第15話『学校の階段を7.5段目で止まると未来の自分に会える』

 うちの学校の階段には、

 **“7.5段目に立ち止まると、未来の自分が現れる”**ってウワサがある。


 怪談でも都市伝説でもなく、

 妙に信じてる人が多い、変なルール。


 ***


「でもさ、7.5段目ってどこ?」


「7段目と8段目の間らしいよ。要するに“途中”で止まるんだって」


 ***


 ある日、好奇心に負けて、

 誰もいない放課後にやってみた。


 1段…2段…3…4…5…6……7……7.5。


 ちょうど、右足と左足が段の間に浮いた瞬間――


 目の前に“自分”が立っていた。


 ***


 服装も髪型も、ちょっとだけ違う。

 でも、間違いなく自分。

 未来の自分はこう言った。


「ジュース、買わないほうがいいよ。

 あれ、ふた開けた瞬間に吹くから」


 ***


 その日は確かに、

 自販機のコーラがすごい勢いで噴き出した。


 ……あれを止めてくれたのか。


 ***


 次の日も試してみたら、今度の未来の僕は、


「廊下の右側を歩くと、女子の髪にくっつくからやめとけ」

 と言ってきた。


 ……地味に助かるアドバイス。


 ***


 そのうち、僕は**“7.5段目中毒”**になった。


 何かあるたびに階段で宙ぶらりん。

 見える未来はちょっとだけ先のことばかり。


 でも、ある日突然、未来の自分は言った。


 ***


「ここから先、もう俺は来られない。

 未来は、お前に任せた。」


 そして、静かに消えた。


 ***


 それから、7.5段目に止まっても、

 未来の僕はもう現れない。


 ただその代わりに――


“今の自分が、誰かの未来になってる気がした”。


 ***


 完(今でも、僕は未来を探して階段はほんの少し宙ぶらりん)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る