第4話 急速に頭が空回りする瞬間

 俺は基本的にぽやっとしている……いや、ぽよっとしている人間なので頭の回転は非常に鈍い人間だ。春はあげぽよ〜。

そんなわけで仕事をしていても非常に能力が低く、常々人を無駄に怒らせてしまうどうしようもない人間なので救いがない。


が、その頭の歯車を動かすモーターが轟音を響かせてフル回転する瞬間がある。

それは、街をぽよっと歩いている時に気になるグループを発見した瞬間だ。


そのグループを見つけた瞬間にポーカーフェイスをキメ始める。

特に大きくリアクションしたりせず、思考のインプットとアウトプットの速度を上げる。

感情の揺らぎを抑え、顔を合わせずに情報の整理を始めるのだ。



「あの人、こっちを見てる」



などと悟られてはいけない、必ず無関心のフリをする。

そして、その人たちについていかない。脳裏に焼き付けるだけ。

そして思考することは一つ。



『彼らの関係性は、なんだ?』



例えばある日、お気に入りのラーメン屋に行こうとしたら店の前にスーツを着た二人組がいたとする。

恐らくは会社の同僚か、歳もそんなに離れていないので、先輩後輩。

会話の内容はあまり聞き取れないが、女の子の方が敬語を使っていたので先輩と後輩……あるいは上下関係にあるのだろう。



関心がないフリをして食券を買い、店の前で待つことにした。



人間、聞き耳を立てすぎると不思議と警戒されるので聞かないフリをしてスマートフォンを取りだして適当なSNSを開く。画面は見るが、情報は読まない。

いくつか情報が手に入ったので頭の中で整理をする。



話している内容は主に会社の上司や同僚の噂や嫌いな上司の悪口、好きな上司の尊敬できる点など。

やはり女の子の方は男の人に敬語を使っている。

あ、ちなみに俺は陰キャなので誰にでも敬語を使う。歳下にも使うし、同期であっても最初は敬語だ。



仕事が終わったから美味しいラーメン屋があるぞと、どちらかが誘ったのだろう。まあ、決して不思議な話ではない。

だが──



「会社の同僚とはいえ、異性とラーメン屋に入るのってファミレスとかよりもハードル高くないか?」



いや、陰キャだから知らんけど。普通はファミレスとかにならない?

ラーメン屋は駅からそんなに離れていないこともあり、歩いて数分の場所にガストとかかつ屋とかもある。

……デートにかつ屋だのガストだの連れて行ったら怒られるかもしれんが。



もしかしてもう付き合ってるのだろうか?

距離感が結構近いし、ボディタッチも多い。



「やっぱりさぁ、年度が変わる前に告白しようと思うんだよね」

「あ〜〜〜〜……⚫︎⚫︎さんに? やめといた方がいいよ」



告白。



告白する。というと、半分以上の人が愛の告白であると捉えるだろう。

俺もその半分以上の人のうちの一人だ。



「でもやっぱり告白を経ないと先に進めない気がするっていうか、ずっとモヤモヤしそうで……」

「相手さぁ、既婚だよ。それでOKされたらどうするの」

「そうなんですよねェ……」



ラーメン屋でする会話じゃねえだろ。

いや、ということは二人は付き合っていない。そして女の子は⚫︎⚫︎さんという人に好意を寄せているが、⚫︎⚫︎さんは既婚者。

男の人はシンプルに心配だから女の子が⚫︎⚫︎さんにアプローチをかけないようにしている。



まあ、不倫はアウトだという大前提があったとしても男にとって告白してきた女の子は据え膳には変わりない。

例えそれに毒が盛られていたとしてもだ。



「既婚者がいる時点でアウトなんだからさ、別の人を探しなよ」

「わかってるんですけど……」



聞き耳を立てていることをサトラレないようにラーメンを食べ進める。

ラー油を回しかけて味変、トッピングを食べ進めるなど極めて自然である事を心がけながら。



「食べ終わったなら帰ろう」

「はぁい……」



男の人は女の子の手を引いて店から出る。

その何気ない動作でなんとなく分かった。

多分、男の人は女の子のことが好きなんだけど女の子は決して報われない恋をしている。

男の人の恋も報われないだろう。



女の子の恋が潰えたらすぐに男な人に好意が向くほど、女の子は都合良く出来てはいない。



──もう二度と見かけることはないだろうけど、上手いこと身にあった鞘に収まるといいなぁ。



などと考えながらラーメンの残りをすすった。




紡木彩葉ステーションバー怪人



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