第28話


マンションに戻ったこずえは、リビングのソファに深く腰掛けた。テーブルの上には、先ほどコンビニで買ったばかりの週刊『真相』が置かれている。表紙には、大きく「【独占】シノハラ・コズエ、隠された過去!人気デザイナーの衝撃的な真実」という文字が躍っていた。


深呼吸を一つ。こずえは、震える手で雑誌を手に取り、ページをめくった。高橋記者が、あの時言っていた通り、記事はこずえの過去、そして菜々美の存在を詳細に伝えていた。


(ここまで書かれるなんて…。)


こずえは、記事を読み進めるうちに、怒りが込み上げてきた。高橋記者は、確かに菜々美の心情に配慮すると言っていた。しかし、記事は、こずえが過去を隠し、菜々美を顧みなかった冷酷な母親であるかのように、読者に印象付けるものだった。


「…話が違うじゃない!」


こずえは、思わず叫んだ。そして、手に持っていた雑誌を握りしめ、勢いよく床に叩きつけた。雑誌は、バラバラに破れ、紙片が散乱した。


「なによ!バカにして!私の気持ちも知らないで…!」


こずえは、破り捨てられた雑誌の残骸を、憎々しげに見下ろした。


その時、事務所から電話がかかってきた。電話に出ると、秘書の高井まどかの、落ち着いた声が聞こえてきた。


「シノハラ先生、記事、読まれましたか?」


「ええ、読んだわ。最低の記事ね。あいつら、約束を破ったわ。」


「先生、落ち着いてください。記事の内容は、事実と異なる部分も多いですよね?」


「事実じゃない部分なんて、ほとんどないわ。全部、私が話したことよ。」こずえは、自嘲気味に言った。


「あまりに事実過ぎて、しらけてきますね。先生のドラマチックな人生を、もっと面白おかしく脚色してくれると思ったのに。」高井は、冷静な口調で言った。


こずえは、高井の言葉に、思わず吹き出した。「ひどい!高井さん、そんなこと言うのね。」


「だって、本当のことですもの。でも、今回の記事は、先生にとって、プラスになる部分もあると思いますよ。」


「プラスになる部分…?何がよ?」こずえは、訝しげに尋ねた。


「今回の報道で、先生の人間味溢れる一面が、世間に知れ渡りました。今まで、先生は、完璧なデザイナーというイメージが強かったですが、今回のことで、親近感が湧いたという人も多いはずです。」


「そんなこと、あるかしら…。」


「ありますよ。それに、菜々美さんの才能にも、注目が集まるでしょう。もしかしたら、今回のことがきっかけで、二人の関係が修復されるかもしれません。」


こずえは、高井の言葉を聞きながら、少しずつ冷静さを取り戻してきた。確かに、高井の言う通り、今回の報道が、必ずしもマイナスになるとは限らない。


「でも、本当のことだから、仕方ないわね…。」こずえは、ため息をつきながら言った。そして、少し笑った。「仕事しなきゃ(笑)。」


「そうですよ、先生。次のコレクションの準備、始めましょう。今回の報道を、逆手に取って、素晴らしい作品を作り上げましょう。」高井は、力強く言った。


「ええ、そうね。今回のことは、良い教訓になったわ。過去から逃げることはできない。そして、どんな困難も乗り越えられる。」


こずえは、立ち上がり、破り捨てられた雑誌の残骸を片付け始めた。そして、新たな決意を胸に、デザイン室へと向かった。

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