第19話 出発と騎士の誓い

 まとめておいた荷物を全て運び出した頃には、馬車の前にはお父様、お母様、お姉様、お義兄様の四人がいらっしゃった。


 スケジュール的には急に決まった結婚だったから、ひょっとしたら一目もお会いすることが叶わず出発する事になるかもと思っていたのに。


 きっと今日、ここに来る為に、とても頑張って時間を空けて下さったんだろう。



「ソレイユ嬢。」



 四人の後ろにアレックス様が立ってらっしゃった。

 今日は馬車で長い移動になるし、楽なようにだろう、騎士様のようなお衣装を着ていらしてとても格好いい。フォーサイス騎士団の制服だったりするのかしら。



「アレックス様。お迎えありがとうございます。」


「貴女は俺の妻となったのだから、迎えに来るのは当然の事。気にすることはない。」


「はい!そのお衣装、素敵ですね!アレックス様、夜会の時も素敵でしたけど、今日のお姿もとてもお似合いで格好良いです!」


「そ、そうだろうか…、ありがとう。

 ソレイユ嬢、貴女も、以前のドレスも美しかったが、今日の旅装もよく似合っていて愛らしいと思う。」


「まぁ、ありがとうございます!」



 初々しくも頬を染めて見つめ合っていると、アレックス様の後ろに居たらしい騎士様達がゴホンと咳き込んだ。



「あ、ああ…そうだった、ソレイユ嬢。

 こっちは我がフォーサイス家の抱える騎士団で副団長を任せているエイダンだ。

 この旅の間に何かあれば、俺かエイダンに申し出てくれ。」



 咳で存在をアピールしてらした騎士様が副団長様だった。

 アレックス様と似た真っ黒な騎士服を見に纏い、他の二十名ほどの騎士様方と一列に並んでいる。



「お初にお目に掛かります。ご紹介に預かりました、フォーサイス騎士団副団長、エイダン・ヘイワードです。

 団長は領地居残り組の為不在ゆえ、代わりに私が代表としてご挨拶に伺いました。

 団長との腕の差は然程ないと自負しておりますので、道中の警護もご安心ください。」


 ヘイワード様のご挨拶と共に、騎士達が一斉に頭を下げる。

 流石、武で有名なフォーサイス騎士団、鍛え上げられているのは剣や魔導の腕だけでなく、その統率力も素晴らしいものだった。

 お辞儀の角度といいタイミングといい、一糸乱れぬとはまさにこの事かと思わせる。



「ご丁寧にありがとうございます。わたくしがソレイユ・ローズ……、コホン、ソレイユ・フォーサイスになったのでした…。」



 姓が変わってから初めての名乗りに、少々照れが出てしまった。

 口に出した私だけではなく、それを聞いていただけのアレックス様までお顔が赤いのは何故だろう。



「此方からはわたくしとわたくしの専属侍女であるミアが共に参ります。

 皆様、よろしくお願いしますね。」


「「「 お任せ下さい!!よろしくお願いします!! 」」」



 凄い、声がピタリと揃っているわ。

 ローズブレイド家の騎士達より一回り程がっしりとして見えるフォーサイス騎士達が並ぶととても迫力がある。

 ローズブレイド家の騎士達も、それでも王都の近衛騎士団に比べれば筋肉盛り盛りだったのに。

 筋肉の量とは魔獣の量と比例するのかもしれないわ。



 ここまでのやり取りを黙って見守って下さっていたローズブレイド家の四名が、そろそろ時間かといらっしゃった。


「ソレイユ、もう行ってしまうのだな…。

 フォーサイス領は大分遠い。頻繁には帰って来れないだろうが…。

 定期的に手紙を書いて送ってくれ。

 そう、週に一度くらい。」


「週一はそこそこ多いです、お父様。配達人が大変じゃ無いですか。」


「体調には気を付けて、ソレイユ。

 散歩中のその辺のベンチでうたた寝したりしない事。

 あなた存外適当なんだから…。」


「あっ、あ!ダメですわ、お姉様!そういうのは秘密にしてらして!

 子供の頃のお話なのです、アレックス様!」


「そうか、元気な子供時代だったのだな。」


「いいや、ソレイユちゃんは先日も庭の東屋で船を漕いでいましたよ、フォーサイス侯爵殿。家令から報告が上がっていましたから。」


「嘘でしょアルフィー、黙っててって言ったじゃない!なんでお義兄様に報告しちゃったの?」


「次期ご当主様の命が優先されますゆえ。」


「ソレイユ、ハンカチは持った?忘れ物はないわね?

 道中ふわふわした魔物が居ても、馬車から降りてはいけませんからね。」


「お母様、それだとわたくしが何時もそうしているみたいですわ。

 あれはウサギだと思っただけで、魔獣を見に降りたのではないのです。」



 ローズブレイドの一員としての最後の日だと言うのにわいわいと全然締まらない会話。

 ただただ騒がしい中に、寧ろ家族の温かさを感じて、こんな挨拶なのに涙が浮かんできてしまう。



「良い家族なのだな、ソレイユ嬢。皆仲が良く、会話が絶えない。」


「はい、自慢の実家です。」


「…俺たちも、そういう家族になれれば良い…と思う。」


「はい!絶対なりましょうね、アレックス様!」



 アレックス様はとても優しげな表情で、けれども眩しそうに目を眇めた。

 彼を取り巻く環境は色々と複雑だから、何かと思う事があるのかもしれない。

 何としても私が彼を幸せにしなくては!



「アレックス様、出発準備完了しました。

 いつでも出られます。」


「よし、そろそろ出よう。

 ソレイユ嬢—…いや、今後はソレイユと呼んで構わないだろうか。」


「そうして下さると嬉しいです。」


「では、ソレイユ。手を。」



 エスコートの為手が出される。

 私はその手の助けを借りて、馬車に乗り込んだ。

 馬車から実家の皆に挨拶をする。



「では、行って参ります!今までありがとうございました!」


「幸せになるのよ、ソレイユ!」


「何かあればいつでも帰ってきなさい。」


「娘をどうぞ、宜しくお願いします。」


「はい。ソレイユの事はお任せ下さい。

 私の持てる全ての力で、彼女を守り抜くと誓います。」



ローズブレイド家の皆に向かって、アレックス様が右手の拳で胸を叩いた。


(これ、ゲームイベントの騎士の誓いスチルだわ!)


 胸のときめきが止まらない。

 だってここに来て推しのイベを観れるなんて!


 ああ、私ったら最後まで締まらないわ。

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