第49話
アトリエ・シノハラは激震に見舞われた。週刊誌報道によるこずえシノハラの隠し子問題は、彼女を代表の座から引きずり下ろし、「娘を捨てた母親」という烙印を押した。バッシングは止まず、アトリエの存続すら危ぶまれた。
しかし、時間は流れ、奇跡が起きた。こずえと娘・菜々美の間で和解が成立。こずえは会長となり、菜々美が新社長としてアトリエを率いるという、劇的な新体制が発表されたのだ。人気シリーズ『7SEEDS』は据え置きとし、アトリエは再出発を決意した。
連日、アトリエでは今後の方向性を決めるための会議が開かれていた。古参メンバーに加え、新たに高橋香織というデザイナーが加わった。彼女はまだ若手ながら、その才能は誰もが認めるところだった。
議論が煮詰まり、打開策が見えない日々が続いていたある日、高橋香織が口を開いた。
「新ブランド名を…『in.heaven』にしたらどうでしょうか」
彼女の提案に、会議室は静まり返った。菜々美は眉をひそめ、こずえは目を閉じた。しかし、高橋香織は怯むことなく、言葉を続けた。
「アトリエ・シノハラは、一度地獄に落ちました。でも、会長と社長の和解によって、再び光が見えてきた。私たちは、このブランドを通じて、お客様に、まるで天国へ昇るような、最高の喜びと感動を提供したいんです。だから、『in.heaven』。天国の中にいるような、そんなブランドを目指したい」
高橋香織の熱い言葉に、菜々美はハッとした。過去のしがらみに囚われ、守りに入っていた自分に気づかされたのだ。こずえもまた、娘の成長と、新しい世代の可能性に希望を見出した。
「…いいわね」
こずえは静かに頷いた。「in.heaven。まるで、私たちそのものを表しているかのようだわ」
菜々美も力強く頷いた。「高橋さん、ありがとう。その名前、使わせていただきます」
こうして、アトリエ・シノハラは、『in.heaven』という新たなブランド名と共に、再出発を切ることになった。過去の影を乗り越え、天国を目指すような、革新的なブランドとして。高橋香織の天賦の才は、アトリエ・シノハラに新たな風を吹き込み、未来への希望を灯したのだった。
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