異世界対策課サイハテ〜異世界人ふたりの証明記録~
海野 夏樹
プレシーズン
「解明」し「証明」する者
「解明」し「証明」する者 ①
人間、やれば何でも出来るものだ。夜、大型倉庫の中で一通りの作業を終えた
「ふう、ふう……
軽く着替えて服をしまった途端に、佐藤は今更ながら自分が酷く疲れていることに気がついた。この場で大の字に転がって休みたいところをぐっとこらえる。さっさと隣の自宅に戻ってシャワーを浴びようと考え、ショルダーバッグをつかんで立ち上がった。
「あー、すみません。佐藤さんだね。こんばんは」
しかし、突然名前を呼ばれて佐藤は硬直した。
声に振り返ると、出入り口に見知らぬ女性が立っていた。佐藤は警戒心を隠さずに彼女を
「なんだあんた。こんな夜中に」
「まぁ、警察の者です」
佐藤の身体がさらに
「まだ何かあるのかよ。しかもこんな時間に。というか、本当に警察か? あんたの格好、そうは見えねえぞ」
平均よりは高めの背に……容姿はそれなりで若く見える女性が、だらしなく白衣を着ている。佐藤にとって、まだ何かの研究員と名乗ってくれた方が納得がいった。
「そういう部署があると思ってもらえれば。さて、私がここに来た理由なのだけど……実は昼の時と同じでね」
「同じって……もうオレに話すことはねえぞ。犯行は難しいって話じゃなかったのかよ」
だからすぐに佐藤は解放された。もしも長く拘束するのなら、それなりの理由……例えば、佐藤が犯行をしたという証拠がいるだろう。
「まあ、私はあなたが犯人だと解明したけどね」
「……はぁ!? 冗談じゃねえ! オレがやったっていう証拠は!」
佐藤は焦る気持ちを抑えながらも怒りを彼女へとぶつける。
「では改めて、今回の事件をおさらいしよう」
おほん、と彼女は一つ
「三日前の昼過ぎ頃、宝石店の強盗があった。犯行は二人組で行なわれている。覆面で変装していた犯人が、店員に拳銃を向け、大きなリュックサック二つに宝石を乱暴に詰めている様子が防犯カメラに映っていた。後に車で逃走。犯行後、店はすぐに警察に通報し、捜査線が
ふう、と彼女は一息ついた。
「車は乗り捨てられているのが発見された。ナンバープレートは偽装されていたものだったから、車から犯人を割り出すのは簡単ではなく、どうしても時間がかかる。しかし、意外にも乗り捨てられていた場所が現場からそこまで離れてはいない場所だった為、目撃証言に期待が高まった。だが、残念ながらこれまで犯人に繋がるような有力な情報は集まっていない」
佐藤は不思議で仕方なかった。なぜ彼女は嬉しそうに笑っているのだろう、と。
「宝石やリュックサック、変装道具すら見つかっていない。それでも警察は、かすかな情報を頼りに徹底的な聞き込みを開始した。その中でも、犯行時刻にアリバイがない人物を数名特定した。佐藤さん。あなたもその一人だ」
「……あのなあ、昼に警察でも話したけどよ」
彼女に薄気味悪さを感じながらも、佐藤はそれに対する反論がある。
「確かに、警察で聞かれた13時15分から13時30分の間は、飯の休憩中で丁度職場に戻っている最中だったからアリバイの立証は難しいけどよ。それは犯行時刻であって逃走している時間は
ふん、と勝ち誇ったように鼻をならした。だが、その後の彼女の言葉で佐藤の余裕はすぐに消えることになる。
「佐藤さん、あなたが言いたいのは、盗んだ物やリュックサック、拳銃や変装道具を隠すような時間はないって事なんだろうけど、その謎は既に解明済みだ」
「……なんだと?」
佐藤は、動悸が激しくなるのを感じた。
――ありえない。分かるはずがない。 こんな事実、常識ある人間ならたどり着けない――
「私の場合は、犯人になり得る候補が多すぎて絞り込めなかったんだ。現場からそんなに離れていなくて、この15分の間にアリバイがない人物だもの。警察組織は優秀だ。その中からピンポイントで見つけてくるなんて」
「……なんだそのランタンは」
彼女は唐突にランタンを取り出していた。
「気にしなくていいよ。今はそんなに重要じゃない」
「……そうかよ。じゃあ、あんたが解明したっていう謎、教えてもらおうじゃないか」
佐藤の頭の中で警報が鳴る。分かるわけがないという自信は変わっていない。
だが聞いてはならない。
いや既にもう遅い。
残念ながら。
彼女は。
待ってましたと言わんばかりに口元をニッと開いていた。
「――アイテムボックス」
「っ……!!」
佐藤は必死に頭をフル回転させた。
――何故分かった。どうして知り得た。彼女は一体何者なのか。それよりもどうやってこれを切り抜けられるか――
「一応説明するけど」
そんな佐藤のことなど知らないというように、彼女は続けた。
「アイテムボックスとは、様々なものを、ボックスの見た目を遙かに超えて収納できる便利アイテムだ。ものによって、ルールや収納上限は決まっていたりするけど、今回の盗品や変装道具なんかは余裕だろう。佐藤さん、あなたは車に乗り込んですぐにそれらをアイテムボックスに収納し、人目のないところですぐに降り、何食わぬ顔で職場に戻った。最初、目撃証言に有益な情報がないのも仕方がない。『大きなリュックサック』があることを前提にしていたら見つからないさ」
言いながら、彼女は佐藤の持っているショルダーバッグを見た。
「私が思うに、アイテムボックス、それだろ?」
「……な」
何故、と言いかけてしまった。これを言ってしまったら自白したも当然になってしまう。佐藤は考えに考え抜いて。
「なんだそりゃあ! まともな事を言っているようには思えねえぜ!」
しらばっくれることにした。実際、今を切り抜けてしまえばどうにかなると佐藤は思った。こんなもの、分かっていても証明は出来ないだろう、と。
「まあそう来ると思って、これを持ってきました」
彼女はトートバッグを見せてきた。意識していなかったが、確かに彼女はずっとそれを持っていた。
「……そのバッグが何だってんだ」
「そもそも、アイテムボックスは
彼女は佐藤のショルダーバッグを指さしてこう言った。
「私は、それらにとても詳しいんだよ」
(詳しい、だと……)
佐藤は逃げ場が狭まっているのをひしひしと感じていた。
「詳しく解説すると、そのボックス内に擬似的な四次元空間を作り出す。その中に収納した物は重量が無くなり、さらに三次元的な体積を無視できるのだが……さて。その四次元空間の出入り口はいくつでしょうか」
「いくつってそりゃあ……いやいや知らねえよ。ありもしない物なんてわかんな……」
口を滑らせてしまうところだったが、そう言われれば、と佐藤は考えた。こんな謎の物を使ってはいるが、これのことをあまりよく分かっていない。だから出入り口はこの一つだと思っていた。思い込んでいた。
――まさか、彼女の持っているそのトートバッグは――
彼女はバッグの中をゴソゴソと
「んーと、確かこれは……世に二つと無いものだったね」
そこから覗かせたのは、女神の――
「……あんた、一体何者なんだ!」
「そういえば、名乗っていなかったね」
長い髪をなびかせながら、彼女は答えた。
「
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