第23話 第3章 ロックにさほど知能は要りません。要るのは根気と感情です(5)
それから、俺と山口はゲームセンターを飛び出して、同じショッピングモールの中のファミレスに入った。ファミレスの中は、そこそこ席が空いており、すんなり座ることができた。
「すんなり、座ることができたでござるな。とりあえず、拙者はドリンクバーでよろしくでござる」
「俺も、ドリンクバー頼もうかな」
「なら、拙者が代わりにドリンク取りに行くでござるよ。何がいいでござるか?」
「そんな、悪いな。ええっと、ブラックコーヒーでお願いします」
「ブラックコーヒーなんて、珍しいでござるな」
「うん、集中したいからね。さっきの山口からもらったインスピレーションが新鮮なうちに書き上げたいから‥」
「それなら、コーヒーが良いでござるな。応援してるでござるよ。それじゃあ、行ってくるでござるよ」
「ありがとう!」
山口がドリンクを取りに行った後、一人になったテーブルを眺めながら作成する詩について考えた。テーマは、『挑戦することや努力することに対する他人の目など気にしないでいい!』みたいな感じだ。あとは、そのふわりとした抽象的なイメージをどこまで、具体的なパンチラインを作っていけるかが鍵になるだろう。
「お待たせでござる!熱々のコーヒーでございますでござるよ!」
「ありがとう、これで頑張れるよ」
俺は、山口が持ってきたコーヒーを一口飲んだ。飲んだ瞬間に、その熱さが喉を伝いお腹に来たのが分かった。そして、さっきよりも少しだけ熱い息を吐き出した。
「アイデアは、まとまりそうでござるか?」
「うーん、ぼちぼちかな。方向性は分かったんだけど、それを具体的な言葉にして行くのが難しい‥、かな。山口はどんな歌詞がいいと思う?」
山口は喉が渇いていたのか、持ってきた自分用のコーラを半分ぐらいまで飲んでから、喋り出した。
「そうでござるなー。正直、ロックについては素人なのでイメージでしか語れないでござるが、変に綺麗な言葉を並べるよりも、馬鹿みたいに真っ直ぐな感情むき出しな言葉が並んでいる方が好きでござるな」
「確かにロックって感情剥き出しの方がライブの時に、良さそうだね。爆音のビートに負けないような強いストレートなパンチラインが良さそうだね。山口の意見すごい参考になるから、アドバイザーをお願いしたい」
「いいでござるよ!なんだか楽しそうでござるからな」
それから、俺と山口は席につき一緒に歌詞を考え始めた。歌詞を考える時間は、一人で考えるよりも断然楽しかった。頭が疲れた時は、甘いデザートを注文したりした。思えば、山口とは遊んだりすることは、何度かあったが今回のように何かを一緒に作るということは、したことなかったな。
そして、初めての歌詞作りだったが山口は、言葉のチョイスが上手かった。そのおかげで、歌詞は順調に決まっていった。改めて、山口の優しさに感謝しないとなって思った。
「ふー、ようやくここまできたなー。あとは、ラストのサビだけだよ、本当にありがとうな、山口」
「そんな、拙者は何もしてないでござるよ。それより、あともう少しで完成でござるよ!完成して披露するときは、拙者も見に行くでござるよ」
「あぁ、必ずライブには招待するよ」
「お客さんがまた一人増えて良かったな藤田ボーイ。作詞は、順調かな」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は、ノースさんだ。
声のする方を振り返るとそこには、ノースさんがチョコレートパフェを持ちながら、テーブルの横に立っていた。突然の出来事に山口は、おどおどしている。
「うわぁ、ノース先輩!どうしてここに?」
「たまたま、通りかかったら藤田ボーイが友達と会議しているのが見えたから、つい入ってきてしまったよ、ハハハ。そこの友達は、初めましてだよね。藤田ボーイの先輩のノース・クリストファーと言います。以後お見知り置きを‥」
ノースさんは、そう言ったあとに手を差し出して、握手のポーズを取った。
「初めまして、藤田氏の友達の山口でござる。こちらこそ、よろしくお願いするでござる」
山口は、挨拶を返すとノースさんの伸ばされた手を慣れてない感じで、握り返した。
「ははは、なんだか面白い子だね。そういえば、さっき見た感じだと作詞の方はもう完成しそうな感じなのかい?」
「そうですね。山口のおかげでなんとか、あと少しで完成しそうです。一回完成しているところまで見てみますか?
