第1話(後編)……仮釈放への道、そして新たなる誓い
前書き
刑務所での長い年月を経て、与一はついに仮釈放の道を掴もうとしていた。だが自由への扉の先には、壊れた組織と、失われた居場所が待ち受ける。それでも彼は、自らの手で新たな「城」を築き上げようと決意する――
清掃作業を終えて帰ろうとすると、
「信者に作品の朗読をして欲しい」
と西島牧師に云われた。
快く引き受けて修正なしのエロ話をキリスト教の信者の前で身振り手振り腰振りを交えて懇切丁寧にしてやった。えらく受けて嬉しかった。エロ話は万国共通だな。今度はイスラム教会でもやってみたいものだ。
トラックで運ばれてムショに帰った。一夫にTELした。
与一:兄貴と潤のばしたをさらってアジトに監禁しろ。写メに撮って洋子に送れ。
一夫:わかりやした。3時間位かかります。
夕食休憩の時ばしたからTELが入った。
洋子:写メが送られて来たけど、あんたまたやばいことするんじゃないでしょうね。危ないことはもう止めてよ。
与一:何もしねえよ。ちょっと脅かしてやるだけだ。写メを潤に送ってやれ。
翌日、朝一番で潤からTELが入った。昼食時に掛け直せと言って電話を切ってやった。案の定潤が面会に来た。
潤:かしら、女房をどうするつもりだ。2人の命だけは助けてやってくれ。
与一:おめえも兄貴も9年間一度も面会に来ない。差し入れもしたことがない。シャブにも手を出してるそうだな。お前たち2人とは血がつながっているから殺るのは最後にしてやろう。まずはばしたの2人の
潤:かしら、どうしたら許してくれる。なんでもするから助けてくれ。
与一:金を3億用意せい。おめえと兄貴の指を詰めろ。指詰めの場面を写メで送れ。小指2本と3億は明日持ってこい。
翌日潤は3億と小指2本と写メを持ってきた。一夫に電話して2人を解放した。3億の小切手をばしたに渡し、銀行に預けた。朝の刑務作業中に運用方法を考え一夫に指示した。
刑務官が寄ってきて
「安藤良かったな。仮釈が出たぞ。保釈金は500万円だ」
与一:本当ですか。保証人には誰がなってくれたんですか?
刑務官:お前も清掃作業に行って知ってるだろう。光の塔教会の西島牧師だ。お前の作品朗読が気に入ったそうだ。お前の作品はああいう連中に良く受けるそうだ。本能丸出しの連中だからな。
「失礼なことを云うやつだ」
与一は
「かっとなった」
が何とかおさえた。
与一:何時から出れるんですか。保釈金は今すぐ納めます。
刑務官:副所長の面接審査がある。それに合格すれば明日にも仮釈放だ。今から面接に行ってこい。
与一:分かりました。
副所長の部屋のドアをノックした。
「やり手のキャリア官僚」
が言う。
「入りなさい」
与一:失礼します。
ドアを開けて入った。ガランとした8畳くらいの部屋に大きな机が置いてあり、机にはデカいデスクトップパソコンが置いてある。フラクタルデザインの
「Define 7 XL」
だ。ああこの人は自作PCを使っているんだな。与一は副所長を見直した。自作ができるとなると単なる官僚じゃない。
「安藤与一34歳、三流私大卒、黒天会健誠会安藤組若頭、2000年8月1日対立する神戸黒天会若頭山広啓太45歳を拳銃で射殺し、その足で浪速警察署に自首した。間違いないね」
与一:間違いありません。
「光の塔教会の西島牧師から仮釈放推薦状が昨日届いたわ。身元も引き受けてくれるそうよ。ちゃんとお礼を言っておきなさい。住むところはあるわよね。2週間に一度私のところに顔を出しなさい」
与一:期間は何時までですか?
「3年間よ。毎月第2、第4月曜日の午前10時に私の部屋まで来なさい。現状の確認をするだけよ」
与一:分かりました。仮釈は明日の何時ですか?
