第10話『バス停に置いてあった“謎の箱”が、僕の悩みを一つだけ吸い取った』

 いつも通り、朝のバスを待っていたら、

 バス停のベンチの横に――箱が置かれていた。


 ダンボールでも、宅配でもない。

 手のひらサイズの、黒くて、つやのある箱。


 ***


 フタには一言だけ、こう書いてあった。


『あなたの悩みを一つだけ、お預かりします。』



 ***


「え……なんか、スピリチュアル売りつけられるパターン?」と疑いながらも、なんとなく、思い浮かべてみた。


 ***


「明日の英語スピーチ……失敗したらどうしよう……」



 そう思った瞬間、箱がカチッと音を立てて開いた。


 中は空っぽ。

 でも、胸の奥にあったモヤモヤが、ふっと軽くなっていた。


 ***


 その日は、スピーチが意外とうまくいった。

 手も震えなかったし、先生に「いい発音だったよ」とほめられた。


 ***


 翌日、またバス停に行くと――


 箱は、なかった。


 まるで最初から存在していなかったかのように。


 ***


 でも、同じクラスの友達がふとつぶやいた。


「なんかさ、今朝バスに乗ってからちょっとだけ楽になった気がするんだよね。なんとなくなんだけど……」


 僕はそっと笑った。


 もしかして、あの箱……次は誰かのところに行ったのかもしれない。


 ***


 そしてその日の帰り道、

 ランドセルのポケットから、知らないメモが落ちてきた。


『ひとつ減らせたら、ちゃんと笑えるよ。次は誰の番?』



 ***


 完(悩みは、そっと吸い取られたまま)

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