「全く連絡がなかったから心配してたけど、無事に間に合いそうで良かったよ。じゃあ、早速見せてもらおうかな」
ノースさんに俺は、歌詞を書いたメモ帳のアプリをスマホを渡した。渡した後、画面を見るノースさんの目は真剣そのものだった。
「うん!いいんじゃないか!この歌詞ならあの女も納得するだろうし、何より歌詞の語感がいいね。音の付け甲斐がありそうだよ」
「ありがとうございます!でもこれは、僕だけじゃなくて、山口が居てくれたから作れました」
「そうなのか、山口ボーイにはお礼を言わないといけないな。作詞を手伝ってくれて、どうもありがとう」
「いえいえ、拙者は何も何も‥、少しだけ手伝っているだけでござるよ」
「それでも、その手助けがこの歌詞を作るきっかけになったのに間違いなら誇るべきだよ。それより、君の声どこかで聞いたことあるような‥」
「ありがとうでござる!声はきっと、気のせいでござるよ。拙者みたいな声は、どこにでもありふれているから‥」
「そうか‥。まぁ、いいか。最後のサビが完成するまで、私もここに居ても大丈夫かな?」
「僕は、大丈夫ですよ。むしろ心強いです」
「拙者もノース殿とまだ、お話ししたいでござる!」
こうして、ノースさんが加わり作詞作業は佳境に突入した。最後のサビは、その曲の印象を決める大事な箇所だ。ここの出来で聞いている人の印象がガラリと変わるだろう。頭の中にある語彙を全て並べて、歌詞のイメージに合う適当な言葉を紡いでいく。そして、その紡いだ言葉たちの語感を考えては、やり直しを何回も行った。その作業を行なっていると時間は、あっという間に過ぎていった。そして、ようやく‥。
「うん!いいんじゃないか!この歌詞ならあの女も納得するだろう。芯が通ってるし、言葉にも魂がある。いやぁ、予想以上だよ、藤田ボーイ」
ノースさんが満足げにスマホを返してくる。その笑顔には、からかうような軽さではなく、どこか本気の信頼が滲んでいた。
「ほんとですか? ありがとうございます……!」
俺は思わず、胸を撫で下ろした。何となくではあったが、ずっと“あの女”――つまり日向さんを納得させられるか、不安だったからだ。
「むしろ、あの子に聴かせるのが楽しみになってきたよ。きっと驚くぞ」
「驚く……か。だったら、その反応も目に焼き付けておかないとな」
「ふふ、やっぱり君は、こういうこと言うと顔に出る。素直なやつだ」
「えっ、出てた?」
「バッチリでござるな。目がニヤニヤしてたでござるよ」
「まじか‥!」
俺は顔を両手で隠しながら、思わず苦笑した。そんな俺を見て、山口とノースさんは揃って笑っている。だけど、それはどこか温かい空気をまとった笑いだった。
「よし、じゃあこれで、本当に詩の方の準備は整ったってことでいいかな?」
ノースさんがコーヒーをひと口飲んで、目線をこちらに戻した。
「はい、あとは先輩方に任せても大丈夫ですか?」
「もちろん。初めからその約束だったろ。ボーイは十分仕事を果たしたんだから次は私達の番だ」
そう言って、ノースさんは立ち上がる。
「さて、私はそろそろ帰るとしようかな。甘いものも食べたし、明日は授業もあるしな。あ、そうそう山口ボーイ‥」
「なんでござるか、ノース氏?」
「これ、私の連絡先だから何か困ったことがあれば連絡してくれ、何か力になるよ」
「ま、まじでござるか……拙者こんなの初めてでござるよ……。あ、拙者の連絡先も‥どうぞでござる」
「ははは、ありがとう。いつでも連絡してきても大丈夫だからね。それじゃあ、私はこれで‥。藤田ボーイは、明日必ず部室に来るように、みんなにこれを見せないとだから‥」
「はい。わかりました」
「それじゃあ。私はこれで帰るよ。グッバイ、ボーイ達」
ノースさんは、冗談交じりにウィンクして去っていった。俺と山口は、その背中を見送りながら、なんだか少しだけ背筋が伸びるような気持ちになっていた。
「さて、俺たちもそろそろ帰ろうか。明日も学校あるし」
「そうでござるな。今日はとても濃い1日であったでござるよ。その分とっても楽しかったでござる」
ファミレスを出ると、外はすっかり夜になっていた。ショッピングモールのガラス越しに見える夜景が、いつもより少しだけ眩しく感じた。
きっと、ここからが本当の勝負だ。俺はスマホのメモアプリを見つめながら、改めて思った。
今度のステージで、この詩を、この歌を、必ず成功させてやる。
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