第25話『鏡の中の自分が、目で何かを合図してくる』

毎朝、洗面所の鏡で顔を見て、寝癖を直す。

特に変わったことなんてなかった――昨日までは。



***


今朝、鏡の中の“自分”が、

ほんの少しだけ目を動かした。


いや、ちゃんと動いてる。けど――

タイミングが、ずれていた。


僕が瞬きしてから、0.5秒後に、鏡の中の自分がまばたく。



***


「気のせいかな」って思いながら歯を磨いてたら、鏡の中の自分が――左目をだけウインクした。


でも、僕はしてない。



***


背筋がぞわっとして、

その場を離れた。



***


次の日、確認するように鏡を見た。

目をこらして、同じタイミングで動いてみる。


でも……やっぱり少しずれてる。



***


そして、目が合った。


“鏡の自分の目”が、何かを言おうとしている。

口は動かない。でも――まばたきでメッセージを送ってくる。



***


瞬き、間、まばたき。

3回→1回→2回……

まるでモールス信号みたいな、目の点滅。


わかるわけがない。でも、なぜか“伝わってる”気がする。



***


「誰か来る。

気をつけて。

次の“あなた”は、違う。」


***


次の僕?何が?どういうこと――


そのとき、後ろから誰かが入ってきた。


「おはよう、朝から鏡とにらめっこ?」


母の声。でも、少しだけ違って聞こえた。


僕は、鏡を見た。



***


中の“自分”がいなかった。



***


完(入れ替わるのは、一瞬だったらしい)

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