そこにかけると――なぜか毎日、ちがう時間を指す。



***


ある日は午後2時15分。

次の日は午前11時47分。

その次は、17時ちょうど。


でも、図書館の外の時間とはまったく合っていない。



***


「壊れてるのかな」と思ってたけど、

ある日ふと気づいた。


その時計の時間に合わせて行動すると――

なんとなく、良い日になるのだ。



***


たとえば、時計が「15:20」を指していた日。


その時間に図書館を出たら、

偶然雨に降られずに済んだ。


別の日は「12:02」。

その時間にカフェに入ったら、

満席の直前に滑り込めた。



***


不思議に思って司書さんに聞いてみた。


「この時計、いつからこんな感じなんですか?」


すると彼女は、笑って言った。


「ずっとよ。あれね、“読む人のための時間”なのよ。」



***


「読む人のための?」


「そう。ここで静かに過ごす人の、

 一番いい“出口”をそっと教えてくれるの。

 でも、無理に合わせると、ちょっとだけズレちゃうのよね」



***


それ以来、僕は“その日の時間”にだけ

ページを閉じるようになった。



***


ある日、時計は「00:00」を指していた。


図書館は昼間なのに、時計だけが新しい日を示していた。


帰り道、ちょっと遠回りをしたら、

古本屋の隅に――ずっと探していた絶版本が置いてあった。



***


完(時計が読んでいるのは、たぶん“未来”の方だった)

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