喋る魔鎧と女騎士

鉛空 叶

第1話 国宝

【魔鎧】


 それは文字通り魔の力の込められた鎧だ。魔力。

 人間族は魔力を駆使して魔法を使い、身体能力を向上させ、魔物と戦い、魔族を退けて来た。1000年は続いている戦いは未だ決着がつかず、人間族は魔王の打倒を夢見て、抗い続けている。

 【魔鎧】はそんな人間族の武具の一つだ。強力な魔法を弾き、頑丈で壊れにくい。それぞれの鎧に特性があり、それは装着者に大きな力を与える。使いこなせば一騎当千、無双の力を得るとも言われている。

 しかし、使いこなすには、鎧に認められなければならない。

 魔鎧は意思を持ち、装着者を自身が選ぶと言われている。

 が、しかし、そんな魔鎧も破壊され、今ではほんの少しが現存しているばかりであった。


「お待ちくださいアンリエッタ様!」


 廊下を歩く私の後ろを、ガシャガシャと音を立てながら追ってくる近衛兵を無視して私は進む。奴らは王の警護から離れられまい。

 しばらく進むと目の前にあるのは豪奢な装飾を施された宝物庫の扉が見えてくる。

 左右に衛兵が立ち、厳重に警備をしている。


「アンリエッタだ。話は聞いているな?」


 衛兵が敬礼の動作をし、続けるように言う。


「はい……しかし、私は反対です……あの魔鎧を装着出来たものは、先々代の勇者ただ1人と聞いています……従えようと挑戦したものは皆……」

「そんなことは百も承知だ。なに、この私がどうにかしてみせるさ。それに何より、皆平和を願っている。私の代でこの長く続いた魔族との争いを終わらせたいのだ。その為に研鑽して来たのだ」

「──っ、確かにあなたは最強の騎士であります! しかし同時に、王の一人娘ではありませんか!」

「問題ない。父上には許可をいただいている」

「……王が……わかりました。しかし、危なくなったらすぐに出て来てください。あなたの損失はとても大きいと自覚してください」

「わかってるさ」


 衛兵が頭を下げ、宝物庫の扉を開いた





 アンリエッタ様が扉の向こうに消えてから早数分。

 ソワソワともう1人の衛兵と顔を合わせる。

 成功しただろうか、失敗しただろうか。そんな思いが頭を駆け巡る。

 そんな中扉が開く、俺たちは2人とも歓喜に頬を緩ませる。成功したとかどうでも良い。再びアンリエッタ様が出て来た事実が嬉しいのだ。


「──アンリエっ──!」


 名前を呼ぼうとして、息を飲んだ。

 腰ほどもある美しい金の髪は乱れ、白磁のような頬に張り付いている。その頬は紅潮し、碧眼を潤ませ、およそ普段の凛とした彼女からは想像のつかない表情だ。未だ幼さの残る顔に対して扇状的過ぎた。

 アンリエッタ様は身を隠すように両手で身体を抱いて現れる。

 その身体には見事に魔鎧を纏っていた。胸と股間と足甲と手甲、ただそれだけの部位を守るテカテカとした紫を基調とした魔鎧は、アンリエッタ様の豊満な肉体をこれでもかと強調している。

 普段鎧や服によって隠された部位が露出し、引き締まったお腹に可愛いおへそさえも丸出しだ。ひたすらに淫靡だった。

 有り体に言えばエロかった。


「えっと……おめでとうございます」

「──ッ!」


 きっとこちらを涙目で睨みつけると、アンリエッタ様はものすごいスピードで廊下を走り去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る