3分間だけでも俺TUEEEさせてくれるのはありがたいんだが、それが24時間の中でいつ発動するかわからないってピーキースキルにもほどがあると思います。 ~てか幼馴染がグレていくのもきっと俺と夏のせい~

浦松夕介@『エソラ』毎日18:05更新

第1話 普通に生きよう


 連日降り続いた大雨のせいで、川は増水していた。その日の学校からの帰り道にも雨は降った。


「待ってろっ、今助けるからっ!」


 俺は走っていた。


 タイミングよくも発動したので、呼吸や体力を気にせずに全力で走っていた。


 川を流されていく、赤いランドセル。


 子どもが背負ったままだと、10.0まで上昇した視力で捉えることができた。


 あと先を考えない小学三年生の俺は自分のランドセルを投げ捨てて、勢いのままに河川敷をかけ下りる。川岸を走って、流されていくランドセルの先回りをした。


 そして川に飛び込み、流れに逆らって泳ぎ進む。


 水流は予想以上に強かった。まぁ肺活量もアップするから溺れるわけがないのだが、時間だけはかけられない。謎に制約があるのだ、この力には。


「ゴボッ、ゲホッ、ゲホッ!」


「よし、もう大丈夫だ……!」


 流されてきたその子を川下で待ち構えて、受け止めたら両腕で水面から持ち上げて急いで岸に戻る。


 この時、実はちょっと間一髪だった。岸に上がったと同時に能力の発動が終わったのだ。あと少し遅ければ、俺もこの子と共に海に流されていっただろう。我ながら無茶をしたものだ。


 その子の背中を叩いて水を吐かせた。咳が止まらなかったので背中をさすり続けた。泣き始めたので、背中をポンポンと叩いた。


「ねこちゃん、ねこちゃんがっ! わあああん!」


 やはり怖かったのだろう。女の子は俺にしがみついたままずっと泣いていたのだった。


 やがて救急車とたくさんの大人が、川上から急いでやってきた。


 その子は俺の手から引き離され、救急車に乗せられて病院に連れて行かれた。面倒くさかったのはそのあとからだ。


 俺は知らない人たちに囲まれて色々と何か聞かれたが、彼らは俺の言うことが全く信じられなかったようだ。


 こんな子どもひとりで、増水したあの川を泳げるわけがないだろうと。


 どうやって助けたのか、怖がらなくていいから正直に言いなさいと。


「本当だよ、ぼくが泳いで助けたんだ……」


「そんなわけがないだろう、こんな急流を」


「本当だよっ!」


 最初は好意的だった彼らの目は、次第に俺に対しての猜疑心めいた目つきへと変わっていった。


 こいつはただのウソつきで、あの子を助けたヒーローは本当は別にいるんじゃないかとか、ひそひそと聞こえる。あれは今でも、わざと聞こえるように言っていたのだと思う。


 じゃあ、それならそれでいい。


 呼び止められたが、俺は自分のランドセルも拾わずに走って家に帰った。


 そのまま着替えて、逃げるようにベッドに入って寝た。


 たぶん、大人たちから疑われたのがおさなごころにショックだったんだろう。起きたら枕がぐっしょり濡れていたのをよく憶えている。


 思えばあの事件以来、俺は生まれつき持っていたこの能力について真剣に考えるのをやめた気がする。たくさん人助けしたいとか、どうすれば人類の役に立てるかとか、子どもなりに考えてみたりしたこともあった。


 だけど、やっぱり何の役にも立たないゴミスキルじゃないか。


 そう結論付けたら、不思議と心が楽になった。使命感だのなんだの、無理にそんなものを持って生きるのはやめようと思った。


 普通に生きよう。


 その一件から、それが一番だと悟ったのだった。









(あ、たしかあの子は……)


 それから一週間ほどして、俺はもう一度あの川に行ってみた。


 やっぱりまだあきらめきれない気持ちもあったのかもしれない。ひょっとしたら今あの川に行けば誰か、話のわかる大人の人がいるかもしれないと。そんな都合のいいことを考えていたのだろう。


 もちろん、大人は誰もいなかった。ただ、子どもが一人いた。


 その河川敷で、いつかどこかで見たような子どもが一人でサッカーボールを蹴っていた。


 リフティングしたり、つつみの坂に向けてボールを蹴っては拾っていた。なんとなく遠目から眺めていたら、その子はそこでずっとそうしていた。まるで、誰かを待っているかのように。


「あっ!」


 そして、その女の子は俺を見つけるなり近寄ってきて満面の笑みで言った。


「いっしょに遊ぼっ!」


「え? あぁ、まぁいいけど……」


 その日から、俺はその子と一緒に遊ぶようになった。


 もう7年前の話である。

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