副所長:朝10時よ。もう帰っていいわ。
与一:失礼します。長いことお世話になりました。
与一は部屋を出た。すると、懐かしい曲が耳に飛び込んできた。
aikoのアルバム『桜の木の下』に収録されている「花火」だ。
「この曲……」
2000年にリリースされたこのアルバムは、与一が刑務所に入る前によく聴いていたものだった。特に「花火」は、夏の情景が鮮やかに浮かぶ名曲で、当時の思い出が蘇る。
昼食の時間になり、皆に祝福された。軽く肩を触れ合う程度だが。ばしたが面会に来た。仮釈の話をすると涙を流して喜んだ。
洋子:あんた驚かないでよ。武親分が廃業したわ。安藤組は解散よ。あんたも行くところは無いわ。カタギになるしか無くなったの。分かった?
与一:まあ仕方がない。俺の夢も終わりか。兄貴もひでえことばかりしやがる。洋子。店を開くぞ。パチンコ屋とファッションホテルそれからキャバクラをやる。
洋子:場所はどこにするの?
与一:今ひらけてきている天王寺だ。天王寺駅前の谷町筋沿い東明ホールという小さなパチンコ屋がある。そこを購入したんだ。
与一:そこから谷町筋を向かいに
「東側へ」
渡ると近鉄百貨店がある。そこを真っ直ぐ東に行くと向かって右手に歓楽街がある。そこの店も一つ購入した。ここでキャバクラをやる。
与一:それで歓楽街を抜けるとお寺とラブホがあるだろ。そのラブホも購入したんだ。ファッションホテルというのをやる。なんでもラブホとシティホテルの中間のようなものらしい。値段も安くする。寺の横だからな。
与一:洋子、お前にはキャバクラを任せるから若い女の子を調達してこい。俺がパチンコ屋の大将をやって、一夫にファッションホテルを任せる。人数が3人しか居ないんだからよ。これ以上店は増やせねえ。
洋子:分かった。10人位でいいよね。
与一:そうだ。頑張ってくれよ。
前夜はムショ仲間、刑務官のみなさんとジュースで祝って貰った。
大林春夫:入れ替わりになったな。おめえの方が先に出るとは思わなかったぜ。3億の話は忘れてねえだろうな。
与一:覚えちゃいるが、少し事情が変わった。俺は天王寺で店を開くんだ。おめえが出所する時改めて考えてみよう。店の経営が軌道に乗った時、一度会いに来るよ。
春夫:それじゃおめえに頼みたいことがある。黙って聞いちゃくれねえか。
与一:話によるがまあ云ってみろよ。
春夫:俺には別れた女房と娘が一人居る。まだ小学生なんだ。金の面倒を見てくれないか。
与一:そんなことだと思ったぜ。いくら払ってやれば良いんだ。
春夫:女房に月々30万やってくれ。
与一:ただじゃあやれねえな。俺の店を手伝ってもらって給料としてなら出してやろう。
春夫:そりゃあ願ったり叶ったりだが、何をやらせるつもりだ。もう36歳だぜ。風俗は無理だ。
与一:そんな事はさせねえよ。確か嫁さんは大学出だったよな。3店舗の経理をやって貰うつもりだ。名前は何と云ったかな。ああ思い出したぞ。大林あゆみさんだったな。
春夫:別れたから旧姓に返ったよ。瀬戸あゆみになった。
与一:阿倍野区松崎町○丁目○番地○号天下一ビル101号室㈱天下一に8月16日月曜日の朝9時から出勤させてくれ。月々30万で良いんだな。
春夫:それで良い。宜しく頼むよ。
与一:お前、また捕まるなよ。
春夫:殺人罪で捕まったやつに言われたくねえな。
与一:お前は知らんだろうが、俺は元々弁護士になりたかったんだ。法の知識は役に立つぜ。
春夫:そうか。ヤクザは実家の稼業でやむを得なかったんだな。
後書き
過去を捨て、新たな野望を胸に抱いて。与一は裏社会の王ではなく、「表の世界」を制する真の王を目指す。本当の戦いは、ここから始まる。
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